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電子の向こう側で  作者: ビバ
第一章 魔法のある世界
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第四話「いわれなき証明、冷厳なる賛歌」

「ルミネお姉ちゃん」


 俺の部屋に来てぼうっとしているルミネに声をかける。

 魔法について聞くようになってから、よく部屋に来るようになった。

 俺は未だに軟禁状態で、食事とトイレ、風呂の時くらいしか部屋から出してもらえない。

 ちなみにトイレは水洗で、風呂もお湯に浸かれる。

 変に便利だが、魔法のおかげだ。魔法様様である。


 ルミネいわく、この水の使い方は貴族だから出来るという訳ではなく、日常生活で使うような火と水くらいは少し習えば誰でも使えるらしい。

 つまり俺も簡単に魔法が使えるということだ。

 早く指先に火を灯してキザなポーズ取りたい。


「いやーでもお姉ちゃんは凄いですよね! 魔法で器用に物を動かせるし、僕を持ち上げられるし、おまけに母さんにも見劣りしない美人だし。 僕もお姉ちゃんみたいな凄い魔法使いになりたいなー」


 興奮のあまりルミネをおだててべた褒めすると、ルミネは顔を真っ赤にしてぶつぶつ何事かを呟き始めた。

 ちなみに俺は家族の前では猫を被っている。

 自分の子供が三歳で生意気な口を叩いている姿を想像してみたら、何だか物悲しくなったからだ。


「お姉ちゃ……!?」


 ルミネがぶつぶつと呟き続ける中、突如として突風が吹き荒れた。

 部屋中の物がポルターガイストの如く乱舞する。

 咄嗟に頭を押さえて身を屈めた。

 嵐のように家具が飛び回り、瞬きの間に目の前に現れたレキに抱きかかえられて難を逃れた。

 家具に圧殺されるかと思った。


「あっ……、ご、ごめんなさい」

「どうしたの、お姉ちゃん」

「ちょっ、ちょっとグロームを驚かせたかっただけよ!」


 ふんっと真っ赤な顔を背ける。

 露骨な褒め方に逆上したのかと思ったが、嬉しさのあまり暴走したらしい。

 魔法少女危険過ぎる。


「ルミネお嬢様……」

「うっ……、今日はもう行くわね」


 レキの猛獣のような目に当てられ、ルミネはすごすごと帰って行った。

 レキからは魔法を教われないことは知っているので、どうにかルミネからご教授願おうとしているのだが、ルミネに取り入ろうとすると暴走して追い返されてと、最近この繰り返しだ。

 褒めなければいいのだが、ルミネはなかなかに無口な性質なので、懐柔しようと試みているのだ。

 あわよくばレキがいない隙……、レキが着替えや風呂に入った瞬間を……。




 一か月かけてルミネを懐柔した。




「お姉ちゃん!」

「んん……? こんな夜遅くにどうしたのグローム」

「魔法を教えてください!」


 この一か月、ルミネの懐柔に全てを費やした訳ではない。

 何とかレキを説得し、レキの付き添いがあるなら家の中を歩き回れるようになった俺は、昼はルミネに積極的に話しかけ、夜は眠気で落ちそうな意識をどうにか保ち、レキの行動パターンを探ったのだ。

 そして今、レキは風呂に入っている。

 彼女は俺が寝入ってから自分の事をするのだ、真に強敵であった。


「うーん……。でもレキに止められてるし……」

「お姉ちゃん、いいえお姉さま!」

「!?」

「僕は貴女のような高貴で気高い魔法使いになりたいのです……」

「高貴で……、気高い……」

「お姉さま程の才能はないかもしれません、しかし! きっとレキは恐れているのです、僕がお姉さまと比べた時、お姉さまのあまりの才能に嫉妬してしまうかもしれないから」

「し、嫉妬?」

「僕は何があろうとお姉さまをお慕いしております、たった一人の大好きなお姉さま! ですからどうか、この愚弟めにお姉さまのご慈悲を!」


 天を仰ぎ、身を抱き、大仰な身振りで語りかけた。

 我ながら大根役者である。

 「しかし!」の辺りから即興だったため、ただいま顔面レッドハートである。

 たった今何を嘯いたのか覚えていないほどだ、顔から火魔法が出せそうだ。

 薄暗い夜でよかった。


 だがこれでいい、ルミネは少しロマンチストな気があるのだ。

 以前の無口っぷりも、ぼうっと私の騎士様とか白馬の王子様だとかに憧れちゃって妄想していたむっつりさん故なのだ。むっつりスケベな俺には分かる。分かるはずだ。

 そしてこんな芝居がかった頭のおかしい台詞と演技を向けられたことがないルミネは、心を揺らしてしまうはずだ。はずなのだ!


「し……」

「し?」

「しょ……、しょしょしょうがないわね」

「お姉さま!」

「おお弟のためだし? 姉として、当然というか? ノブレスのオブリージュというか?」

「愛しています、お姉さま!」

「わ私もあいしゅっ……!」

「なんて? アイス?」

「な、何でもないわ!」


 相変わらずチョロかった。


「ふっふっふ……。何せ私は二十が寿命の高貴なる魔法使いですからね」


 何処か遠く、明後日の方向を細めた目で見つめ、呟いている。

 何かキャラ入っちゃってるこの子。

 重力を操る高貴なる女魔法使いとか呼ばれそう。


「そんな早死にしてどうするんですか」

「え? あぁ、グロームは知らないのね」

「なんです?」

「魔法使いにとって短命というのはとても名誉なことなのよ」

「……は?」


 何言ってるんだ。

 早死が名誉とか、名誉の戦死の方がまだ理解出来る。


「魔法使いとして優秀であることの証明だからね」

「どうして短命が優秀さの証明になるんです?」

「どうして……? うーん“そういうもの”だからよ。グロームも立派な魔法使いになればわかるわ!」


 科学が発達していない影響……というより、探求者がいないのだろうか。

 こう、哲学的なことを言っちゃう格好良い人が、この世界にはいないのだろうか。

 理由も無い早死にが美徳だという認識は、何か違う気がする。


 地球の、平和な世界の価値観の押しつけにしかならないだろうが、三十六歳まで籠城した俺でも……


 だからこそ


 死んでしまったら、何にもならないのではないだろうか。

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