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電子の向こう側で  作者: ビバ
第一章 魔法のある世界
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第三話「夢幻の如く」

 三歳になった。




 この頃になると普通に会話が出来るようになり、知りたいことを片っ端から聞いたり、レキの持ってくる本を読んで文字を習得したりと、一気に知識を得られるようになった。

 レキが“特定の本”だけは絶対に読ませてくれないので悶々としているが。

 知らないことを知っていくことが、今の趣味だ。




 ここまでに得た知識を整理しておこう。




 まず、この世界は「パルス」と呼称されている。

 電気などが通っていないのは俺の部屋だけかと思っていたのだが、どうやら電気を活用する技術自体、存在しないらしい。

 電灯について聞いてみたら首を傾げられた。

 つまり日本ではないどころか、地球ではないどこか別の星……なのかもしれない。

 宇宙を股にかけたと考えると、何だかとても壮大な気分になる。


 そして魔法は存在していた。

 魔法が発達している代わりに、科学技術の発展が芳しくないようだ。

 姉ルミネは痛い子ではなく、本物の魔法少女だということが判明した。

 理論は不明だが、呪文を唱えると発動するらしい、“そういうもの”らしい。うーん、わからん。


 またこの世界にはいくつかの王国があり、ここもそのひとつで、父親は辺境を任されている貴族。

 国どうしでの戦争も普通にあるらしい、恐ろしい世界だ。

 つまり兄フリックも筋金入りのコスプレイヤーではなく、ガチで剣を使った殺し合いをしているということだ。残念なイケメン扱いしてごめんなさい。

 不思議なことだが、そんな国盗り合戦がある中でこの世界――つまりこの星が「パルス」であると定義付けられ、そして広く一般的に理解されているようだ。


 人の寿命は平均五十年らしい。

 さらっと言われてビビったが、戦争があるから長生き出来ないのだろうか?

 どうも「優秀な人ほど早死にしやすい」らしいが、よくわからん。

 勤勉な人はハゲやすいとかならわかるが。


 そして信じ難い事実だが、月がふたつある。

 これはもう、窓の外にあるふたつの月を自分の目で見てしまい、なんというか反応に困った。

 半開きの口も閉じずに停止していたら、レキは俺の身体をぺたぺた触りながら「何か聞こえたんですか、それとも何か感じましたか」などと聞いて来た。ふたつの月への理解が追い付かず呆然としていると、グローム様、グローム様と身体を揺すられ捲し立てられた。

 幻聴と幻覚を心配するとか、俺を何だと思っているんだ。


 このふたつの月はそれぞれ青色と赤色で、早速レキに聞いてみたところ、

青い方は単純に「月」や「青い月」と呼ばれ、

赤い方は「赤い月」や「シャンドラ」と呼ばれているらしい。

 同じ月という存在なのに、赤い月にだけ固有名詞があるのもまたおかしな話だ。


 正直、ゲームの中にでも入ったんじゃないかと思っている。

 もしくはまだ夢の中なのか。




「レキ、あの星はなんて名前?」


 ふと思い、月の近くで輝いている星を指して可愛らしく聞いてみる。

 赤い月にシャンドラなんて名前を付ける世界なのだ、何かしら面白い名前が聞けるかもしれない。


「星……ですか? ごめんなさい、私は知りません」


 少し俯いて謝罪するレキだが、レキはかなり博識だ。

 いつも小難しい本を読んでいて、正直何故俺のメイドをやっているのか解らないレベルだ。

 レキは悪くない。


「どの星にも名前付いてないの?」

「少なくとも私は聞いたことがないですね」

「聞いたこともない?」

「だって名前を付けても役に立ちませんよね」

「……ソウデスネ」


 どうやらパルスに占星術の類は存在しなさそうだ。

 科学が発展しないのも納得のパルスクオリティだ。


「じゃあ何で赤い月は……、シャンドラは名前が付いてるの?」

「あー、アレは……」

「ん?」

「……もう遅いですし、寝ましょうか」

「あっはい」


 なんだこの露骨な態度、見た目が子供だから通じると思っているのか。

 中身は反骨精神しかないおっさんだ、何かを知っているようだが……。

 だがレキには嫌われたくないので穏便に済ます。

 しかし隠すようなことなのか、この世界の重大な秘密とか、もしくは“どこぞの馬鹿”が勝手に名付けて勝手に広まったとか。

 重大な秘密をレキが知っているはずもないし、ここは馬鹿が名付けた説を推そう。


 馬鹿と言えば、ここがどこなのか、何故俺がここに生まれたのか。

 夢なのか、幻なのか、未だに理解しがたい状況ではある。

 この世界で確実に三年を生きた実感がある。記憶がある。

 こんなことを聞くのは馬鹿としか思われない。

 しかし、だからこそ聞けるのも幼い今のうちだけかもしれない……。


「レキ、俺って液晶の向こう側から来たんだ」

「えき……しょ? なんですか? グローム様ってたまに変な事言いますよね」


 液晶という単語が無いのだ、解かるわけがない。

 液晶……、画面を解かりやすく言うなら何になるだろうか。

 この電子機器が無い世界で言えば、絵や鏡になってしまうのか?


「鏡の向こう側、かな?」

「鏡ですか? まさか鏡同士の間を移動できるという、古代の一対の鏡のことですか」

「え? なにそれ」


 とんでもない物が出てきてしまった。

 ふたつの鏡の間を移動出来る物が存在するのか。

 新幹線や飛行機なんて目じゃないな。

 もしかして古代の文明はかなり発展していたのか?


「あれ、違うんですか。一対の透幻鏡という伝説の道具ですよ。伝説なんで実在してるか知りませんが、転移魔法無しでもゲンシが云々のテレポートという力を使って移動できるらしいですよ。古代人の道具は不思議ですねえ」


 桃源郷……じゃなかった、透幻鏡か。

 不思議っぷりで言えば、魔法も十分不思議だが。

 しかしルミネが部屋で使う魔法――風魔法らしいが、ああいった魔法だけでなく転移魔法なんていうぶっ飛んだものもあるのか。

 ゲンシ……原子のことだったりするのだろうか。

 生憎テレポートの知識なんてないので理解できないが、剣と魔法が当たり前に使われ、科学の発達していない世界には不釣り合いな単語だ。

 そもそも日本語が出るはずがない。

 そういった名前の古代魔法のようなものがあったに違いない。


「転移魔法って俺も使える?」

「え? あ……、おやすみなさーい」


 背を向けて、寝てしまった。

 そう、レキは魔法に関することを教えてくれない。

 見せてくれない“特定の本”のひとつがそれだ。


「レキ、起きてる?」

「寝てまーす」

「レキ、別の世界って存在すると思う?」


 もぞりと動いて、レキが振り返った。

 いつも鋭い目は今は柔らかい、これは呆けている時の顔だ。

 レキは欠伸をひとつしてから、気だるげに返答する。


「どんな世界ですか?」

「魔法が無くて、戦争が無い世界」

「うーん、あったらいいですねー」

「別の世界からこの世界に人が来た、みたいな話って聞いたことある?」


 平和な世界を思い描いたのか、遠い目をしているレキにダメ元で聞いてみる。

 伝承でもなんでも、そういった話があれば、何か解かるかもしれない。


「聞いたことないですね。別の世界なんて、そんな考え方したことありませんでした」

「……そっか」


 レキが知らないとすれば、もうこの部屋で俺が知れることは少ないのかもしれない。

 これ以上の情報を求めるならば、外――あの頃の俺が一番嫌っていた、陽気な日光の下に出るしかない。

 そして俺より多くの本を読んでいるレキが知らないならば、そこらの本から簡単に知ることは出来ないはずだ。

 というかそもそも地球なんて存在しない、違う世界って可能性もある。

 もしそれでも探すのならば、世界を旅する……、なんていう浪漫溢れる行動もあり、かもしれない。


 夢幻かもしれないが、少なくとも今の俺は何にも染まっていない、好きに動ける子供なのだから。

 まずは外に出よう、危険な世界でも観光出来てしまうくらい、体力を付けよう。


「明日、外に出ていい?」

「ダメです」

「あっはい」

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