第一話「新たなる世界」
朝だろうか、閉じた瞼の裏で妙に強い光を感じ、目を覚ました。
ぼんやりと意識が回復してきて、重い身体を動かし目を擦ろうとした。
動かない……いや、正確には動かしづらい。
それもちょっとやそっとではない、まるで筋肉が固まっているみたいに自由が効かない。
どうしたことだろうか、この二十年の不摂生が祟ったのか、それにしては唐突過ぎはしないだろうか。
これはまずい、非常にまずい。ナニの処理に困る。
とにかく瞼を上げて、状況を確認し……ちょっと待て。
そもそも俺、部屋のカーテン閉め切っていたよな。
親の金でそこそこの遮光カーテンを買って、昼でも安眠できる環境を整えていたはずなのだ。
液晶の光かと思いたいが、この光は妙に力強く、暖かい気がする。
おかしい、何かがおかしい。
陰気な俺の部屋に、こんな陽気な光が射しているということは……
誰かが部屋に入った?
「ヴォオオオ……」
いけない、悶絶して変な声を出してしまった。
しかし鍵は閉めていたはずだ。
親か、親が鍵を開けて入ってきたのだろうか。
だとしたら液晶に向けて放出した俺の子孫達を見られてしまった。
カピカピになっていたらバレないかもしれない、白いカピカピは前衛的なデザインなのだ。
下がすっぽんぽんの言い訳は……
そうだ、誕生日の嬉しさのあまり、騒ぐ心を抑えきれず脱衣してしまったとか、なんかそんなんで大丈夫だろう。
いや、大丈夫じゃないな。
「アァー……」
先ほどから羞恥のあまり思わず声を出しているのだが、何だかまともに言葉が出ない。
久しく会話なんてしていなかったせいだろうが、あんまりだろう。
とにかく目を、この重い瞼を上げなければ。
「ヒッ……」
どうにか瞼を上げると、知らないおじさんがいた。
いや、俺も三十六歳とか随分いっているが、こう、人生経験が違う感じだ。
茶色に近いくすんだ赤髪に、青い瞳。
彫が深い顔立ちで……日本人じゃねえ!
思わず恐怖で声を上げてしまった。
何だろう、家宅捜索か何かだろうか、警察?
SATだかSHITだかがドアをぶち破って来たとか?
画像フォルダーに幼女のアレでナニな画像が無いわけではないが、まさかそんなんでこんなおっさん一人を捕まえに来るはずないだろう。
おじさんは少しだけ口元を緩めると、俺に手を伸ばしてきた。
その笑みは今の俺には悪魔のようだ。
俺を強引に部屋から引きずり出そうというのだろうか。
「……」
息をのんで、目を瞑った。
頭を撫でられているようだ。
なんだ、この状況は。
このおじさんはロリコンだったのだろうか。
幼女のアレな画像を持つ俺を褒めているのだろうか。
ゆっくりと目を開けると、おじさんは何事かを呟いて去って行った。
まるで賢者モードのような柔らかな笑みは、俺の上方に向けられていた。
ふとそちらを見上げると、テラベッピンなお姉さんがいた。
金色の髪に青い瞳。
こちらを見下ろし、女神のような微笑みを投げてくる。
「オォゥ……」
俺は混乱した。
女神のような女性に微笑まれているという状況に混乱し、視線を逸らしたが、更なる混乱が待っていた。
俺の体がとても小さくなっている。
どういう事だろうか、そして小さな体をこの女性に抱かれている。
エロい気分に……ならなかった。
理解が追い付かず悶々としていると、おじさんが閉めていった扉が開く音がした。
そちらに目をやると、炎のような真っ赤な髪の女性がいた。
その背後には先ほどのおじさんと、同じ髪色の若いイケメンと美少女がいた。
俺を抱いている金髪の女性は先ほどまで穏やかな表情をしていたとすれば、今来た真っ赤な髪の女性には正反対の焦りの色が伺える。
真っ赤な髪の女性の視線が俺に突き刺さっている。
訳が分からず、金髪の女性に視線を戻すと、呆然として首をかしげていた。
真っ赤な髪の女性は突然土下座のような格好で、何事かを言う。
対して金髪の女性は相槌を打って、最後に深く頷いた。
真っ赤な髪の女性は安堵の表情で俺を見て、ゆっくり近づいて来た。
「ンアァ……」
真っ赤な髪の女性は近くで見るととんでもない美人で、その腕に突然抱き上げられて変な声を上げてしまった。
その鋭い目つきは今は安堵で緩んでおり、なんだかエロい気分になった。
その日から、真っ赤な髪の女性が常に傍に居るようになった。