プロローグ
鍵をかけ、閉鎖された部屋で、液晶だけが微かに光を発している。
カーテンの向こう側、外はもう真っ暗だろう。
時刻は二十三時五十分。
星と月と、街灯の時間だ。
あと十分で俺の三十六歳の誕生日が訪れる。
祝ってくれる人はいないが、呪ってくれる家族はいる。
身を粉にして働く社畜の両親は、朝から晩まで液晶の前に鎮座する勝ち組の俺を、今も下界(一階)から呪っているはずだ。
だがもうすぐ俺の誕生日なのだ、そんな些細なことは今日は――今日も忘れよう。
「ケーキよし、恋人よし」
自分の誕生日を盛大に祝うため、イケメンだったら様になるであろうパーティーハットで申し訳程度に薄毛を隠した。
自家発電式のクラッカーに弾を籠めるべく、右手で息子を握りしめる。準備は万端だ。
自慢のフォルダーの中でも選りすぐりの“彼女”を画面いっぱいに表示させた。
超次元偶像精霊ブルームーンちゃん
二十年間愛した俺の恋人だ。
青い髪、青い瞳、純白の肌、そして兎の耳を持つSFアニメのヒロイン。
主人公である戦擦刻造が出す、万病を治す“超次元白濁液”をいつもかけられている不屈のヒロイン。
そんな彼女は、今日も液晶の向こう側でM字開脚している。
“電気で動く元気なキノコ”が刺さっている。
恍惚の表情だ。
「はぁっ……、はあっ……」
残り時間は……まずい。
あと十秒しかない。
俺は誕生日をブルームーンちゃんと祝うべく、精神を加速させる。
右腕が吊りそうだ。
心臓の鼓動もどこか異常に不安定で、早い気がする。
誕生日を間近に予想以上に興奮してしまったのだろうか。
日付変更まで残り三秒というところで、込み上げてくる開放感に身を任せる。
「うっ……」
下腹部に今までにない程の熱いものを感じ、全身をなにかが駆け巡った気がした。
次の瞬間には視界が淡く霞む。液晶の光が酷く目に痛い。
心臓を鷲掴みにされたような息苦しさと共に、頭に電流が走ったかと思うと、次の瞬間にはぼんやりと思考が働かなくなる。
手放しそうな意識の中、白いナニかがまるで雷のように、衝天するような凄まじい勢いで射出されたのを見届けて――
俺は昇天した。