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扉の向こうへと

 大晦日。

 辺りは真っ暗。

 初日の出なんてまだまだ先。

 スタンバイするにも早すぎる。

 そんな時間に、俺は呼び出されて。

 違和感を感じてはいたものの、その正体は分からなくて。

「……終わらせる?」

 その正体が、コレ?

 いや、まだ分からない。

 どれだ?

 どんな嘘を吐いてた、って言うんだ?

 俺を傷付けない為の嘘?

 つまり、俺が傷付く真実?

 もしかして、

 やっぱり、

「アズサに彼氏ができた!?」

「えっ」

 俺が傷付く真実、ってこれ位しか無いじゃん!

 最近、少し素振りがおかしいとは思ってたし!

 その正体がコレだとは思ってなかったけども!

 いや、もしかして、とかは思っていたけども!

 まさか本当にこんな風な結末だったなんては!

「いや、違――」

「じゃあ彼女か!」

 アズサにその気があったなん――いや、アズサなら有り得る気がする。

 男とイチャついてる様子よりは、女とイチャついてる様子の方がまだ想像しやすい。

 いや、待て。

「アズサが誰かと交際する、なんて有り得なくね?」

「自分で誤解を解いてくれて有難う」

 なんだか、とてつもなく怒っているような声が聞こえてきた。

 その声の主に視線を向けてみれば当たり前だがアズサが居て。

「さりげなく馬鹿にされた気がするけど、そこは無視しておくけど」

「いや、馬鹿になんてしてませんよ」

 まぁ、慌てすぎたせいで途中から思考回路がバグっていた気もする。

「……でも、俺が傷付きそうな真実が思い当たらないけれど?」

 あ、『実はアズサが俺を憎んでいる』とかあったらヤバい。傷付く、なんてレベルの話じゃない。

「はぁ」

 と、アズサの口から溢れる溜め息。

 見れば、その表情にはもう怒りも無くて。

「溜め息を吐くと幸せが逃げる、って言うけれど?」

「アンタが言うの?」

「ハッ!? もしかして、さっき散々溜め息吐いていたせいでアズサが俺に嘘を!?」

「もうそれで良いや」

「良いの!?」

「はぁ」

 と、またもや溜め息。

 そして、アズサは大きく息を吸い込んで、

「私、もう大学決まってるの!」

 叫んだ。

 この真夜中に、叫んだ。

 近所迷惑にならない程度に、この真夜中に、叫んだ。

「……、へ?」

 大学。

 決まってる。

 うん。

「で?」

「え?」

 志望校が決まってる、って意味では無いだろう。きっと。

 志望校が決まってる、って事はかなり前にもう聞いたし。

 だから、今の『決まってる』は、合格と言う意味だろう。

 で、だ。

「俺が傷付く真実、とやらは?」

「……え、だから、今言った」

「……うん?」

 今、言った。

 大学が云々。

 つまり、

「あ、おめでとうアズサ!」

「……うん?」

 首を真横に数センチ倒し、アズサは頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

「あ、そっか。アンタ、私の志望校知らないんだっけ」

「え、あ、うん」

「アンタの第一志望と同じ、●●大学、だけど」

「へぇー、良かったじゃん」

「AO受験で、もう受かってた、んだけど」

「あ、あの時受かった生徒、ってアズサだったんだ」

「……怒らないの?」

「え、なんで」

「いや、『決まってない』ってずっと言い続けてたし」

「うん」

「わざと別の学校受けるフリして難関大学の受験勉強するフリしてたし」

「うん」

「……怒らないの?」

「え、なんで怒るの」

 首を真横に数センチ倒し、俺は頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

「だって、嘘吐いてたし」

「でも、別に気にしてないし」

「だとしても、私、嘘吐きだった訳だし」

「嘘も方便、とか言ったりするし」

「でも――」

「まぁまぁ、別に良いじゃんか」

 いつものアズサらしくも無く、弱々しい声で謝り続けるアズサへ、

「その嘘ももう終わったんだし、さ」

 俺は、必要以上に力強く言い放った。

 一年が終わる日に終わった、アズサの嘘へと。

「それに、アズサが俺の為に何かしてくれた、ってだけで嬉しいしね!」

 一年間でようやく開きかけた扉の向こうへと。

「……うっさい」

「ごめんって」

 錆びる前に少しだけ拝めた、扉の向こうへと。

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