もう終わらせたくて
「……寒いんだけど」
「なぜ前回と同じ轍を踏んだ!?」
「これだから外はイヤなのに」
「そっちから呼び出したんだよね?」
数時間が経過して。
「そう言えば、アズサは今年はネトゲしてないんだな」
「そんな余裕が無いからしてないんじゃない」
「人気者がそれで良いのか」
「去年のアレでとっくに失墜してるし……」
「なんかゴメン」
またもやYシャツにコート羽織っただけの姿で、アズサは川辺に居た。
その横にはしっかりと着込んだ俺。なんだか罪悪感がマッハでヤバい。
「へっくしょい」
とか何とか考えていると、アズサの口から意外な音によるくしゃみが。
「……着る?」
自分のせい(?)でアズサが風邪を引いたりしたら悲しいなんてレベルの話じゃない。
大体、この時期に風邪を引いたりしたら勉強にも影響が出そうだ。
散々教えてもらったのに風邪を引かせるなんて、恩を仇で返しているようなものだ。
だから、こんな風に自分のコートを差し出すのも不自然じゃあ無いハズだ。
決して下心から差し出した訳じゃ無いですよ、と胸を張っても良いハズだ。
「……ガタガタ震えながら言うセリフ?」
「ぅえっ」
見てみれば、確かに自分の体は思い切り震えていた。
でも、この震えの原因はきっと寒さだけじゃあない。
この提案が拒絶されないかが、とても不安で心配で。
だから、そんな恐怖が、震えを生み出しているんだ。
多分。
言える訳も無いんだけれども。
「大丈夫大丈夫、馬鹿は風邪引かないから」
「それもそうね」
「納得すんの!?」
と驚く俺の手からコートをひったくったアズサは、すぐさまそれを羽織った。
サイズが微妙に合ってないコートを、元々着ていたコートの上から羽織った。
二重のコートは暖かそうで、むしろ暑そうで、ほんの少しだけ羨ましかった。
「……で、アズサはいきなりどうして初日の出を見ようなんて言い出したのさ」
寒さを紛らわす事も兼ねて、俺はずっと考えていても分からなかった事を聞いてみる。
「アンタが寒さに震える様子を見たかったから、とか?」
「それは流石に嘘だよね!?」
「うん」
「俺は真面目に聞いてるんだよ!?」
そんな風に茶化されると、なんだかとても悲しくなってくる。
「分かってる」
「じゃあなん――」
「言いにくいから」
遮るように、被せるように、アズサが口を開く。
その面持ちはとても真面目なもので、
「私、ずっとアンタに嘘吐いてたから」
気まずそうで。
「……え?」
嘘?
アズサが?
「アンタを傷付けたくなかったから、嘘吐いてた」
俺に?
なんで?
「黙ってる方が、騙してる方が、アンタに悪い気がして」
傷付ける?
何の話だ?
「だから、もう終わらせたくて連れ出してきた」