時は過ぎ去っていく。
「はぁ」
大学受験。
全国の高校生の頭を抱えさせている(であろう)四字熟語。いや、四字熟語じゃあないけど。
僕だって例外では無いので、涙目になりつつもノートにペンを走らせる年末を過ごしている。
涙目になっている理由が違う気がしない訳でもないけれど、現実から逃げたって良いだろう。
「溜め息を吐くと幸せが逃げる、って言うけれど?」
「アズサが居れば充分だから大丈――」
「ちょっと出かけてくる」
「待って! いつも自分からは出かけないアズサがいきなり何を決意しているの!?」
「いや、私が居れば大丈夫、って言うんだったら何処かに行かないと」
「そんなに俺を憎んでたの!?」
「……そんなに元気があるならどっちにしろ大丈夫よね」
「ハッ!?」
AO入試やら、学校推薦やら。年内に受験を片付ける方法だって幾つもあった事にはあった。
でも数ヶ月前。俺はそれらから、ことごとく不名誉で不恰好な三文字を戴き続けてきたのだ。
不合格、と。
それはアズサも同じらしい。
そして今に至り、俺は勉強に追われている、と言う訳だ。
「……っにしても、アズサは一体どこ受ける気なんだ? アズサがさっきから開いているページ、俺には全然理解できないんだけど」
でも、それはアズサだって同じだ。
「って言うか、これ本当に大学の問題? 問題文からして日本語じゃないっぽく見えるんだけど……」
「アンタはまず、自分の大学の心配をした方が良いんじゃないの?」
「だーかーらー、もう少しツンデレっぽく言ってくれても良いんじゃないかな俺もかなり傷付くよ!?」
「よしあともう少し!」
「何で!?」
どこの大学を受ける気なのか、は頑なに教えてくれないアズサだが、使用している参考書を盗み見るに相当ハードルは高そうだ。
どうして受ける大学のレベルが全然違う二人が同じ場所で勉強しているかと言えば、ここがアズサの家のアズサの部屋だからだ。
どうして僕がアズサの部屋にお呼ばれして勉強会(?)に参加しているのかと言えば、それがアズサから僕への提案だったからだ。
『アンタが浪人しているところなんて見たくないから』
とか言ってくれたのが、一ヶ月前だっただろうか。
この俺がアズサからのそんな提案に対して首を横に振る――そんな事は勿論ありえないので、速攻で了承し承諾し時が経って今。
アズサのデレ(?)期間も終了したのか、アズサの絶賛毒舌乱用モードは今日も今日とて絶好調だと言う訳だ。
「はぁ」
おっかしいなぁ。今年の1月1日は、もう少しだけアズサとの距離も近かったような気がするんだけれどなぁ。
豆まきもバレンタインも新学年も運動会も七夕も夏休みも学園祭もなにもかも、全然今までと変わらなかった。
もしかして、俗に言ったりもするらしい『愛想を尽かされた』って奴だったりしちゃったりもするのだろうか。
勉強を見てもらえていしら、完全に見放されている訳では無いのがせめてもの救いだと思えば良いのだろうか。
「はぁ」
アズサ。
大学受験。
その後の事。
考える事が多すぎて、もうどうすれば良いのかは分からない。
「溜め息を吐くと幸せが逃げる、って言うけれど?」
「逃げるだけの幸せが残っていれば良いんだけどなぁ」
「……、」
そんな風にウジウジ悩んでいたとしても、時は過ぎ去っていく。