その事を。
「っと、すっかり忘れてた」
早朝。
カンカンに怒った親からの電話で帰宅を促された俺は、アズサと共に帰途についていた。
その途中。
「ほい」
と、俺はポケットからキーホルダーを取り出してアズサに手渡した。
「……鏡餅?」
三段鏡餅の上に、小さい蜜柑。
そんなビジュアルの正月っぽいデザインのキーホルダーを、アズサに手渡していた。
「あぁ。今日、アズサの誕生日だろ? だからプレゼントに、さ」
元々は、これを渡す使命のためにアズサを連れ出していたんだった。
それなのに、すっかり舞いあがっていたせいで忘れてしまっていた。
俺は馬鹿か?
俺は馬鹿か。
そうだった。さっきまでの話で分かったんじゃないか。俺は馬鹿だって。
「ハッピーニューイヤーにハッピーバースデーとは、縁起が良いんじゃね?」
「プレゼントよりお年玉が欲しい、かも」
「ひでぇ!」
たしかに、プレゼントのセンスには自信がないけども!
いやまぁ、プレゼントのセンスの無さには自身があるけども!
「冗談だって。涙目にならなくて良いから」
と、声に若干の笑みを滲ませながらアズサは俺の横に並んで。
ちゅっ。
と。
「え?」
「じゃ、さっさと帰って親に言い訳しなよー?」
アズサはくるくる回りながら俺の前に踊り出て。
「じゃーまた来世ー!」
笑顔で、そう言って。
「いや今世で会わねぇの!?」
俺のツッコミを無視しつつ、たたたっ、とアズサ家の方へ走っていった。
「……」
それを見届けて、俺はぼーっと立ち尽くしていた。
そして、思い出す。
今の、去り際の笑顔が。
さっき俺達を照らしていた初日の出よりも眩しかった。
その事を。