アメリカンドッグ
「初日の出を見に行かないか?」
12月31日、14時13分。
つまり、大晦日。
そんな日にこんな俺のそんな言葉を聞いて、俺の目の前に居る少女は、露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。
見ているこっちが不安になってくる程にまっ白い素肌。
もう何年間も切られずに放置されているまっ黒い長髪。
その辺の小枝よりも脆そうに見えてくるまっ白い四肢。
そんな少女を包み込むブカブカサイズのまっ黒いYシャツ。
少女の細く白い足を床の冷たさから守るまっ白い靴下。
一般にジト目と呼ばれる形に細められたまっ黒い両目。
そんな風貌の少女――アズサは、露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。
そしてその表情のまま、かしょん、と缶ジュースのプルトップを上げ。
そしてその表情のまま、くいっ、と缶ジュースを傾けて中身を飲んで。
「やだ」
たったの二文字で俺を拒絶した。
拒絶後、アズサはすぐに視線をパソコンのモニターに向け、キーボードをカタカタ。
「なんで休日の朝っぱらから起きてないといけないの?」
「『なんで』ってそりゃあ、ファーストサンライズはハッピーなニューイヤーにしか無いんだぜ!?」
俺は英語に自信が無いし、成績もよからぬラインすれすれだ。
それでも。
「一年に一度の、一年で最初のイベント。ぜひアズサにも楽しんでもらいたいのだよ!」
エセ英語を交えてテンション高く、声高らかに声色高く。
「だから、な!」
俺には使命がある。
だからその使命を真っ当に全うするために。
「だったら私は一年に一度の、一年で最初のネトゲイベントを謳歌するから気遣い無用です」
「そんな事いうなよマイハニー! 一緒にここから徒歩五分ほどの川辺に行って初日の出見ようぜー!」
「私はアンタのハニーなんかじゃない」
俺はコイツを、外に連れ出さなければならないんだ!
……って。
「もう少しツンデレっぽく言ってくれても良いんじゃないかな少しは俺も傷付くよ!?」
「なんでアンタにデレないといけないの?」
照れ皆無な純度百%な真声。
うっかりぽっきりぐっさりいっちゃいそうだぜマイグラスハート。
「だいたい、私は休日は外に出ないって決めてるの」
「そこのコンビニでアメリカンドッグを買ってあげよう」
だが、割れたグラスとは鋭利なものだ。
鉄のサビをこそぎ落とすこと位なら、できないことも無い。
だから。
「……べ、別にアメリカンドッグが食べたいから初日の出を見に行くわけじゃないんだからねー」
錆びてしまった鉄の扉を、若干開きやすくするくらいならできる。
のかもしれない。
「とか言えばツンデレ大好きなアンタは喜ぶの?」
「あんな棒読みなツンデレはツンデレじゃねぇ!」