第6話 大賢者オーラ 2
目立たぬ大きな枝が河にしな垂れかかってる岸に船を寄せていく……。
そろそろ、船を下りて陸地を行く為である。
しばらく前からアグニも炎の精霊のサラマンダーは消して、船に同乗していた。河の上を巨大な炎の長いトカゲのような塊がゆらめきながら付いて来ていては目立ち過ぎていたからである。それにそれを消す事で、敵の襲撃が有るか多少の予測も付く為である。
あくまでも、気休めでは有るが、何も動きは無い様であった。
途中、大きな支流への分岐点をわざと細い方へ抜けて開けた場所も通っていたが、追っ手の姿は見えなかった。
それが確認できた為、それならば陸地を急ぐ選択をしたのである。
敵の襲撃を避ける大きな移動距離は稼げたが、目的の地にはここから陸地を行かねば、かなりの遠回りになるからであった。
「そろそろ良い場所に着たぞ、団長。オーラの所に行くには、ここまでが船の限界だ」
「分かった。そうするとしよう、ここはアグニの方が地理に詳しいからな」
フレイヤの号令で船を岸に着けた。
おのおの各人が荷物を持って岸に降り立つと、最後のフィーネとアグニをのせたままゼロスが岸に船を引き上げた。なんて力だ!。
「どうやらここまでは追いついて無いようです」
フィーネの手をとって岸に下ろすと、ゼロスはフレイヤに近づいて小声で耳打ちした。
その声を聞いてアグニも、ゼロスに抱えられながら地面に降り立った。
「そうだな、まだ馬でもここを確実には暗闇で判別出来てないだろうしな。ま、それも時間の問題だろうが……」そう言うと、ソウの目の前で船の先頭をちょいとつまみ上げた。
「あらよっ!」
……と、どうだろう。小さなアグニの手でそれを摘みあげると今まで乗っていた木造の船であった筈のものが『ザクッ、ザクッ!』っと大きな音を立てて、右に、左に折れ曲がって、小さな手の平代の木の紙片へと変化して見せるのであった。
「……!」
それを、目を皿のようにしてるソウの鼻先にさぞ自慢げにヒラヒラさせて、腰のポケットの中にしまうのであった。「なんという物を持ってるんだ」……とソウは心の中で呟いた。
それを見て取ったフレイヤはソウの傍でアグニの船の説明をしてくれた。
「それは、スヴェライが作るソウルの魔法が掛かった船だからな……。アグニしかないが」
「持ち運びは便利だぞ。ま、そこら辺の勇者さんには持てない代物だがなっ!はっは~ん?」
「こらっアグニ!さっきからソウにばかり言葉が過ぎるぞっ!だいたいお前ばかりいつも戦果であげた道具を貰いすぎるぞっ!」
しかし、フレイヤの言葉にまだソウへの悪戯心があるのか、何かとソウへ絡みたがるアグニは減らず口を叩く。
「お、な、なんだなんだ……、あたしの船を自慢して何が悪い!なんだ急にフレイヤも『目標にします!』なんて持ち上げられて、このにわか勇者の肩を持つなんてゼッカイの騎士の名が泣くぞっ!!」
フレイヤの説教が珍しく自分に向いた為、アグニは弾ける様に言葉を繰り出すと、その場で敬礼(これはフレイヤに忠誠を誓うポーズ)を胸の前にしてフレイヤに十倍返しぐらいの反撃に出るのであった。
「なにを……」―――― しかし、それは見事にフレイヤの心を図星だったらしく、フレイヤは再び真っ赤な顔でアグニを追いかけるのであった。
それを見ながらまた全員は呆れ顔でアグニとフレイヤの追いかけっこを見守るのであった。
しかし、見れば見るほど何処から見ても小学生のガキンチョでだな……。
慎重はフレイヤの腰ほどしかなく、朱色の髪を真ん中からペタッとさせて大きな髪飾りで後ろに流してる。暗闇であまり分からないが金の刺繍のある魔導師の着る重たそうなアルブに護身用のカズラを着けているが、首から下げたエトワールを今にも踏みつけそうであった。
全くガキンチョ以外の何者でもない。何処にそんな大そうな力があるのやら……?。
「こう見てるとまるで可愛い子供にしか見えないんですがね……」―――― ソウは微笑ましい仲の良い戦友の追いかけっこを見ながら傍に居るフィーネに呟いた。
「誰が『可愛い子供』だっ!!」そう言うと走りながらアグニはソウに向かって片手を振るのであった。「いっぺん、灰になるまで燃やすぞっ、オラァッ!!」
ボウッ!
再び船で貰った火炎地獄のような炎が地面から噴き出してソウの身体が業火に包まれるのであった。(「もう燃やしてるし。。。こればっかだな……本当にボク主人公なのかな……?」。ソウ談)
再び皆が笑いに包まれると、それを見てアグニがオーバーな感じでまたひとりごちた。
「こんなんで本当に国王を探し出せんるんだろうな~、フレイヤ?。なんか心配になってきたぞ。1人はこんなソウルの力もヒヨッコな光の国人と……」そう言うと今度は傍で笑ってるフィーネを見て呟くのだった。「お姫様を連れての旅で、本当にクルーガー王を探せるのか?」
「あら、……私ですか?」すると自分を指差してフィーネは口を尖がらせた。「私は、皆さんの足手まといにはなりません!」
「え?なりませんっ!……って、ファールーン王妃のようにソウルの腕が凄いとか?」――――期待に胸膨らませんた目でアグニが聞き返した。
するとフィーネは自信たっぷりに胸を張るのだった。
「お母様のような素晴らしい魔法の数々は使えませんが、『絶対防御』の魔法は使えます!はい!」
ドンッ! ――――そう声を張り上げると両の手を左右に水平に開くと外に向けた手の平を開いた瞬間、フィーネを透明の光のバリアが包む球状に一瞬で現れるのであった。
「ほうー……!」
皆が一瞬で感心したようにため息をついた。
コンコンッ!
「これは、中々凄いソウルだね。物理攻撃も、火炎も効かないのとか?」―――― アグニがバリアの中のフィーネに尋ねる。
「はい!大丈夫です!」
「そうかい!」――――すると、ふいにアグニは右手を握ってフィーネのバリアへ何かを投げようと構えた。
「アグニッ!!」―――― アグニの握られた手に真っ赤に燃える火球が現れて、何をしようとしてるのか分かったフレイヤがアグニに向かって叫んでいた。
アグニが火球を思いっきり投げつけた。
「キャッ!!」
びっくり顔のフィーネだったが、アグニの火球がバリアに衝突しただけで後には夜空に飛び散る火球の火花が綺麗に落ちてくるだけだったのである。傷一つ付いてない。
「なんて事するんだ!姫様に怪我があったらどうするアグニーッ!!」
「……」
しかし、アグニは怒り心頭のフレイヤの事など眼中に無いかのようにフィーネだけを見つめてそう言った。
「なるほど……言葉に違わず『絶対防御』のバリアと言う訳か……お見事!」
そして、フレイヤに向き直って真剣な顔つきで言うのだった。――――「これしきの攻撃で敗れるぐらいなら、この先連れて行くなんて出来ないだろ、え、そう思わないか、団長?」
フレイヤも口を閉口してしまった。
やり方は不味いがアグニのやっている事はこの先の旅の危険に比べれば序の口なのは言うまでも無かった。試してる訳では無いが、連れて行けるだけの最低限の力でもあるのかと、言葉ではない、別な方法で確かめた……という事なのだった。
そこら辺も、伊達に王国の導師団を預かってる人間なので、それがどれ程重要か分かった上での行動と言うわけなのだろう……子供だが。
そのおよそ子供らしからぬアグニの行動に、今日は冷静な筈のフレイヤがツッコミ役をやっているという状況に、少し怒ったような顔をわざとして見せてアグニをひと睨みして肩を叩いた。
フレイヤの了解を得たと感じるとアグニは、バリアを解いたフィーネに向きなって手を叩いた。
「ま、中々の防御力は有りそうだったが、……他にはどんな魔法が使えるんだ?」
その言葉にフィーネはお礼を言うように頭を少し下げて、そしてアグニの言葉にさっそうと答えた。
「いいえ、コレ一つです!はい」―――― にこやかな笑顔でフィーネは礼儀正しくアグニの無礼な質問に答えてあげた。
「何が『コレ一つです、はい!』だぁ、コラァーーーッ!」―――― 瞬間的にアグニの怒りが最高潮に達し地獄の火柱がフィーネの足元から噴き出したが、それを瞬時にフィーネも『絶対防御』のバリアで防ぐのだった。
あ……下からも大丈夫なんだね……密かにフレイヤとゼロスとソウが3人で並んで納得するのだった。ウンウン。
「こいつら2人とも置いて行かないと、どうなっても知らないぞ、フレイヤ……とほほ」
半ば泣きそうな真似をするアグニだった。
しかし、そんな様子を見ているフィーネがついに反撃に出た。
「いいえ、アグニ様には悪いですが、それ程心配しないでもこちらにはコレが有ります。ジャーーーーン!」
「な、なんだそれは……?」
見ればフィーネはソウの現代世界から持ってきたある物をアグニに向かって突き出してるのであった。
「ソウ様の、携帯電話のスマートフォンと言います。これ、この通り『メロディ音』なる物も鳴ります! (きっぱり!)」
ソウの携帯電話を自信たっぷりにアグニの前に見せて、フィーネは着信音のメロディを鳴らして見せた。
「ええーっ?!なんでそれで大丈夫に成ってしまったのー、フィーネ様ー?!」――――ソウの心の中は凍りついた。さっきあれ程シリアスなフレイヤへのツッコミを入れた切れ者に、なんで『携帯電話で大丈夫!』と言い切ることが出来たのか?……逆にその潔さに涙を流しそうだった。
「この『メロディ』なる物にも相手は凍りつくでしょうが……、さらに、この武器には(←武器?)相手を驚かす『写真』なる物があるのでーすっ!!!一度この『写真』で敵を射止めれば……」
カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ! ……
そう言ってフィーネはアグニの姿を携帯のカメラで連射した。眩く光るシャッター音とフラッシュ――――「その魂をこの『写真』に取り込む事がデキルノデーーーースッ! どうです? コレで、ソウルフレイムを吸い取られて敵は身動き出来ないかも知れません」――――アグニは完全に打ちのめされたように呆然と立ち尽くした。
「えー、いつからそんな事フィーネさん勝手に言うようになったのーーー!? 嘘だろ、そんな事信じる奴が何処に居るんだ……」―――― ソウは、あまりにもフィーネの妄想が突拍子も無くて、完全に引いてしまっていたが……。
フレイヤとゼロスとアグニが一斉にソウを振り返った!
!
ま……まさか、こんな話を信じる人が居たのかーーーーっ!?
「そ……そうなのか、ソウ? そんなに凄い武器を、お前まだ隠してたのか、水臭いじゃないか……」
ゼロスとアグニが震えながら近づいてきた。
「そうですよね?ソウ様。まだ、説明する時間が無かっただけですよね?。……何しろ、ゼロス様もアグニ様にもまだ会ったばかりだったから。しかし、もう怖いもの無いです。ね、ほらここを押すと違う法隆寺の鐘の音が、着信音に切り替え出来るんですよね~♪……」
いつ覚えたのかフィーネはゼロスとアグニの前で携帯で着信音を変えて見せる離れ技を実演して見せて、2人に音を聞かせて喜ぶ始末。
それには携帯を知らないゼロスとアグニは目を丸くしてその実演販売まがいのフィーネの言葉に乗って喜んで音を聞いて声を上げてるのであった。
「すごいぞ……、凄い武器じゃないか……ソウ……」
続いてフィーネが見せる『写真』でさっき連射したアグニの姿を見せると、手で目を覆い隠そうとしてる彼女の慌てた顔が何枚も出てくるのであった。それを見るとアグニが胸を抑えて後ろに後ずさった――――「危なく魂を吸い取られるところだった……危なかった……」アグニはふらつく足で一人事を言っていた。
「あ、これは文句言うな……」
そして、ふらふらとアグニはふらつく足取りでソウに近づいて来るのを見てソウは直感的に分かった。
調子に乗ったフィーネのその『写真攻撃』を見せられて、なんでこんな物で自分を撮らせたんだと怒鳴って地面から火炎を出すのがソウには容易に想像できた。(←なんせ、さっきから食らってるのでいい加減アグニのパターンは読めたのだ!)
で、近づくアグニの傍から逃げようとするソウを不意に物凄い力が襲い掛かってきた。アグニの使ったソウルの力の金縛りだった!。
動けないソウに近づき、アグニは胸倉を凄みのある力で掴んでそう言い放ったのである。
「お兄ちゃん、私にもこの『携帯電話』っていう武器、少し見せて欲しいな~……お兄ちゃん!」
ドカーーーン!
ソウは、その両手を神様にお願いするポーズに組んで上目遣いに可愛く見つめるアグニを見て、夜空の星に成るが如く空高く打ち上がって行くのであった。
その影で、いつのまにかソウの携帯を自分の物のように使いこなしてるフィーネに軽く嫉妬してるフレイヤが、涙してる事などソウは知らずに……。(←いやそんな深刻な話じゃないだろ、コレ)