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第5話   大賢者オーラ  1

 船が流れに乗って緩やかに進んでいた……。

 

 『魂無き戦士』=グラズヴォルという勇敢だった戦士に襲われた所を突如現れた『炎のソウル使い』と呼ばれる小さな女の子に助けられ、ソウ達は何とか河を下って逃げる事に成功した。

 もしあのまま戦っていて勝てたかどうかは分からなかった。フレイヤやゼロスならこのような戦闘も一度や二度では無いから旨く倒せたかも知れないが、自分の力では逃げ切れなかったろうと考えたら恐ろしかった。


「しかし、そんな事になってるんじゃないかと思ってた所だよな……、もし、もう少し遅かったらあの連中に八つ裂きにされてたかもしれないよな、ゼロス~!」


「ああ、恩に着るぞ、アグニ!」


 ゆっくりと進む川面に揺れながら、小船を押す炎のトカゲの上の声の主に、ゼロスは大声で応えるのであった。


「しかし、よくこんな夜更けにわしらの事を助けに来ようと思ってくれたな、お前のような偉い奴が?」


 ゼロスの大声に思わずソウはあたりを見回してしまった。敵が近ければ見つかってしまいそうな大声だ。

 しかし、岸は離れていて近くに動く物の影は無さそうであった。ふと気付くと同じく回りを見回したフィーネと眼が合って、二人で小声で笑ってしまった。

 だが「偉い奴……」などと皮肉を言われて怒りそうな性格に見えていたアグニと呼ばれる少女は、以外にも声も強めずさらっと返事をして来るのであった。


「なーに、ここ何日か周りに居る精霊達の様子がおかしくなっていたんだ。何か悪いソウルが満ちて来てるようだった。しかし、今日に限ってその予感が当たりそうでならなかった。そこにお前達が城を出たと火の精霊も私に言いに来たんだ。『お前達に危険が迫ってる』と急を告げ来たのだ。夜でも仕方ない、来るしか無かったよ……腐れ縁だからなっ!」


 そこまで言うと、ゼロスにトカゲの上から身を乗り出して舌を出してからかう仕草をするのだった。顔が悪戯っぽく笑ってる。

 それを見てフレイヤも笑っていた。


「お前が来なかったら危なかったよ、礼を言うぞアグニ。ま、それでもどうあっても私らはお前の所へ向かっては居たから、会う事には成っていた筈だけどな」


「オーラの所に行こうってのか? あたしを誘って……。ま、あたしが居なかったらどの道あいつには会えないだろうからな、そうだろうとは予想してきたよ、いかなあたしでも!」


「そうだな、そう言ってくれると思っていたよ、さすが我が王国のソウル導師団長のアグニだけの事はある!」そう言い放ちフレイヤはアグニに拍手を贈る仕草をする。


「おべっかは聞き飽きた。――――しかし、事実だから許すがっ!」


 すると、怒って腕組みをするフリをしたがそこは笑ってゼロスとフレイヤを見やり炎のトカゲの頭をポンポン叩くのであった。全くこの3人は能天気である。


 船を出してここまでの間に王を探す為にフレイヤが王妃に呼ばれた事と、光の国よりソウが召喚された事、王妃に前もって言われていたゼロスが供になるように呼ばれて居たことを説明していた。

 しかし、このアグニという少女はどうなっているのか……?

 その説明をして居る間も、このアグニはフレイヤと同等かむしろ上からのような態度で話を聞いていた。同じ王国の騎士と導師団の団長なのだから仲は良いのは想像もつくが、それにしても偉そうでソウはびっくりしていた。

 大人のゼロスやフレイヤに対して同等の口をきくのだから。

 どう見ても見てくれは小学生5、6年生といった所なのに……。


「え?で、この『ソウ』とか言う奴が、光の国の勇者さんなのかな?」


 すると、アグニと呼ばれる炎のソウル使いがまさにトカゲの”上から”物を言ってきた。――――「まるで、そんな凄い勇者には見えないんだが、アーン?」


「何を言うアグニ!お前もさっき見たろ?。ソウはあのかつて勇名を馳せた戦士『グラズヴォル』を1人倒したのだぞ。凄く無いか?。まだ、実践経験も無く騎士でも無いのに、さすが勇者だ。なぁ~ソウよ!」


しかし皮肉めいた物言いで聞くアグニに、嬉しい事にゼロスが直ぐ様反撃をしてくれた。

旅を始める時にあったあのぎこちなさが一変、ソウをかばってくれるぐらいゼロスはソウの理解者に成ってくれたみたいだった。

敵になれば誰よりも怖く、しかし、信じてくれるとこれ以上の心強い味方は無いと、肩を組まれた(ま、体格の差が有り過ぎて首を汲んでるんだが(笑))ソウは嬉しくてたまらなかった。


「そうか……。ま、手のかかりそうな奴を一人減らしてくれた事は認めようか……。しかし……」そこまで言って、また偉そうにアグニは上から目線でソウをキッと正面に見据えてこう言い放った。「さっきからあたしの事見て、身体の小さなガキンチョって思ってるみたいだが、そんじょそこらのガキンチョとは比べられないぐらいソウルちからが有るんだから、見くびって貰ったらお前さんの頭○○の穴から突っ込んで、○○の○○で○○してやるから、覚悟しとけよーこの○○野郎ーっ!!。えー、分かったかーっ?!」―――― カーッカカカカカーッ!と大笑いした。


 ええーっ!?

 

 あまりの伏字の多いエゲツナイ罵倒に、ソウはすっかりシュン……となって消え入りそうな声で一言、「はい、分かりました……」と答えるのであった。どんだけ偉そうなんだよ(笑)。

 そこに乗船してる全員が大笑いしていた。


 シュンとしたソウの横にフレイヤが並んで座ってきた。


「まぁ怒らないでくれ。あれで根は良い奴なんだがな……ちと、口の利き方を知らんから」―――― そう言って笑っている。


「しかし、何であんなに偉そうなんですか? あんな”ガキンチョ”なのに……。あ、まさか、魔女のようにあれでウン百歳とか……?」


 ソウはアグニの使っていた言葉をわざと引用した。


「いや……それは無いが」フレイヤは困ったようにまた笑った。


「この世界では『ソウルフレイム』が強い事は何よりも『優先する』とは言い過ぎだが、それに近いものはある。その力の使い方次第では手も触れずに相手を倒す事も出来るし、世界を変える力と成り得る物かも知れない。……ま、そうは思いたくは無いが。故に、『ソウルちから』が強い者は子供でも登用される、それがわが国の現実だ。しかし、あいつのように軍にまで入って活躍する子供など珍しいがな」


 フレイヤは少し暗い顔になっていた。やはりアグニのような子供は他に居ないらしかった。あんなのがわんさか居たら、うるさくて仕方ない!


「ま、あれで軍団では言ったとおりソウル使いを束ねる導師団の団長だ。部下の前では『地獄の炎帝』と呼ばれて恐れられてるくらい滅多に無駄口も利かない奴だが……。珍しいな、何かあったのかな?。ま、あたしらの前ではいつもあーなのだがな」―――― フレイヤが思わず呟いた。


「確かに『地獄』と呼ばれるのは納得です……」


 フレイヤとも顔を見合わせて思わず笑いあった。


「しかし、仲良いんですね?あんなに口悪いのに怒りもしないで……」――――すると、ソウも思わず思ってたことを聞いてしまっていた。「あ、すみません、あんまり知りもしないで余計な事を聞いて……」


「いや、構わないさ、それも事実だからな。しかし、あいつは何処で戦っても誰よりも強い頼もしい味方だ。それは保証する。ゼロスと同じで1人で1000人分の働きをする。2人で2千の軍より強いだろうな?いや、その倍は行けるか?」


「2千?」――――思わず聞き返した。


 フレイヤの顔が満更嘘でも無さそうなのを見て、ソウは気の遠くなるような気がした。「どんだけ強い人たちなんだ? それも1人は子供だってのに……」。


 そんな話をするフレイヤの横顔を見つめながら、ふと『信頼し合ってるんだな……』とソウはしみじみ思うのであった。

 しかし、本当に美しい顔立ちだった。

 どんな状況でも決して曲げなさそうなを意思の現れのような顔立ち。その凜とした佇まいでありながら、流れるような剣で敵を蹴散らすその強さは圧倒的。ソウが今まで見てきたこの短い時間でさえ、フレイヤの凄さは感じる事が出来る。

 けれど、それで居て剣技をここまで到達してる者なのに、戦闘で無い時のフレイヤは聡明な優しい瞳でソウを見ていてくれる、美しい女騎士なのであった。

 強いのだが、乱暴ではない……。


「不思議な人だな……」


 そんな事を考えながらソウはフレイヤの横顔を見つめて思っていた事を口にしてしまっていた。


「は、……何か言ったか?」


「え、は……はい。綺麗な人だな……と、え?」―――― ソウは自分で何を言ってるのか分からず思わずそんな言葉を口走っていた。


「へ?」―――― フレイヤはソウの言った意味が分からず、目を真ん丸くした。


 自分が何を言ったのか理解した瞬間、ソウは慌てて胸の前で両手を振りながら急いでとにかくフレイヤに自分の口にした言葉を訂正しようと騒ぎ出したのである。


「あ、いや、なんて事言い出したんだ、俺。いきなり僕の顔をフレイヤさんが覗き込んで来たもんだから、つい見たままに口が勝手に言ってしまって……。ごめんなさい。別にへんな事言おうとしたんじゃなくて、強くて、素敵な人だって思ってつい……」


 そこまで言ってるソウの言葉を耳にしながらもフレイヤの顔は見る見るうちに真っ赤になっていき、下を向いたままフレイヤは肩を震わして何かをブツブツと言ってるようだった。

 後ろに座っているフィーネとゼロスもソウの大声でびっくりしてフレイヤとソウがどうしたのかと見つめた。


「尊敬出来る人だな……って思って……」それでもソウは思っていた事を言い切ろうとした。


「僕、向こうではフィーネさんはああ言ってくれたけど、本当にダメな人間で。その……フレイヤさんのような人に成りたいって思って、勝手に目標にしたいって思ってた所で……」


 そんなソウの真剣な言い訳を聞いていると、フレイヤも少し落ち着いてソウを見ることが出来るようになった。


「すみません……」しかし、ソウは勝手に続けて怒ったと思ったフレイヤに頭を下げた。


 すると、フレイヤはそっと肩に両手をかけてソウの頭を上げさせた。


「いいや、お前はダメな人間なんかじゃないさ……。何故ならお前はその手で、私やフィーネ様を2回も救ってくれたじゃないか、それも目も前で。誰でも出来る事じゃ無いんだぞ。思ってても中々出来るもんじゃない、救いたいと本気で思ってくれたからなのだろう?そんな事思ってくれたお前がダメな人間なんかである筈が無い。それはここに居る全員が知っている。忘れないでくれ。私は、お前に目標にしたいなんて言って貰えて光栄に思ったよ。有難う、ソウ」


 思いがけない言葉を聴かされて、ソウは自分の耳を疑った。

 自分をダメな人間じゃないと――――、

 逃げてばかりで誤魔化してばかりの弱虫な自分を『ダメな人間じゃない』と言い切ってくれた人が居てくる事が信じられなかった。

 今まで生きてきてそんな事は一度も無かったから――――。

 自分の事を『光栄に思う』などと言ってくれた人が今までどこに居てくれたろうか? ――――ソウは独りでに涙が出てきている事に気付かなかった。それほど、ソウにはフレイヤの 言葉が嬉しかったのである。

 見上げれば、フレイヤの肩越しにゼロスもフィーネもソウを見つめてくれていた。

 その顔がフレイヤの言うとおりだと言わんばかりに大きく頷いてくれるのであった。

 まだ会ったばかりのアグニでさえ『そうなんだろ? 知らんけども』と声を出さずに口だけを動かして笑って見せてくれた。

 生まれて初めて人に認められてソウは心の底から嬉しかった。その嬉しさは叫びだしそうな程に。

 ……で、その嬉しさの勢いのままフレイヤに抱きつこうと両手を伸ばした時だった――――


「フレイヤさーーーーんっ!!!……」


 ボォウッ!


「誰が『地獄の炎帝』で、”納得”なんだつぅーのっ、調子にのんなっ!」


 抱きつこうとしたソウが身体を反転した時、その上半身がいきなり巨大な火炎に包まれるのであった。

 ソウが真っ黒い墨になった身体で顔を横に向けると、炎のトカゲの上でソウを睨みつけるアグニが不適に笑ってるのであった……。

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