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第3話   暴風と炎  1

 目を覚ますと、暗い部屋の中に居た。

 石造りの部屋に腰を下ろして壁に背を預けて居た。


 今まで気を失って居たのか?

 …っとそこまで考えた時、自分がフレイヤの前で剣を出現させた事、そして、その剣でオークを自分の手で倒したこと……。

 いや、よく考えたら最初は学校でハリネズミに出会い、それでもって何か大きなドアを開けて覗いたらそこへ落とされて……。

 考えれば考える程夢のような事が起こったが……それも夢だったのか?

 ソウの頭の中をいろんな考えが瞬時に浮かんでは消えた。

 しかし……。とそこまで考えた時だった。


「ですから、私が行けば王国の道には詳しいです。父を私の手で探し出したいのです!何度行ったら分かってくれるのですか、フレイヤ様ッ!」


 綺麗な声がソウの薄ぼんやりとした頭に届いて来た。それも凄く透き通った素敵な声で若い元気な声だった。


「分かっています!それは何度も聞いています!しかし、王国を御守りする役目の私がそんなことを出来る筈が無いではないですか!幾ら皇女様の申し出でも、それがどれ程危険かどうか何度説明したら分かって頂けるのですかっ!」


 そしてもう一人はフレイヤの声らしかった。

 しかし、どうも先ほどの声の主と揉めてるらしかった。

 ソウが顔を上げるとまた言おうとした二人がソウの動きに一瞬気付いて顔を向けた。


「良かった。ソウ様お疲れ様です。お気付きに成られたのですね?」――――皇女様と呼ばれたフレイヤの前に居る娘がソウを見つめていた。金色の長い巻き毛が美しく、見つめるその瞳には清く透き通った湖水に差し込む朝日のような輝きが宿っていた。

 そして、その前に居るフレイヤもソウを見つめる眼が最初の時よりも少しだけ優しくなっているような気がした。


「無事で良かったな。いきなりあんな力を出すなんて、さすが光の国の勇者だ。姫様が認める事だけはある」


 そう言ってフレイヤが少しだけ笑いかけてくれたような気がしたのが嬉しかった。

 しかし、そのフレイヤの前に居る人が分からない。

 ソウは思わずおそるおそるそれを口にしていた。


「ソウ様って、あの……」


 すると、問われたフレイヤの前に居た皇女がそれを見抜き笑い出した。


「そうでしたか、私は名前はフィーネ。分かりませんでしたかね? 失礼しました。しかし、これなら分かり易いですかね?この姿なら説明も不要ですか……」


 そう呟くと、何かを口の中で唱えるように動かした。

 すると皇女と呼ばれる美しいこの女の子の姿が流れるような光に包まれると、見る見るうちに小さな姿へと変わりだしたのである。

 背や手も足も縮みかわりに身体に短い毛のような物が生えだした。


「あっ」――――そう、それはあのソウを扉に誘い、後ろからこの世界に落としたハリネズミの姿そのものだったのである。

 それを見て取り、ハリネズミは満足げに大きく頷いた。


「そうです。さっきは済みませんでした。なにぶん急を要す事態ですので、少し手荒なやり方をしてしまいまして、その……申し訳ございませんです」

 そう言うと、短い足で宙を蹴っ飛ばすしぐさをして笑いかける。

 その姿を見て思わず笑いそうになった。

 しかし、それを見るとなお一層不安が胸をついた。ソウは思っていたことを呟いた。


「どうして、僕なんかを勇者なんて……、僕にはそんな資格も、それにこんな弱虫な僕には勇気もないのに……?」


 しかし、ハリネズミは首を振った。

 すると再び元に戻る呪文を唱えたのかフィーネの姿が人間の姿へ徐々に変化していくのであった。

 そして、フィーネはさらに笑顔を見せてソウに向きなおった。


「さぁ、そうですか……。選んだ私の眼が節穴だって言うんですね。そうでしたかね? しかし、私は沢山の方を見てきました。だから間違っていません。見て来たからこそ私は自身たっぷりです! もしかすると、私の選択に異論が有ると……?」

そう言うと悪戯っぽくフィーネがソウの顔を覗き込む。パッチリとした大きい眼を真ん丸くして見つめてる。強烈なカワイサだ!


「いや、そんな事とんでもない……!」


 それをやられるとソウは全力で両腕を振ってフィーネの意見を肯定した。まったくなんて悪戯好きのお姫様だ。こんな所に突然連れてこられた上に姫様なんて人に睨まれたら命が幾つあっても足りないよ。ソウは内心怖くなってきた。


「そうなのか、なら信じるしかあるまいソウよ。それにそのソウルフレイムの力も申し分ない。ま、実際、手からソウルフレイムの剣を生み出すなんて今まで聞いたことがないがな……」


 フレイヤもソウの力の凄さは認めていた。ソウの手から出た2本の剣の事を言っているである。

 ソウルフレイムと言われる力の事はソウには分からなかったが、それでも自分の事を勇者だと言ってくれた事は嬉しかった。しかし、何かの間違いだとはなんとしても信じて貰わないと、このままだととんでもない事に巻き込まれそうである。ソウは密かに怖くなってきた。


 見上げると、そこは石壁の暗い部屋であった。

 何かの倉庫?

 天井の高い壁にそって沢山の武器が下がっている。そこはファールーン王妃が言っていた旅の支度を準備している部屋らしかった。

 木製の頑丈そうなテーブルにも様々な長さの剣や槍が転がっている。フレイヤが詰めたのだろうか、その横にある革袋も大きく膨らんでいた。

 ここから、王家の墓とやらにこのフレイヤ達は向かうと言ってるのか……。


「……って事で私の言ってた事は信じてもらえましたねぇ。さぁ、みんなで行きましょう、道は険しいですよ。レッツゴーッ!」


 フレイヤとソウがフィーネの言い分に納得したと思った次の瞬間、フィーネが元気よく声を上げて出発ののろしを上げた。

 しかし、それがまたさっきの口論を再燃させる着火剤となった。


「いや、だから何でそうなるのですか!? さっき言った通り姫様は連れて行けません! いくら王様の事が心配でも姫様に何かあったら、私が……」


 だがそこまでフレイヤが言った時だった。


「フレイヤ様に迷惑はかけません。自分の身は自分で守ります。そして死の国へ向かうには私が行けば王家の墓を抜けて何よりも早く着く事が出来ます。だから……だから、私を連れてって下さい!」


 フィーネがフレイヤの言葉を遮って叫んだ。

 必死の想いでフィーネが言っているのがソウにも簡単に分かった。

 父王クルーガーを誰よりも心配してるのは容易に想像が出来る。

 しかし、だからと言って連れて行けるものではないのだ。向かうのは恐らく『不死の王』を閉じ込めた死の国だ、とても大事な皇女様を連れて行ける場所でない。だが、王家の墓を通ればかなりの近道を出来るのも事実。王家の墓を開けられるのは王家の人間だけなのだった。


 それに……、それに、自分を連れて行けと命令をフィーネは決してしなかった。

 それだけで、フィーネが自分を、いやこの国の人間を一度も家来と考えていない事が分かったのである。

 普段からそうゆう人間なのだ。王家の人間だから特別だなどと、クルーガーを初めファールーンもフィーネも一度も口にした事がない。

 それなのに今は初めて自分に必死に訴えてきたのだ。恐らく自分にこれ程わがままを言ったのも始めてだろう。今まで、自分を苦しめるような事をフィーネから一度も聞いた事がないから。それほどまでにフィーネは必死なのだった。フレイヤはフィーネの必死の顔を黙ってそこまで見つめていた。


「分かりました……。王を優先した場合それが一番らしいですね。フィーネ様の言う通り一緒に行きましょう」


 フレイヤが何かを観念したように笑った。


「やったー、だから聖騎士様は最強なんですよーーーっ。さぁ~ソウ様、一緒に出発ですよーーー!」


 思わずフィーネがフレイヤに抱きついた。フレイヤは困ったように笑っている。

 その横で、ソウが「なんで自分も行くんですか?」……とはしゃぐフィーネを押しやっている。


「それ携帯電話って言うんですか~。へぇ~電話が携帯出来るんですか~。へぇ~どっちかって言うとスマホなんですか~? ま、全体的に電話って言うのも、スマホって言うのもどんな道具なのか分からないんですがね?エヘヘ……」


 フィーネは、さっそくソウの横にぴったりとくっついてソウの手にした携帯電話を覗き込んでしゃべり始めた。まったく元気なお姫様だ。

 そんな姿を見ながらフレイヤも笑って見ている。しかし、すぐに笑ってばかりも居られないと思い直して頭を振った。

 姫の装備もしっかり準備しないと行けなかった。それも、敵が城の召喚の祭壇のエリヤにも侵入してきたのだ、いくら城の外れとは言え出発は急がなければならないのは分かりきっていた。こうしてる今も敵が迫ってるかも知れないのだ。


 カン! カン!



『!』―――― 不意に石塀を叩く音に耳にし、一気にフレイヤの顔が険しくなる。


 慌ててフィーネもフレイヤの背中に駆け寄り、ソウもその場で飛びのいた。

 今想像した敵がもう現れたのか? ――――しかし、予想よりも早すぎるが。

 しかし、それでもなんとしてもこの場から無傷で突破しなければならない。こんな所で足止めされるわけには行かないのだから。

 フレイヤの頭にそんな考えを瞬時に巡らせる。

 暗い通路の先に見える入り口に目を向けて、フレイヤは愛剣の柄に手をかけた時だった。


「ここはいつからこんな物騒な場所になったんですかい、ここ召喚の広場に入ったかと思ったら、近くの草むらに2匹のゴーグが隠れていましたぜ。ま、ここへのついでに2匹とも倒しときましたが、こっちは大丈夫でしたかね、団長?」


 聞き覚えのある太い声が聞こえてきた。


「ゼロス……。なんでこんな所に居るんだ? 本当か!?」


 フレイヤの口が信じられないと言わんばかりに思わず口走っていた。入り口に手をついて立ち尽くす巨漢を、小声でその名を呼んで確かめようとした。


「はい。いかにもこのゼロスです。団長が危険な任務に出るときは必ずお供をすると言っておいたではありませんか? ガハハハッ!」


 2メートルは軽く越す巨大な巨躯をゆすって、入り口に立つゼロスと呼ばれた碧い鎧に身を包んだ騎士がフレイヤを見つめ大声で笑っていた。

 フレイヤは言葉に出来ない想いでゼロスを見ていた。

 ゼロスはフレイヤの王国騎士団近衛隊の中でも1、2を争う勇敢な騎士で、さらにフレイヤの腹心の部下だった。


「ファールーン王妃が自ら私の元へ来て下さって、これから旅に出るフレイヤ様の力になれと言ってくれました。もう王国の騎士を辞退した私に……」


 その言葉を聴いてフレイヤは胸の詰まる想いがした。

 そうまでして自分を頼ってくれて、信頼して旅の味方まで集めてくれた事。

 フレイヤは、王妃がどれだけ自分に尽くしてくれている事に感謝の気持ちを胸に刻んだ。


「私ももちろんフレイヤ様と供にクルーガー王を探す旅について行かせてもらいます。私が来たからには何者も団長に近づけさせません、良いですかな!」


 そう言うと、さらに大声で笑い飛ばすのであった。

 それを見て、フレイヤとフィーネも安心したように、ホッと胸を撫で下ろすのであった。

 フレイヤはその最大の気遣いをしてくれたファールーン王妃に改めて忠誠を胸の中で誓った。


「有難う、最高の友だ、ゼロスよ。お前が居てくれれば私など剣を抜く事もなさそうだ。戻ったら、王妃様に改めて感謝をお伝えしようぞ、感謝する!」

フレイヤは剣から手を離し、ゼロスを見て頭を下げた。





「えーっ、フィーネ様も行かれるのですかー? それはまたなんと賑やかな旅になるんでしょうか」


 フレイヤの言葉にゼロスはまた大声で応えた。

 王妃の語ったクルーガー王の細かい話とソウが光の国の住人だと言う事、フィーネが王家の墓を通る為に同行する事までを説明し終わった所だった。

 大きな身体に、さらに大きな声。何から何まで大きい男だった。


「しかし、このソウと言う光の国人。本当に宛てになるのですか、団長?」


 フレイヤに近づいて小声でゼロスが言った。しかし、その仕草もまた大きいのだ。小声になってない。


「おい、失礼だぞ、ゼロス。お前の小声は大声にしか聞こえない。ま、フリだからソウも気にしないでやってくれ!」


「バラすのが早いぞ、団長!」


 そう言ってまた大声で笑うのであった。


「だから、僕は人違いだって言ったんですよ。もう、ここに置いてって良いって言ってるのに……」


 そんなやり取りを見てソウも困り声で訴えてるが、ゼロスも取り合ってくれない。


「ま、そなたの命もまとめて守ろうと言うもの。そなたの勇者の力も、使う暇も無いようこの私が敵を倒して見せる。安心していろ、勇者よ」


 しかし、何か引っかかる言い方をしてゼロスはソウを見おろした。

 さっきまで笑っていたゼロスの表情が少し硬いような感じで何故か嫌な感じがした。

 『そうだろうな……』そんな気持ちでフレイヤもゼロスを見ていた。

 無理も無い。まだ、”勇者”と言われてもソウはただの子供だ。にわかに信じがたい。それもこの国の……ブレイヴァルの騎士の青年とはだいぶ背丈も体格も違いすぎる。『新兵でも こんなに素質のなさそうな新兵は居なかったな……』と一人笑ってみたりした。

 ま、いずれ分かるだろうとフレイヤはゼロスをほっとく事にした。それに、ゼロスが居れば敵を一気に全滅など簡単だろうし、彼の言葉通りと言ってみればその通りだから。そのぐらいの力がゼロスにはあった。


 荷を一つソウが背負って入り口に立った。元の世界から着ていた制服は目立つと言う理由で、茶色の兵士の服装に着替えさせられていた。(皆はその不恰好さで大笑いだったが……)

 それ以外の荷物はほとんどゼロスが持つ事に。あと馬が一頭荷物運搬用に連れて行くことになった。


「ここからは用心しないと行けない。馬を走らせて一刻も早く向かうべきだが、ここに来る前なにやら悪い噂を聞いたとのゼロスの話で、街道は通らずこのまま山道を行くことにする」


 荷物を持ち直してフレイヤが皆を振り返りそう言い放った。

 先頭に立ったフレイヤを見てソウも大きく頷いた。

 ソウとフィーネを挟んで一番最後をゼロスが馬を引いて倉庫の扉を閉めて歩き出す……。


 召喚の森の敷地の外れに差し掛かる頃、2匹のゴーグが倒れていた。

 ゼロスの言っていたフレイヤと倒した3匹とは別の魔物達だった。どうして王国の結界がある敷地に待ち構えて入れたのか謎だが、今はそれを詮索している暇は無いためフレイヤも黙って進むのだろうとソウは考えて進んで行く。

 森の外れから山道にさしかかる道に入る。見上げた空がまだ明るい日差しだった。


「団長、大賢者オーラの元へ向かうのですか?」―――― ゼロスが後ろから声をかける。


「向かうのだが、『北の塔』に居ると言う話な為、アグニを連れに行こうと思う……。あやつが居ないと恐らく大賢者には会えないだろうからな~!」


「それはまた酷い選択ですな?」―――― フレイヤの返事にゼロスは太い声で嫌そうな仕草をしたが。「しかし、この任務には誰よりもおあつらえ向きな人選ですが……」そう言ってまた大笑いをする。


「あやつの国までだいぶかかるが方向は同じ……それが一番だと思うぞ」―――― そう言ってフレイヤも笑って見せた。


 二人の言うアグニという人に会えば道は開けそうなのだとソウも考えた。  

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