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第2話   フェイルーン  2

 ゴーグが大きな地響きをさせながら前のめりに倒れた。正にお見事と言ったハリネズミの言葉どおりだった。

 しかし、2体のゴーグを倒すのに、3秒とかかってないだろう。

 女性でありながら、なんという剣技の持ち主か。


「フウ……」


 フレイヤの剣技を目の当たりにした創が息をするのも忘れていたらしく、思い出してやっと息を吐き出した。

 思わず創も笑いそうに成った。だがその時――。


 ガサッ!


 創の背後で嫌な物音がした。

 後方の森の木々を掻き分ける音だ。

 その音を聞いて、創は思わず振り返ってゆっくりとそれを見あげていた――――そこに1匹のゴーグがまだ潜んで居たのである。


「きゃーっ!」


 その姿を見て横に居たハリネズミが飛び上がって逃げ出した。


「立ち上がれーっ!」


 フレイヤの力強い怒鳴り声を耳にしながら必死の思いで立ち上がっていた。

 その時見ていた。醜い鼻がつぶれた顔に埋もれたような大きな目があるが、あまり光を宿しては居ない。まるで見えてないような動き。しかし、身体は恐ろしく大きく、創の身体の2倍ほどあるように見えた。

 そのゴーグの腕が鋭い剣を持って今まさに振り下ろそうとしていた。


 『やられる!』


 その時、創は恐怖にそんな事を考えていた。

 なんでこんな事になったんだ?なんで、こんな化け物に襲われなきゃならない?

 大体なんでこんな処に来て王妃様の話を聞いていたんだ?

 あのハリネズミのせいでこんな何処なのかもしれない場所で死ななきゃならないのか?

 大体、あのハリネズミはなんなんだ?

 振り返ったらフレイヤが必死に剣を携えて走り出そうとしてるのが見えたが、間に合わないのは直ぐわかった。

 あのハリネズミも助けられそうにないか……

 他に誰も助けられないのか?

 誰も。だれも……。

 思えば楽しくない人生だった。

 友達も居ない学校。

 面白味のない、生活……。

 全て、空虚な毎日だった……。

 ただ、母に申し訳ないという思いがこみ上げてきた……。

 母にだけは、恩返しをしたかったのに……。

 しかし、誰も助けてくれないのだ。

 誰も助けてくれないから生きられないのだ。

 しかし、その時フレイヤの言葉が創の耳に飛び込んで来た。


「何やってる!諦めるなっ!!!」――――「動きは遅い!! よく見て避けろっ!!!」


 なんだって?

 そんな事言ったってこの怖さでどうやって……?

 しかし、フレイヤの言葉が聞こえると確かにゴーグの動きが遅く見えて、銀色の刃が落ちてくるのを身体をかわして距離を取れたのである。


「諦めるな!生きるんだっ!! 生きてるなら、たたかえ!!」


 フレイヤの怒号がそこに響き渡った。


「たたかう……?」


 誰にも助けて貰えない。

 フレイヤも助けられない。

 しかし、誰かが本当に助けてくれるから生きられるのか?

 誰かが助けてくれるのが本当に自分の一生なのか……?

 自分は今まで自分で戦って来たことが有るのか?

 人に無視されて、人に馬鹿にされて、それでも自分は悪くないと、自分は正しいと、一人で思い込もうとしていなかったのか……?

 耐えていれば、いつか誰かが助けてくれるんじゃ無いかって思っていたんじゃないのか……?

 助けてくれないから別の場所に逃げ込んだのに、またそこでもまた酷いことが起こって、でもまた我慢して行けば誰かが助けてくれんじゃないかって思い込もうとしてなかったか……?

 僕は、僕は、いつも逃げてばかりで居たんじゃないのか……?逃げてることを正当化して、逃げてないふりをして我慢して逃げようとしてたんじゃないのか?

 でも本当は違う!

 本当は生きたんだ!

 友達や学校で本当は僕だって楽しみたいんだ!

 友達を作って、どうでもいい話をして、そして、ケンカもしたり笑ったりしたいんだ。

 生きるために、生きてやり直すために、僕は、僕は……。


 ゴーグは次の一撃を与えるため、剣を振り上げた。


「オォォォーーーッ!」


 創は叫んだ。

 その時、走り出したフレイヤと木の陰に逃げ込もうとしたハリネズミの目に、創の手から噴き出す青白い光がはっきりと見えていた。


 『!』


 その光が剣の形になるのと創の腕が動き出すのが同時であった。


「僕は、生きたいんだーーーーっ!」


 叫び声を聞いたフレイヤの目にゴーグの剣を受けて立ち尽くす創の姿がはっきりと分かった。

 剣を両手でしっかりと構えて、物凄い勢いの重いゴーグの剣勢を、創はその手にした白銀の剣でしっかりと立って受け止めていたのだった。

 その姿をハリネズミも立ち尽くして見ていた。うっすらと涙を流して。


「やり残した事があるんです。こんな場所で、立ち止まって居るわけにはいかないって。さっき、フレイヤさんに言われて分かったんです。生きるためには、戦ってこの困難を打ち破らないといけないって、そう……、いけないって、分かったからーー!」


 創が泣いてるようにフレイヤには見えた。泣いてる様には見えたが、それは決して悲しい涙などではなかった。

 そうそれは悲しみの涙なんかよりずっと気高いもの。

 初めて口にした、生きる意志を持った事への、衝撃による言わば武者震いのような涙なのだと、フレイヤにも分かったのだ。

 創の事は知らなかった。

 けれど、創の言葉の意味は、なんとなく理解できた。

 そして、本当のたたかいを始めた創の真実を認め、フレイヤは嬉しそうにそう声をかけた。


「勇者よ、やるじゃないかーっ! 名前を何ていう?!」


「『ソウ』です!! 勇者なんかじゃないけど!!!」

苦し紛れに皮肉もいってみたが、一瞬しかフレイヤの方向を見ることしか出来ない。それ程ゴーグの力に創の腕では押されてしまうのだった。


「なら、その剣を離すなーっ!!。そいつらは力は強く、身体も頑丈だが……」


 そこまで言われてる傍から、さらに、振り上げた剣をもう一度ゴーグは振りお降ろしてきた。

 しかし、それもやはり創は受け止めて見せた。

 意思の力 ―――― 魂の力。

 そう、創のソウルフレイムが作り出した力だからこそ、ゴーグの重い剣を非力な力でも受け止めて居られるのだとフレイヤも感じていた。

 そして、そう理解しながらフレイヤはさらに創に言い放つのであった――――。


「そのゴーグ達の腹はがら空きだっ!――――そこを狙えっ!! ソウーーーーッ!!!」


 うむ。

 ゴーグの力に耐えながらフレイヤの声を聞いて頷く。

 次の瞬間、ゴーグの剣を受けてる創の左手がまた青白い光を帯びだした。

 !

 それを創やフレイヤもハリネズミまでも気づいてはっと息を飲んだ。


 『いける!』


 心の中にそう確信した時、創は剣から左手を離し何か中空に掴むような仕草をした。

 手の中にさらにもう一本の青白い光波を纏った白銀の剣が出現したのである。


 斬!


 間髪入れず創の左手がゴーグの腹を凪いだ。ゴーグの動きが止んだ。

 そして、一瞬の間があり続いてゴーグの両手がだらりと両側に落ちて、剣も地面に落下した。

 創の一撃にゴーグは絶命していたのである。


 フレイヤが駆け寄ってきた。続いて、ハリネズミも……。

 一瞬にしてゴーグを絶命させてしまう程の凄まじい剣技。それは、聖騎士と詠われるフレイヤでも息を飲むような一閃であった。

 しかし、それを初めて剣を手にしたような創が……? しかも、驚くのはその手にしているのは彼の願いであろう心が作り出して来た剣なのであった。それも二本も……。

 未だかつてそんなソウルフレイムの力を示した者は居なかった。それ程にその光景は驚愕であったのだ。

 だが驚くのはそれで終わりではなかった。

 今目の前で創に切り付けられて絶命したゴーグの身体が何かうっすらと温かい光に包まれ、ぼんやりと光り始めたのだ。

 その前に立った時、ゴーグの身体が何か蛍のような光の燐に覆われていくのが見えた。

 そして、だんだんと薄ぼんやりと向こう側の景色が見えてくる。まるで、消えかかっているかのように……。

 そう、消えかかっているのである。


「あ……」


 ハリネズミが、フレイヤの足元に立って声を漏らした。


「まるで、その醜い闇の姿を昇華するみたいに、天へ上っていくようですね……」


「これが、ソウの剣の力なのだろうな……」


 フレイヤも消えゆくゴーグの身体を感嘆したように見ていた。


「リバース……再生だそうです。この2本の剣の名前が。今、頭に何処からか流れ込んで着ました……」


 グラッ! ――――そこまで呟いたソウの身体が前に倒れこみ、寸での所でフレイヤが抱きとめた。

 ソウの力無くくず折れる身体を支えて、ジっとうな垂れた顔を覗き込んだ。

 何処にそんな力があったのか――――感心したようにそんな思いを胸にしてハリネズミの顔を見やった。


「再生。―――― 救ってあげたんですね。このゴーグを……」


 ハリネズミも納得したようにソウの横顔を見て、頷くのであった。

 そして、そのハリネズミを見ながらフレイヤはさらに続けた。


「そしてこの勇者を見つけてきたのが、貴方様でしたか。王妃のもっとも信頼のおける方だとは……、納得しましたが、姫様」


「ええ。私は光の国で彼を見て、その心の素晴らしきソウルフレイムの光を見ていました。そして、そのままをお母様に報告したのです!」


 ハリネズミの姿がだんだんと若い女性の姿へと変化して行くのであった。

 そして、まん丸のライトブルーの目に、ふんわりとしたやわらかそうな髪をなびかせて、フレイヤを振り返ってそう笑うのである。


「少し……、少し、勇気が有れば満点なのですが」


 二人は自分達の足元に眠る勇者の顔を見下ろして、再び微笑むのであった。

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