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第1話   フェイルーン  1

 目を開けるとそこは明るい日差しの中だった。沢山の木々の間を縫って心地よい風が頬に当たっていた。

 冷たい感じのする所だったが、周りの日差しの暖かさもあって不思議と怖くはなかった。

 ふと自分が何故ここに居るのか考える。

 ……と、いきなり創の身体を寒気が襲ってきた。

 確か、売店に大門に言われた『たこ焼きパン』を買いに向かって廊下を走って居た筈だった。そして、廊下で何か奇妙な出来事にあった。

 そうハリネズミに話しかけられたのである。それも何か自分に問いかけてきたのだ。

 『本当にこれで良いのか? ……とかなんとか』

 しかし、それを聞いてドアを見てくれと言われたら、なんとドアを開けたとたんに何かに背中を押されたのだ。

 あれは恐らくハリネズミが押したのだろう。

 しかし、見えていた風景とは少し違う感じがする場所であった。こんな神聖な感じのする場所でも無かったはずだ。明らかにこの場所は違った。

 石造りの誇大な柱が幾本も周りを取り囲んでいた。木漏れ日の森に、何かの祭壇みたいな物の中央に寝そべっていたのである。

 さらに言うと自分の足元にも何かの文字を記した円形の紋様が描かれていた。

 すると、そこまで周りを観察していた創の後ろに人影らしき物が通り、思わず声を上げてしまった。


「うわーっ!?」


 驚く創を見ながらゆっくりとした足取りで姿を現す者があった。

 女性である。白を基調とした煌びやかな衣服に身を包む女性が、少し頬ほえみながら創を見つめて前に進み出てくるのであった。頭には一際輝く綺麗なティアラが輝き、その女性の身分の高さが計り知れた。


「驚かせてしまいましたか、失礼をしました。しかし、これはまたかわいい勇者様で在られまして、私もつい急いでそのお顔を見たくなりまして降りてきてしまいました。ね、そう思いませんか? 聖騎士フレイヤよ」


 そう言うと、その女性は創の正面に立った時である。


 いきなり、その言葉を言われたであろう人間が、ティアラを身に着けた女性の前に割り込んできたのである。後ろ手にその女性を庇い、その身で女性を庇っているのを創に見せて威嚇したのである。


「はっ! しかし、王妃様ともあろう方が、この場所に降りてきてはなりませぬ! 儀式が終わっての事でお疲れの筈なのに…」


 そうゆうとフレイヤと呼ばれた騎士が剣の柄に手をかけて創を睨みつけたのである。


「おやめなさい。失礼です、フレイヤ下がりなさい!」


「はっ、しかし……」


 その言葉を言いかけたが、女王様と呼ばれた女性の一喝にフレイヤは紋章の書かれた祭壇から下の広間に下がった形になった。

 女王と呼ばれた女性が改めて創の前に進み出てきて頭を下げた。


「失礼致しました。初めまして、私はこの国の王妃ファールーンといいます。訳あってこのような召喚の儀を行いました。そして突然の事で申し訳ございませんが、どうか私たちに力を貸して頂きたいので御座います。勇者様」


 そういうと、王妃ファールーンが頭を下げた。


「ファールーン様、何を……」


 フレイヤが顔を上げてファールーン王妃を見た。

 見上げた顔が何を言ってるのかと問いただそうとしていた。


「え、何……、勇者様って? 何かの間違いです」


 そのファールーン王妃の真剣な言葉に創は後ずさり始めたときであった。

 しかし、その言葉にもファールーン王妃は創に続く言葉で答えていた。


「いいえ、貴方様で間違いありません。そして、この国が滅びるのを救って欲しいのです。勇者様」


 ファールーンはその場に跪いて創に両手を祈るように握り締めたのであった。



「遥か昔、この世界の形が今の形になる前の話です…」


 その話を始めるファールーンは努めてゆっくりと、しかし、確実に話すように一言一言を丁寧に語りだした。


「この世界には『絶対なる者』と呼ばれるセンカイ王という人物が居ました。彼が私たちの祖先になります。彼は、この世界をつくるため、邪悪なる者たちを倒し、とある世界に閉じ込めたと聞きます。その場所は今となっては分かりません。そして、次の王たちにそれを引き継いで亡くなくなりました。長く平和が続きました。

 しかし、とある時代に邪悪なる者の声を聞くことの出来る王が現れたそうです。その王は事もあろうに邪悪なる者の声に従って秘術である『不死の王』を手に入れました。

 そして、死なない身体を手に入れたその王は次々と他の王を倒し、この世界・フェイルーンを手に入れようとしたそうです。

 しかし、その暴挙を見て居られなかった他の種族の王と私たち種族が力を併せてその不死の王を『死の国』に閉じ込めたと聞きます。『不死の王』は死なない為それしか手段が無かったのだと聞きます。

 そして、本当の平和がこのフェイルーンに訪れ、現在まで続いて来たのです……」


 そこまで話したファールーン王妃の顔はなんだか晴やかだった。次の言葉を言うまでは。

 次に続く言葉がそれ程までに続けたくない事だと、フレイヤにもその場に居る創にも分かる程にファールーンの表情は暗くなったのである。


「しかし、その邪悪なる者の声を聞ける王が再び現れたのです。それが現在の王・クルーガー王、そう私の夫、その人であります」


 悲痛の表情を浮かべファールーンは涙を見せた。

 話しの内容にその名を聞いてフレイヤも驚きを隠せなかった様である。ファールーン王妃の顔を一心に見つめて今にも駆け寄りそうな表情を浮かべていた。


「クルーガー王は、その声を聞きその声が言う『不死の王』の復活が近い事を知りました。その為、それを確かめる為彼の地を目指したのです。

しかし……、しかし、王は帰って来ていません。護衛につけた精鋭数十名も誰ひとりも帰りませんでした」


 ファールーンは顔を創に向けて言ったのである。


「『世界が終わりを迎えようとした時、光の国の勇者を迎え供に戦う事。彼すなわちセンカイ王の子孫なり』王家に伝わる古い言い伝えです。

 センカイ王は、光の国より来たとされています。

 それ故、私たちに伝わる古の言い伝えにより私は光の国に居る勇者を召喚致しました。

 良いですか、フレイヤにも尽力をお願いします。どうか、秘密裏にクルーガー王を見つけて欲しいのです。そして、私たちと力を合わせ『不死の王』を倒して欲しいのです!」


 『勇者様? ……光の国?』創は混乱していた。

 なんで自分がそんな事になる?。それもそもそもここは何処なのか、なんで自分が勇者になんかなるのか?ついさっきまで学校にいたタダの普通の人間の自分が?

 様々な考えがいっぺんに頭に浮かんでは消え、答えも出せないまま口をパクパクさせるばかり。


「あの…お言葉を返すようで悪いのですが…。僕は勇者でもなんでもない人間でどうも人違いをされたと思うので、その…返してもらうのはできるのでしょうか?その光の国とやらへ…」


 創がありったけの勇気を振り絞って声にするとすぐさま下からあの怖い顔の騎士が声を上げる。


「おい貴様!王妃様に無礼だぞっ! だいたい……」


「フレイヤ!」


 しかし、再び王妃の一喝にフレイヤは頭を垂れる。


「いいえ、そんな事は御座いません。

私のもっとも信頼できる者を光の国へ送り、その者があなたが本当の勇者だと伝えてきました。貴方をおいて他に勇者は居ないと……。しかし、あの子は遅いですね。もう先に城に向かったのかも知れませんが……?」


 ファールーンは自信に満ち溢れた言葉で創の問いかけにゆっくりと答えた。

 創もその根拠のないファールーンの言葉を聞きながら、何かふっと心地よい気持ちに包まれていた。


「しかし、お言葉を返すようで申し訳ございませんが王妃!

そんな大役を申し付けて頂き有り難き事ですが、今の私は国の正式な騎士でも、聖騎士でも御座いません。今の私にはその王を探す旅にも行く資格が……」


「何を言うのです。それは貴方が勝手に言い出したこと。貴方が責任を感じる事など何も無いと何度言ったら分かってくれるのです。

資格が無いと言うのは止めて下さいあなた以上にこの任を任せられる人が居ますでしょうか。もし責任を感じてくれるなら、クルーガー王を探すこの任務を受けてくれますか。それが1番早いと、そして貴方なら必ず勇者様の力になってくれると確信していますから」


ファールーンの言葉を耳にし、フレイヤは顔を上げた。


「分かりました。身に余る光栄、大恩あるクルーガー王の行方、その任必ず私が王を見つけて王妃の前に連れ帰りましょう。しかし、その任務にはこの者は必要有りません。どこから見ても戦いに向いてる者とは思えません。私も沢山の部下を見てきましたが間違いありません。この責務、私一人の力でも十分です。命に代えて王を見つけてみせましょう!」


「フレイヤ……」


フレイヤの言葉に創は少しムッとした。

『そりゃ、僕が勇者でないなんて誰が見てもわかるよ。しかし、だからって戦闘に向いてない、見れば分かる、どうしてこんな酷いこと言うの、この人……?

 この人……って?』そこまで創が思ったその時だった。


「危ないッ!――――」


 突如、炎をまとった火球が森の木々の上から降って来るのが見えた。


 創が自分を目掛けて飛んでくる火球を見上げると、すぐさまその身体を抱きかかえられて走り出すのが分かった。

 『あれ?自分は立ち上がってないのに……おかしいな?』……と考える間もなく、地面へ一緒に身体を投げ出すものがあった。

 見上げたその人の顔を見ると、鼻筋の通った透き通るような目の美しい顔立ちの女性がそこに居て創の顔を覗き込んで居たのである。

 聖騎士フレイヤであった。

 まさか、その声に創が気づいたこと、それがフレイヤの声が語気は強いが女性のそれだと思った所なのだった。


「大丈夫か?」


 フレイヤの美しい顔立ちに創はびっくりして返事も出来ないまま頷くだけであった。


「次が来るぞ!」


 すぐさま立ち上がると、さらに2発の火球が森の上を越えてくるのが見えた。

 急いで2発の落下しない方へ創を引っ張っていく。


「王妃様、ここは危険です! お早く城へ向かって下さい!」


 そして、創を座らせると王妃の方向をみやった。

 王妃は安全であった。


「大丈夫ですか? この聖域の結界を破るなど……」


そう言いかけたファールーンの傍にも火球が落ちてきて言葉が途切れる。


「大丈夫です。これも世界の異変に関係がありましょう。向かう場所は賢者オーラを探して確かめて下さい。あの方なら、王の向かった先がお分かりになると思います!!。必要な物も出来得る限り武器庫に用意させました!どうか、王をお願いします!」


 そう言うとファールーンの周りが見る見る風に舞うようにドレスの裾が渦巻いて行くと、光の帯もその風の中に混じっていくのである。


「分かりました!!その任、一刻も早く成し遂げて見せましょう!!王妃様は安心してお待ち下さい!!必ずやクルーガー王を見つけて参ります!!」


「有難う! やはりあなたはこのフェイルーン随一の聖騎士です。お願いします、どうか無事で!」


 そう光景を見つめるフレイヤが声を上げると、創とフレイヤの見つめるその目の前で光の渦が一掃加速した風の中に、まるで光が吸い込まれるようにファールーンの姿が消え去るのであった。


 『ええー!?』


 それを見て思わず声を上げた創。なんと、転移の魔法が出来るとは。


 『ならなんで私らを置いていくの?』……と創が思って見ていると、フレイヤがまた創に声をかけた。


「私らは、王妃様のような芸当は出来ないが。ま、この程度の敵など一瞬で黙らせるがな……」


 そう呟くと、フレイヤが創の顔をまじまじと見た。


「死なないで下さいよ、勇者様。 ―――― 来るぞっ!」




 ドォーーーーン!




 いきなり森の木々の一角が吹き飛んで、砂埃を上げて突っ込んでくる影があった。

 巨体をゆすって来るのは、土の塊のような体躯をした魔物であった。ゴーグである。

 筋肉の塊のような長い手には、大きな棍棒を持っている。それで頭を襲われたらひとたまりも無さそうである。

 2体のゴーグが次々にこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「ええっ?」


 何とも言いがたい心境だった。

 先ほどのファールーンと言う王妃の話も信じられないが、この世界では魔法が使えて、さらに映画やゲームでしか見たことも無い土色の魔物が実際に自分に向かって襲ってくるのである。

 しかも、いきなり勇者などと勘違いされて、豚みたいな鼻の魔物が自分を倒そうと棍棒を振り上げてるのである。

 そんな棍棒で殴られたら一発で天に召されるよ――――創の恐怖は尋常でなかった。


 『このままだと殺される!』


 しかし、そう創が確信めいたものを持った瞬間、隣に居たフレイヤがものすごい速さで迫り来るゴーグの下へ走り出したのである。

 速い。

 まるで防具など着けていないかのような速さで、瞬く間にゴーグの正面にたどり着いてしまうのである。


「フン!」

 

 呼気を吐いていきなりゴーグの左へ速度を上げて踏み込んだ。ゴーグはその動きについて行くのがやっとだった。

 その動きにつられて前のゴーグが立ち止まり棍棒を振り上げる。

 しかし、動きの遅いゴーグに後ろを走っていたゴーグがぶつかってきた。あまり目が見えないらしい。

 ドゥッ!――――という音を立ててぶつかり合った前のゴーグが体制を崩したその時だった。


 ドシューーーーッ!


 目にも留まらぬ速さで前面に棍棒を振り上げていたゴーグが切り裂かれていた。フレイヤである。

 まるで一条の光が走ったかのようにゴーグの左下から右側へと、フレイヤの剣が駆け抜けたのであった。

 切り裂かれた事さえ分からなかったに違いない。


「凄い……」


 思わず創も息を飲んで呟いていた。

 これが本物の剣技……。これが本当の戦いなのかと。


 反対方向へ駆け抜けたフレイヤを見ようとした先頭のゴーグが身体を反転しようとすると切り裂かれた身体が自由が利かず前のめりになった。

 絶命していた。

 それを確かめながら駆け抜けるフレイヤを追って、後方を走っていたゴーグが前に居るゴーグを押しのけてフレイヤに向き直った。棍棒を振り上げて威嚇をする。

 それを見据えてフレイヤも剣を正面に構えた。

 しかし、そこに異変が起こった。

 創の見てる間にフレイヤの剣がうっすらと光を帯びだしたのである。


「あれが彼女の自慢の愛剣・レーヴァテインの力。彼女のソウルフレイムの力を読み取って、さらに力を発揮する剣。その力は神をも凌駕すると詠われる……」


「ソウルフレイム――ってうわー!?」


 そこに見覚えの在るあのハリネズミが立っていた。高さにして自分の膝下ぐらい。


「いつから……?」


「ついさっきからここで見させて頂いてました」ニコッ


 創のつい突っ込んでしまった言葉に、ハリネズミは明るく答えてきた。


「ソウルフレイムとは『魂の力』……。言わば心の力とも言えます。それぞれに違う力を出せる事も有りますが、共通して言えるのは想いの強さに関係してその力が現れてるように思います。母のように力が強く、より自在に操れる方もごく稀に居ますが……」


 その時、ゴーグが間合いもなく一気に棍棒を振り下ろしてフレイヤに殴りかかって来た。

 しかし、それをフレイヤは見事な剣捌きで棍棒を跳ね上げると、目にも留まらぬ速さで切り捨てて敵の後方へ駆け抜けていくのであった。

 

「あのフレイヤ様のように、剣に魂の力を込めて打ち抜くことも出来るのです。その力は普通の何倍もの力と言われています……。お見事」


 嬉しそうにハリネズミが両手を前に握ってフレイヤの勇姿を見て呟いた。


「母……?」


 そんなハリネズミが呟やくのを見ながら、創はハリネズミの言葉に顔を見ていた。


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