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第9話   大賢者オーラ  5

 皆は、一気に山を降りた。


 遥かに見えた黒い塔に向かって皆は全速力で走り出す。あまりに遅いと言う事で、ついにアグニがサラマンダーを出して走る皆を背中に乗せた。


 遠くに見えていた黒い塔はだんだんと近くに迫ってきた。


 周りの木々が増え始め、見えていた塔の下半分は樹木の間に埋没して少しづつ見え難くなってきていた。

 それが塔に近い事を証明していた。


 太い雪を被る樹木の間を抜けて皆の乗るサラマンダーは凄い速さで塔へ迫って居た。

 すると、いきなり森の木々が無くなり、目の前の視界が一気に開けた。

 炎の螺旋塔の前に出たので有る。

 真っ赤に燃え盛る炎を纏わり付かせ、黒い螺旋の塔が皆の眼前に広がったのだ。

 燃える炎の為にその塔の方向から物凄い温度の熱風が吹いてくる。

 そこだけ、雪が溶けて塔と地面を剥き出しにされているのだった。

 森が開けたのは、辺りの樹木が炎に焼かれる為に育たなく成って居る事と、恐らくはオーラが切り倒したのだろう。こんな状態で炎が一日中燃えていたら、辺りの木々が燃え出して直ぐ山火事に成るからで有る。

 高い中央の塔に左右の低い塔が段違いに絡むように螺旋を数本絡みつかせてる、正に螺旋塔と呼ばれる奇怪な塔を、皆は地面に降り立って見あげた。


 見上げる程高い炎に包まれた黒い塔に向かい一同は少し押し黙った。

 塔の正面から少し離れた場所に降り立って、ソウは思わずそんな事を呟いた。


「なんて凄い炎なんだろ…。これじゃ中に入れない」


「恐らくは、防御と何か目的が有っての事だろうが…」フレイヤもその凄さに少し圧倒されたようにソウの言葉に付け加えた。「しかし、迷惑な塔を建てた物だな」


「全くだ。幾らあたしらがおいそれと会えない大賢者だからって……、面倒なセキュリティを敷き過ぎる。手間かけ過ぎだ!」


 フレイヤの言葉に同意したアグニが更に文句を言う。


「しかし、一体どうすれば良いのですかね?」


 フィーネも困り顔であたりを見回した。

 

 誰も居ない……。しかし、微かに馬のいななきが耳に入ったような気がした。


「!」――――その僅かな音をそこに居る全員が聞き逃さなかった。


 見回した視界の先に、見ては行けない物が飛び込んで来てしまったのである。


「ああ……ソウ様、また、あいつらが来てしまいましたっ」―――― フィーネが声にならない声でそれを見つめた。


 グラズヴォル=かつての勇敢だったこの国の英雄達『魂無き戦士』4人が、闇の中から出てきたような黒い馬を颯爽と駆り、『炎の螺旋塔』の前に現れるのであった。


「全員、気を抜くなっ!!来るぞーーーーっ!」


 フレイヤの抜刀と供に上げる掛け声で、全員のグラズヴァルがフレイヤに向かって黒馬を鞭打って走り出した!!。


 一瞬にして、そこは戦場となった。


 フレイヤの頭を狙って走り来る先頭のグラズヴォル目掛けてフレイヤのレーヴァテインが走るが、敵の槍先で弾かれてフレイヤが体勢を崩す。

 しかし、その後を次ぐ別のグラズヴォルの剣もまたフレイヤに襲い掛かる為、フレイヤはその身を逆にわざと翻して走り抜ける戦士達との距離を取る作戦にでた。

 胸の数センチ先を敵の長い剣がかすめて行くのを見ながら、後続の戦士2人の動きを目で追った。

 だが、そこはフレイヤの読み通りであった。

 同時に動いたと言う事は、同じ場所に攻め込める人数も制限してしまうリスクを持たせていたのだ。敵は案の定、フレイヤに同時に攻め込むのは出来ずに、残りの2名がゼロスの方向へ向かっていた。

 剣を閃かせた馬上のグラズヴォルに向けて剣を振って跳ね除けるゼロス。

 しかし、もう一人のグラズヴォルはそのまま反転して後方よりフレイヤの虚を突くために、馬を走らせてのである。


「させるかっ!!」


 剣もそのままに、左手でイラを手に取ると、フレイヤを狙うグラズヴォル目掛けて投げつけるゼロス!。

 イラが見事にそのグラズヴォルに命中しようとした時、寸での所で敵も自分の鉄球を投げつけてゼロスのハンマーを跳ね除けるのであった。

 フレイヤも自分の後ろで反転してくるグラズヴァルを確認して、横手に走り出していった。

 フレイヤの走った先に向けて、敵も馬を向けようと一瞬止まってこちらを見た。


 ソウとフィーネの傍にはアグニが控えて、敵の視線の矢面に立っている。


 馬上の敵は、フレイヤとゼロスとさらにアグニとその後ろのソウ、フィーネ組の3方向丁度中間で、どちらも威嚇するように馬のいななきをさせながら方向を向かわせては変えて走るそぶりをして攻撃の牽制をして見せるのだった。

 どちらからでも攻撃して来れる。

 しかし、そのどちらからが危険か読ませない動きをする、そんな牽制だったのである。

 だが、不意にその牽制を解いて、一直線にアグニの元へ2人のグラズヴォルが動いたのである。「やはりそう来たかっ?!」――――心の中でフレイヤも舌打ちした。

 一番の戦闘能力の無いソウとフィーネを狙うのが定石。アグニの火炎を浴びて、少しは警戒するかとも期待していたのだが、敵はそんな感情を失った機械のような呪われた戦士なのであった。危険など感じない、そこに有るのは一番弱者を狙う戦闘の基本しかなかったのを、フレイヤも改めて思い知らされたのであった。


 しかし、フレイヤがその方向へ駆け寄ろうと走り出したとき、残りの2人のグラズヴォルがフレイヤに向けてまた走ってきたのである。――――「ちぃーーッ!!」フレイヤは舌打ちしてアグニを見た。

 アグニはフレイヤに向かって小さく頷く。

 策が無いわけでは無いから心配するな……とアグニの不適な笑みがそう言ってる顔つきだった。

 フレイヤは、自分を襲う剣を受けてアグニの動きを追っていた。


ドゴォーーーーッ!


 突然、轟音を上げてソウとフィーネに向けて走り出した黒馬の前に、特大の炎の壁を噴き出させるのであった。

 アグニの力で噴き出した炎の力で、礫となって飛んでくる炎を見せられて、前足を天高く上げてどうしようもなく騒ぎ出す二頭の黒馬とグラズヴォル。

 それを合図にさらにその動きの止まった二頭の黒馬目掛けて、ゼロスのハンマーが地面を打ち抜くのであった。

 アグニがさっとその場を飛びのいた。

 その時、打ち据えられたゼロスのハンマーの元から、何かが収束するような音が走ったかと思うと次の瞬間、聞いた事もないような轟音を上げて、黒馬の居た地面が突如爆発するように吹き上がったのであった。


ドーーーーンッ!


 物凄い量の土と埃を伴って黒馬が吹き飛ぶと、馬上のグラズヴォルが地面に投げ出されるのであった。

 脅威の威力を誇るゼロスのハンマー『イラ』で無ければ、到底出来ない攻撃であった。

 ソウがその攻撃に言葉も無く目を見張ると、どんなもんだ……と言わんばかりに、ゼロスが鼻をフンッ! と鳴らすのであった。


 しかし、気を抜いては居られなかった。

 アグニが見たその時、ゼロスの活躍の影で、フレイヤが馬上の槍とこれまた戦いずらい長剣の戦士と同時に相手をしてるのであった。普通の敵騎士ならそれでも一瞬で終わらせるような戦いをするフレイヤだったが、このグラズヴォル相手では後ろに下がるほどに危険な戦いを強いられていた。


「団長ッ!」


 短く吐き捨ててゼロスが再び魔法のハンマーを一人に投げつけて、敵の剣を引かせてその間に走り出す。

 ゼロスの加勢をなんとか間に合わせる為、アグニがさらに火球を投げて敵をひるませる。――――駆け寄るゼロスの剣が何とか敵の槍の一人に届いて、フレイヤの眼光が少し力を取り戻した。

 素早い流れるような実に見事な連携だろうか。さすが長年共に戦い、信頼し続ける戦友のフレイヤとゼロスとアグニなのだと感心する程に見事な戦いっぷりである。彼の勇名を馳せる 戦士を向こうに回しても、一つも見劣りはしなかった。

 だが、その見事な連携をして形勢を逆転するかと、フレイヤが一瞬考えた時であった。

 その光景を見た時、フレイヤは自分の心が凍りついて動けなかった。

 自分とゼロスがここでグラズヴォルの剣と槍を一人づつ受け止めて攻撃を交わしてる時、フレイヤの視線の先で、ソウが一人で2人のグラズヴォルの攻撃を交わしていたのだ。それもフィーネをかばって、2本のソウルの剣を出して、鉄球の攻撃にさらされて苦戦してるのが見えたのだ。


『しまった!』―――― フレイヤは、剣を握り締めて叫び声を上げそうになった。


 ソウをこの百戦錬磨の過去の勇者と、たった一人で戦わしていたのである。

 先ほど一人で自分が戦っていて相手がどんなに強いか、嫌っていうほど分かって居る筈なのに。

 相手がソウとフィーネを狙う物だと分かっていながら、どうして自分はソウを一人にしたのか、フレイヤは思わず、自分のその愚かさに気がおかしくなってしまいそうだった。

 ソウを守るとあれほど言い切ったと言うのに、自分は何をやってるのかと、自分が恥ずかしかった。このままじゃ、ソウが死んでしまう。フィーネもソウがやられたら同じ運命に……。

 フレイヤの感情があまりの事に冷静さを忘れ、目の前の敵に力任せに切りつけていた。


「ソウッ!」


 その叫びに、ゼロスとアグニもソウの緊迫した状況が初めて認識できるようになった。


 絶体絶命のピンチだ。


 ソウも、この自分の状況が敵の剣を受けている事で十分に理解できた。

 あの戦いの中でも常に冷静なフレイヤが叫ぶほど、自分が危険な敵と戦っているのだと、ソウも理解できたからである。それも2人と同時に。

 フィーネを守る為、危険な状況になって咄嗟にソウルの剣を2本同時に出したのは正解と思ったが、それでも全く足りていなかった。そのぐらい、目の前の敵が強大だとソウもはっきりと認識できたから。今、自分がソウルの2本の剣で敵の剣を受け流せている事すら、奇跡と言って良いのだと思っていた。

 しかし、いつまでも受け続けている事が出来ないのも理解していた。

 どうやったら、この2人の敵戦士の攻撃に耐えて、フィーネを安全な皆の場所に向かわせる事が出来るのか……ソウは必死に考えた。


「フィーネ様、あの魔法で敵の攻撃を一瞬だけで良いです。食い止める事は出来るでしょうか……?」


「『絶対防御』の事ですね、一瞬だけなら出来ると思います。私が離れると消えてしまいますが……」


「それで充分です。僕の合図でお願いします……」ソウの言葉にフィーネは頷くと、敵を一瞬押し返した。――――「今です!」


 ソウが大声でフィーネに合図を送ると、フィーネが『絶対防御』のバリアを全面に張って敵の攻撃を防いだ。敵の剣が弾かれて、驚く戦士が後ろへ一瞬下がった時がチャンスだった。


「フィーネ様、アグニさんの場所へ走ってください!!」


「え?!」ソウの叫びに一瞬躊躇したフィーネだったが、ソウの必死の顔つきにフィーネは何事かを察してバリアを解いて走り出した。


 オオオーーーーッ!


 フィーネが自分の元から走り出すのを感じて、ソウは雄たけびを上げた。

 迷ってる暇は無い。――――フレイヤが言っていた。フィーネを守るのが自分の使命だと。ならば、フィーネを守れなかった時のフレイヤの悲しむ顔なんか見たくないから。……だから、自分がフィーネの命を守れなかったらダメなのだとソウは分かっていた。フィーネやフレイヤの為に今出来る事をソウは決断したのだ。


 一瞬、走り出したフィーネに気を取られた二人のグラズヴォルに向けて、ソウは両腕に従えたソウルフレイムの長剣・リバースを構え地を蹴った。


 目の前のグラズヴォルの剣を弾き返し、後方に居るもう一人のグラズヴォルに向かってさらに走り込む――――。鉄球を振り回すその戦士は恐らくは近距離での戦闘をしてない為、一瞬でも攻撃のタイミングを遅らせる事が出来るのではないかとソウは考えたのだ。

 敵の動きがほんの一瞬遅くなった。

 ソウのリバースの攻撃を避けようと、後ろのグラズヴォルは身を返してソウを避けたのだ。――――その攻撃を避けた戦士の横は走り抜けると見えたソウが、いきなりそこに止まってリバースの両剣を懇親の力を込めて振り下ろしたのだった。


バシィィィィーーーーッ!


 不意をついた攻撃を、グラズヴォルは鉄球についた黒光りのする頑丈な鎖で思わず受け止めてしまった。――――鎖がブツンッと思い切り切断されて、その衝撃にグラズヴォルが弾け飛んだ。それ程の衝撃だったのだ。生み出したソウルフレイムの持ち主には重さも感じない程の軽いリバースの攻撃だからこそ出来る、スピードと力の衝撃波であった。

 それを見て取り、剣を構えるもう一人の戦士の影に逃げ隠れるグラズヴォルを見て、安心したようにソウは構えなおした。


「良かった……。これでフィーネさんの逃げる時間を稼げた……」


 アグニの元に走り込むフィーネの姿を視界の端に捕らえ、ソウは一人ごとを言って少し微笑んだ。ここまでだ。ここまでが、ソウの考えた時間稼ぎだった。


 目の前の鎖を捨てた戦士が普通の戦士の半分ぐらいの短剣を抜くのを見ながら、ソウはもう不意打ちで敵を倒せないと言う事を改めて認識する。

……と、即座に長い黒光りのする剣を横に構え一人の戦士のほうが踏み込んで来た。それを横に縦にリヴァースを振って、ソウは必死に自分へ敵の剣が届かないように打ち返した。

なんて重い剣なんだ。なんて凄い、戦士なんだ……。

 ソウはその剣を弾き返しながら、リバースの最大の利点、速度で打ち返す。一瞬でも気を抜けば、即座に死が待っている状況だ。打開する方法を考える余裕など、ソウには全く無かった。

 しかし、敵の攻撃はすぐその上を来てしまった。

 何度か目の重い敵の剣を受けた時、敵の影に隠れたもう一人の短剣が、身体を反らした一人目の横をすり抜けてソウの正面から走って来たしまったのである。


「!」


 外しようのない2人のグラズヴォルの近距離攻撃。ソウはそれでもその短剣の見えないほどのスピードの剣先を、咄嗟の反応で左手のリバースの柄ではじき返していた。肩先と顔の横をすり抜ける敵の短剣。

 刃が目の横をする抜ける様子がスローモーションのようにはっきりと見えた。

 このまま接近すると敵の次の攻撃がくる――――ソウはそのまま向かってくる戦士の身体を食いこませたリバースの剣を敵の眼前へ向けて走らせた。思わずその攻撃を敵のグラズヴォルは身体を避けて距離を取って走り抜けた。

 しかし、前に居る長剣の戦士はそれを好機と捉え、間髪入れずに剣を振り下ろしてくる

 全く休む間が無い。これがこの『魂無き戦士』の強い理由なのだと思い知らされた。疲れる――――と言う事を知らないからだだからこそ出来る攻撃なのだった。

 その攻撃を片手の攻撃で受けてソウは左手へ走り込む――――。

 ゼロスの言っていた通りに動いていた。敵が二人以上居る場合に一人の敵を正面に捕らえて戦っては行けないと言っていたのだ。言っていた通り走り出したソウの背中を追ってやはり 短剣のグラズヴォルが攻撃をしかけようとしていた。

 軍勢を相手に戦い続けてきたゼロスの教えが正しい事なのだと、ソウは心の中で感謝した。

 しかし、それでも敵は前と後ろの攻撃に照準を合わせていた。

 敵の攻撃に阻まれてソウの元へ走れないフレイヤが悲痛の叫び声を上げる。

 遠くで聞こえるフライヤの叫び声が耳に入ってくるが、もうフレイヤ達の姿を見る余裕など無かった。

 『しかし、良かったのだ』……ソウはフィーネを守る事が出来ただけで自分は良くやったと思っていた。『それが出来ただけで、僕はよくやったと自分を褒めても良いんじゃないか』と、心で思った時だった。


 『本当に、それで良いのか?』


 目の前から打ち折らされる何度かめの長剣の攻撃を受ける時、心の中にそれは聞こえてきたのだった。


「!?」


 あたりを見回して声の主を探すソウ――――。だが、誰もそこには居なかった。


 『だが、友の為、自身の命を投げ出して戦うその行いに、今は報いようっ!!』――――。


 しかし、何処にも居ない声の主がそう言うと、ソウの足元から何かの光が噴き出したのであった。


『スヴェートッ!』――――主の知れない声が、何かの呪文を叫んだ。

 

 慌てて飛びのくソウ――――。

 しかし、その光はソウでは無く、敵のグラズヴォルの身体を弾き飛ばして居たのであった。弾き飛ばされて地面に叩きつけられたグラズヴォルの身体が僅かに煙を上げて苦しんでいるのが分かった。


 そこにひとつの光の布に覆われた人のような物がふわりと浮かんで敵の前に立っていた。

 ソウを振り返ると、にぃ~……と笑う口と目のような物はあるが、頭と肩や足の区別は無かった。あ、ただ、動き出そうとするソウをに向かって制止するよう手のようなものを突き出した。

 何が起こってるのかソウは分からなかったが、後ろに回っていたグラズヴォルが動くと、そこにもまた別の光の布のようなものが現れてソウとの間に立って、敵を困惑させた。

 勢いあまってグラズヴォルは短剣でその光の布を切りつけた。しかし、その攻撃が見事にすり抜けて打ち下ろした反動で自分が地面に膝をついた。光の布のように見えるのに、それは透明な霞のような存在なのかも知れないとソウはその時思った。


 戸惑う二人のグラズヴォル。


 すると、気が付くとフレイヤの所とアグニ達の下へ向かっていた2体の騎馬の前にも同じ光の布がそれぞれ現れていた。


 アグニも下がり、ゼロスとフレイヤが後ろに少し下がるように指示すると、同じようにグラズヴォルの前に進み出てフレイヤ達を守ろうとするのであった。


 馬上のグラズヴォルもまた、突如現れた光の布のような物に戸惑いを持って少し後ずさりをする。しかし、――――。


『このまま、黙って見ていて貰おうかな……』


 何処からか聞こえてきた謎の声をフレイヤ達も上や辺りを見回す仕草をしたかと思うと、急に光の布がそれぞれのグラズヴォルに向けて凄い速さで動き出すのであった。


 不意を突かれて驚くグラズヴォルだが、自分を抱えた光の布を掴もうにも自身は脇の下から抱えられてるのに掴めないでもがきながら空に舞い上がるのであった。


 グオオォォォォーーーッ!


 光に抱えられてる辺りから煙を上げて悲痛の声を上げる4体のグラズヴォル。


 すると、その光の布の一段は、中空で一緒に集まり外から4体のグラズヴォルを包むように押し付け始めるのであった。

 見上げるソウやフライヤの上で、煙を上げて苦しむ4体のグラズヴォルが様々に逃れようと暴れてみせる。

 しかし、その力が遥かに及ばないのか徐々に小さくなっていく光の布の集合体。


 オオオォォォーーーッ!


 と、いきなり光の輪の中で断末魔の声をグラズヴォルが上げた。


 見上げる皆の目に一点に向かって縮んでいた光が爆発すると、グラズヴォルの居なくなった空にはキラキラと星のような光の断片がゆっくりと舞い落ちて来るのであった……。


「うわ……綺麗……」

                                                                                                                                  

 思わずフィーネが声を漏らした。


「綺麗だったかい、お譲ちゃん?」


 すると、今まで居なかった地上に、一人の老人が立っていた。


「かつての栄光を馳せた勇敢な戦士が、何を欲したのか邪悪の者の配下に成り下がるとは、悲しい宿命だったな……。、せめて光の名の下に、逝かせてあげられたのが手向けだろうな」


 そう呟くと、長い髭の老人が皆のことを見て一つきりウィンクをするのであった……。

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