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序 章   旅立ちのハリネズミ

ひょんな事から心優しいが虐められる日々を送る主人公が、異世界に冒険に出るお話で、私の昔から胸にあったとある世界を旅させようと思って居ます。ハリネズミにキックされた彼が今後どのような苦難に遭遇するのかが心配ですが、最後までお付き合い下されば嬉しいです。

宜しかったら、評価&ブックマーク登録して頂けると嬉しいです。


「この世にはどんなに頑張ってもどうにも成らないことが有る。


 それは、空を飛ぶ事。


 そして、こいつらに逆らって、思いっきりやっつけてしまう事……」


 クラスの後ろの端で、創は今日も3人のクラスメイトに囲まれながらそんな事を考えていた。


 可愛かわい そう。乗度高校の1年生である。


 3時間目の休み時間、いつものように彼らが集まってきた。他の生徒より頭一つ大きい。空手部の主将の大門とその子分の二人であった。


「なあ、今日もいつものやつ頼むわ~」


 大門がにやけ顔を近づけてきて囁いた。

 大門が言っているのは毎日買いに行かされる学校の売店の人気メニュー『たこ焼きパン』。これが彼の大のお気に入りであった。それと野菜ジュースとあわせて3人分。

 仲など良くないこの3人に何故そんな物を買ってこないといけないのか? それも当たり前のようにお金を払う気など無い。そんな生活が始まって2ヶ月が過ぎていた。


「なんで僕が……」


「はぁっ!? ―― 俺たち友達だろ、違うのか?」


 身体の小さい創が必死に勇気を振り絞って言った言葉に大門は口を大きく開けた。

 今度は凄みのある顔にわざと笑顔を作り、大声で笑いながら言ったのだ。


「友達なんかじゃな――」

 とそこまで言いかけた時、大門が創の脇の下に腕を入れて創の身体を椅子から立たせた。


「友達だから一緒にトイレ行こうぜ……。なぁ、かわい創くん」


 有無を言わせず創を連れて廊下を歩きだした。


 トイレに着くなり、腹を殴られた。いつものパターンだ。両脇の子分の2人が腕を抑えた。

 ほら来たもう1発。腹なら外見に変化が無い。こいつらの常套手段だ。


「俺があのパンを好きなの知ってるだろ~、俺はアレを昼休みに食べるのが楽しみなんだよ。昼まで待ったら無くなるだろ、友達にパンを奢り、奢られる。普通の事だろ、なんでそんな簡単な事も出来ないんだ、お前頭悪いのか?」


「君たちは友達なんかじゃ無いだろ? なんで一度もお金を払わない君たちに僕が奢らなきゃいけないん……」


 来た。

 最後の言葉を言い終わらないうちにまたもう一発パンチが腹に入った。


「それは何度も今まで言った事だろ?お前本当に頭悪いな。お前は弱い、だから強い俺にパンを奢る。それでお前の友達になってやってるんだ、それの何処が不満なんだ?。友達でこいつらもクラスメイトだ。腹が空いて授業に身が入らないからお前に頼んでるんだ!!さぁ分かったか?これで次の休み時間行ってくれるよなっー?!」


 最後の語気を強めるのと同時にもう1発腹を殴られた。

 うぅ…と小さく呻いて、最後はまた言わされた。

 あの屈辱の言葉。


『分かったよ。喜んで買いに行くよ。友達だから……』

 

 腹の痛みを堪えながら昼前の授業が終わると同時に売店のある渡り廊下を走っていた。

 早く行かないと売り切れてしまうのだ人気メニューの『たこ焼きパン』だから。

 しかし、走りながら思い出していた。なんで自分がこんな惨めな思いをしなきゃならないかと。


 最初から、3人が創に目をつけていた訳ではなかった。

 思えば中学の頃からだった。

 名前の『可愛 創』が、声に出して続けると『かわいそう』になる事で、すぐにからかわれ始めた。そして、それを無視するとさらにクラス全員で言い始める、あいつは“かわいそうなヤツ”だと。

 そうなるともう御終いだった。手がつけられない。

 クラス全員で創を仲間外れにして、誰も創のそばに寄り付こうとしないのだ。誰も同じ虐めの対象に自分からなる人間はいない。

 そんな3年間を送って来た。

 誰とも話もしない、友達も居ない3年間。

 それでも学校に行っていたのは、優しい母に心配をかけたくなかったからである。

 自分さえ黙っていれば分からない。どうせ言った所で学校もクラスメイトも救ってくれる人は現れないのだから。その代わりと言ってはなんだが、普段からひと目の付かない所では良いことを努めてしてきた。

 落ちている人の落し物を目の付く塀の上に置いたり、今日も目の見えない人の手を引いてタクシー乗り場で代わりに手を上げて載せてあげたり。努めて良いことをして来た。

 しかし、一つわかったことがある。

 良い事をしても、何も変わらないんだと。

 『何も、自分には良い事が起こらない』……という事を。良い事をしても、自分には何も返ってこなかったのだ。


 それを変えたくて、誰も知り合いの居ないこの離れた高校を受けたのだ。ここで再出発するために。

 誰も中学の創の事を知らないので、普通に喋れて楽しかった。単純に、その事だけが楽しくて学校に行くのが楽しかった。学校までの距離が遠くてだいぶ大変だが新しい楽しさの前では何の苦も無かった。

 しかし、高校生活が始まって一週間と経ったある日、違うクラスの中に同じ中学の人間が偶然創を見つけたのだ。その人間が話したのだ、創の中学時代の話を。

 その途端、クラスの元気の良い奴が創の名前をまたからかったのだ。

 一瞬で身体が強ばった。あの3年間の辛い日々が脳裏をよぎったのだ。

 その言葉に身体がすくんで何も言えなくなった。また、虐められる。そう思った途端にまた人と喋れなくなった。

 それを大門たちが聞いていた。

 そして直ぐの休み時間に大門が近づいてきてそう言ったのだ、『かわいそう君、友達になろう…』と。

 金も払わず、好きなものを買いに行かされる。その日から大門の暴力が始まった。

 最初に抵抗した。

 しかし、拒んだら腹を蹴られた。息も出来ないくらいの苦しみ。

「顔面の痛みは目眩だが、腹の苦しみは地獄の苦しみって言うからな…」

 そう言って更に腹を正拳突きされた。


「くそ…」


 声にならない悔しさで唇を噛み締める…。しかし、自分にはどうすることも出来なかった。

 今までと一緒だ。

 クラスの人間はきっと気づいてる。

 しかし、誰も助けてくれはしなかった。

 また、同じ中学時代に逆戻りだ。また、心を閉ざして生活すれば、全て丸く収まるんだ…。

 廊下を走りながら、浮かんできた涙を隠すため下を向いたその時だった。


「本当にそれで良いのですか?」


 突然、心の中に響くような声が聞こえてきたした。


「!?」


 創はその場で立ち止まった。


「貴方は本当にそれで良いのでしょうか……?」


 立ち止まった創の前に1匹のハリネズミが立ち上がって創を見つめていた。


「え、ハリネズミ?」


 昼食の始まってごった返す売店へ向かう廊下に、奇妙な事にハリネズミが立ち上がって創を見つめているのである。しかし、誰ひとりとしてハリネズミに気づいていない様子。


「君が今話しかけてきたの?」


「そうです。私が貴方の頭の中に直接話かけています」


 ハリネズミはゆっくりと創を見つめながら頷いて見せた。


 創は周りの人の様子に何かを気づいた様子だった。うっすらと光っているようにも見えた。

 『見えていない……?』

 そのハリネズミの姿が見えているのは自分だけだと確信した。でなければ、ハリネズミが直立で立っていて誰も何も感じ無い筈がないからである。


「これを見てください」


 そう言うと、ハリネズミは自分の横の壁を指さした。

 そこに大きなドアがあった。

 見たこともない木造の両開きのドアである。学校の作りとは違うドアのうえ、元より毎日買いに行かされる売店の廊下にこんな大ぶりな扉があったら知らない筈がない。

 しかし、そんな大きなドアが今は創とハリネズミの前にそびえ立っているのだ。

 そして、そのドアの片方が少し空いていて、中の風景が見えそうになっているのである。


 『うん?』


 そこには学校の教室が有るはずの空間に、なにやら森のような風景が見えていた。

 ドアに手をかけて更に大きく開けた創。中には広大な森が広がり、足元の地面には草原が風にたなびいて顔に風が当たっていた。

 驚く創にまたハリネズミが話し掛けてきた。


「私はこの世界に来て沢山のこの世界の人を見ました。そして……」


「え?」


 すると、自分の背中に何かが触れたのを感じて創は後ろを振り返ろうとしたその時だった。


「そして、私は貴方に決めました……!」


 ドンっと勢いよく背中を押されたかと思うと、振り返る創の目に手を振るハリネズミの姿が笑っているように見えた……。

最後まで読んで頂けて有難う御座います。


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