第6話:二度目の初雪
鳥の鳴き声で我に返る。
集中し過ぎた。
彼を見ると辞書の悲惨さが目に入った。
今何時だろう?と、開いた携帯に私は彼を叩き起こした。
「起きて圭吾さん!!」
寝起きは良い方なのか?彼はすんなり目を覚ました。
「初めて俺の名前呼んでくれたね」
ぐへへと笑う彼を見て、顔が赤くなっているのが分かる。が…、私は持っていた携帯を彼の前に突き出した。
「げ…」
急いだ。
急ぎまくった。
只今の時刻7時半、後少しすれば職員の人達が来てしまう。
私は本を片付けるのに走り、彼は部屋の片付けに集中した。
「本を片付けたら一階のトイレの前で待ってて」そう言われたので、私は自分の読んでいた本と彼の枕を片付けトイレに急いだ。
一足先に着いたらしく、上から忙しなく階段を下りる足音が聞こえた。
「お待たせ、じゃあ急ごう着いて来て」
そう行って彼はトイレに入って行った。
もしや…。
予感は的中した。
慣れた感じで荷物を窓から投げると自分も後から続いた。
「大丈夫?」
彼はひょいっと軽く窓から抜けて行ったけれど、何気に窓の位置が高い。
彼が居たから良かったものの、一人だけなら危ないところだった。
夜の図書館は危険がいっぱいだった。
やっとの思いでトイレから外に出ると、雪がちらついていた。
「初雪…」
「初雪って、三日前に降らなかったっけ?」
「そうだけど、俺たちが出会って初めての雪だろ?」
「…毎回よくそんな恥ずかしいこと言えるね」
さすがに呆れてしまった。
「私は…初雪が今日なら私は二度目の初雪に期待したい」
彼は首を傾げていた。
もし次、雪が降ったときには彼と一緒に居たい。初雪も大事だけれど、次会えなかったら悲しいもんね。
そしてその日は意外にあっさり別れた。
数日後、私は雪の中走っていた。
図書館が見える。
そのうち、近付くにつれ人がちらほら目に付く。
私は裏に廻り、トイレの窓がある場所を目指した。
図書館を壁伝いに走り、次の角を曲がったらトイレの窓がある。
そこで彼はきっと…。
あの初雪と同じ時間。
白い息が宙に消える、 とうとう来てしまった。この角を曲がればきっと彼が居る。
息を整える。
いざ、尋常に!!
バッと角から身を出したが――…、そこには誰も居なかった。
足跡すらない。
始まってすらいない恋が空しく終わろうとしていた。
雪の上に座り込み泣いた。最近は泣いてばかりだな…と、思い彼の顔が浮かんで来た。
「うわあぁん」
頭では冷静に処理しているのに、感情が高ぶって涙が止まらない。
「また泣いてるの?」
顔を上げるとトイレの窓から彼が覗いていた。
「こっち来いよ」
彼は照れくさそうに手を伸ばした。
…が届かず。しかも
「ごめん動けない」
二度目の初雪は、少し泣いて笑いまくった。