第5話:それぞれの考え
久しぶりに女の子が泣くのを見た気がする。
ドラマで女の子が泣くと、ドキっとして意味も無く焦ったりしてしまう。自分がその中の主人公になったような、自分がその子を泣かしてしまったような…。
自分は女の子に弱い。
「はぁー」
先程、彼女が流した涙にどう対応すればいいのか分からず硬直してしまった。
自分でも考えがうまく纏まらず、言葉に出来なかった。
優しい言葉で慰めてあげたかったのに、出てくる言葉は軽くて安いプラスチックのようなものばかり…、言葉で伝えられないもどかしさと、小さくなっている姿を見て抱き締めたくなった。
けれど、今日初めて会ったばかりの人。
名前すら聞いていない。
辞書を手に取り先程彼女がうずくまっていた場所を後にした。
部屋に戻ると彼女は寝ていた。
最初見たとき泣いているのかと思ったが、のぞきこんだ顔は穏やかで可愛かった。
持って来ていた毛布を起こさないように彼女の肩に掛け、少し離れた席で辞書を開いた。
夢を見たようだ。
覚えていないけれど、どうやら悲しい物語だったみたい。
起き上がって頬を伝った冷たいものを手の平で拭った。
あれだけ泣いたのに…、まだ枯渇にはほど遠いのかな?
肩には彼が持ってきていた毛布がかけられていた。
自分にかけられた毛布をギュッと握り、彼を捜した。
少し離れた席で彼は寝ていた。
スー、スーと寝息を立て、辞書を枕にして気持ち良さそうに眠っていた。
毛布を返そうかと思ったが、彼の肩にも私と同じ毛布がかかっていたので、ありがたく使わせてもらうことにした。
携帯を開いて、今の時間を確認する。
「12時半か…」
8時頃から寝ていたから結構寝たんだなぁ。
そうして私は前々から読みたいと思っていた本達を見付ける旅に出た。
ふと目を覚ますと開かれた辞書が枕になっていた。
「あれ?」
開かれたまま枕にしたせいで、ページが折れてしまっていた。
しかもヨダレで汚してしまっていた。
ごめんなさい…、心で呟いて辞書を閉じた。
顔を上げると彼女が居ないことに気付く。
毛布もないし、どこに行ったのだろう?
心配になって捜しに行こうと立ち上がると
「おうっ」っと声がした。
視線をやると彼女は床に座り本を読んでいた。
「おうっ」とは俺が急に立ち上がったことにビックリした声だったらしい。
「続けて下さい」
「はい」
小さく答えて彼女は本に目を戻した。
俺は新しい辞書を取りに一階に向かった。
彼女は知ってか知らずか、何も聞かなかった。
なるほど。
本の内容と彼の行動の理由に一人納得した。
私が座っていたから、見えなかったんだね。
私は椅子に戻り、また本に目を落とした。
たまに思い出したように彼の方を見る。
彼は辞書を取りに行ったまま帰って来ておらず、次に見たとき、いつの間にか戻って来ていて
「おうっ」と声に出しそうになった。
その後、けっこう時間が経ってから彼を見ると辞書を開いて眠っていた。