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初雪  作者: かなぶん
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第4話:イベント発生

手を顔に当てて、悪いことしたわけでも無いのに言い訳を考えてしまう。

私は後退りながら階段の段差に気付かず体勢を崩してしまった。


「うわわっ!!」

 手をぶんぶん振り回しながら、後ろに倒れそうになる。

 あっ倒れる。

 そう思ったとき、彼の手が私に伸びていた。

 私は彼の手に助けを求めるように手を伸ばした。

 ぎゅと握った手は私を斜め45度の不安定な姿勢から救い出してくれた。

 そのまま引き寄せられて彼の胸に吸い寄せられそうになる。

 このままスッポリ収まっても問題は特にない。

 そう思った自分が恥ずかしく愚かだと感じた。

 私は彼の手を払い、両手で彼の胸を押し返した。

 段差に足を取られて、助けられて、押し返して、私はまた段差の罠にかかってしまった。

「うわっ」

 咄嗟に階段の手摺りを掴むも、腰辺りから落ちてしまった。

「おい、大丈夫か?」

 周りの景色が回っているようだ。

 立とうとしてもうまく立てない。あのとき、一人になったあのときでさえ私は一人で立てたのに…。

 悔しくて、恥ずかしくて、情けなくて、痛くて、たくさんの感情がぶつかって私は泣いてしまった。

 彼の声でさえ私には届かない。耳に入り、心を突くのだけど、私の心で門前払い、中には入れない状況。

 久し振りに涙した私は、この涙の止め方を覚えていなかった。

 館内には泣き声が静かに響いた。

 だらだらと流した涙を彼はどう受け取ったのだろう?

 座り込んだ私には彼の足もとが見えるだけ。

 私から見える彼の表情も足もとだけ、履き古した黒いスニーカーがこちらに向いている。

「とうっ!!」

 彼の声と頭部に鈍い衝撃。

 痛みは無いが、鼻水が吹き出そうになる。

 頭を押さえながら顔を上げると、もう一発頭にチョップをぶち込まれた。

「…泣くなよ」

 あまりにも悲しそうに言うので、また涙が溢れ出した。

 さっきとは違う、人を想って泣いた綺麗な涙。 自分がかっこ悪くて泣いたのとは違う。

 泣きじゃくる私の手を握り力一杯引き上げ私を立たせると、何も言わずに来た道を引き返しだした。

 手を握り泣きながら私たちは階段を上った。

 ぐずぐずと鼻をすすり、泣かないように迷惑かけないようにと思う度、彼のぬくもりが嬉しくて私は涙を止めることが出来なかった。

 初めて会った人なのに私何甘えてるんだろう?ってか初めて会ったから甘えてるのか?友達だから言えることと言えないことってあるし…。

 未だに握られた手を見て視線をすぐに逸らす。 改めて見ると恥ずかしさが込み上げて、ニヤけてしまう。

 彼のぬくもりにまだまだ涙してるけれど、悲しいわけじゃない嬉しいからだよ?

 私の思い伝わってるかな?

 三階に戻ってきた。

 私たちが居た部屋からは、点けっ放しのランプの明かりが漏れだしていた。

「もう大丈夫?」

 涙を拭いうなづいた。

 それから彼は一階に置き忘れた辞書を取りに、再び部屋を後にした。

 机に突っ伏してアルコールランプが描いた光をぼんやりと眺めた。

 まだまだ寒くなる館内に私はマフラーを巻き直した。

 何もかもがぼんやりとしていて何だか眠い。

 泣き疲れたのかも。

 あれだけ泣いたの久しぶりだったし。

 何か今大切な時間過ごしている気がする…。

 そんな気がする。

 それだけ頭の中を巡って、何もかもが私の中から消えていった。


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