第2話:準備完了
息を殺し、見ていた本を静かに閉じる。
彼に目をやると、目を閉じながらも足音を気にしている感じだった。
部屋の中心にある本棚。
そこから、右寄りの本棚の上に私達は隠れていた。
左側には、いくつもの本棚がずらりと並んでいる。
右側には数える程度の本棚が並んでいた。
本当にこんなところで見付からないのだろうか?と、不安になる。
足音がハッキリ、クッキリ近付いて、私の心臓の音もハッキリ、クッキリ大きくなる。
「大丈夫だよ」
小声で彼が言った。
「うん」
私も小声で返事をした。
響き渡る足音が私達のいる3階にやってきた。
パスン、パスンと足音を立てて、鼻歌混じりでやってきた。
鼻歌を聞く限り女の人だと思う。
ギュッと目を瞑り足音が去るのを待った。
右側の階段からやってきた足音と鼻歌は、ゆっくりしたスピードで私達の前を横切って行った。
そして館内から職員は居なくなった。
ドアを閉める音や、帰り祭の車の音、全てが手に取るように分かった。
「じゃあー、館内から職員は居なくなったわけだけど、注意事項がいくつかあります。心して聞いてね」
遠足に来たみたい。
頭を過ぎり、込み上げる笑いを押さえ
「はい」と答えた。
「まず、ひとつ電気系を触らないこと。明かりや暖房も付けないように。後、トイレの電気もうっかり付けないようにね。ふたつめは、他の“居残りさん”と関わらないようにー、ちなみに居残りさんは僕らみたいに残ってる人のことだからね。大抵の人は普通だけど、人によっては危ないことしてる人もいるからね。気を付けて。みっつめは、悪いことはしないだよ。読んだ本は元に戻すし、ゴミはしないし、騒がないし、器物破損等など、以上三つのことキチンと守って下さい。良いですか?」
「はーい」
良い返事と彼が言うから、私は少し恥ずかしくなって下を向いた。
あー後、と彼は言葉を続けた。
「なるべく俺から離れないでね」
それにはさすがに恥ずかし過ぎて私は頭を打ち付けた。
「取りあえず降りますか」
私達は俯せで寝転がっていた本棚を降り、荷物を持って近くの部屋に移動した。
本棚から降りるとき、荷物を運ぶときも何も言わず手を貸してくれた。
またしても頭を打ち付けてしまいそうな程に、恥ずかしく唇をキュッと噛んだ。
館内は真っ暗で電気を点けることも出来ない。
彼はスポーツ用品店で売っているような形の大きなバックを取り出した。
その中から懐中電灯を取り出した。
点けた明かりは部屋を明るく照らした。
「待ってて、ちょ、これ持って、手元照らして」
渡された電灯で彼の手元を照らしていると、彼はバックの中から色々な物を取り出した。
薄手の毛布、弁当やお菓子、そこまでは私にも理解出来る代物ばかりだけど後から出てきた紐やらなんやら、ごちゃごちゃとしたものが山のように出てきた。
「あった、あった」
やっと見付け出した品物はアルコールランプ。
「これ、もしかして手作り?」
「そうだよ」
父が家で呑んでいる酒の小瓶に似ていた。
それがアルコールを満たし、理科室に置いてあるまんまの姿だった。
彼はアルコールランプに鉄で出来た傘を被せ、マッチで火を点けた。
鉄の傘には穴が開いており、明かりを点したことで部屋中に星が現われた。
「うわ、すごい」
「でしょ?なかなかの出来だと自分でも思ってるんだ」
私の堅い発想では永久にお目にかかれない代物だ。
アルコールランプを窓際から離れた机の上に置き、ごちゃごちゃした中から布を取りだし、念の為とカーテンのように窓に掛けた。