(7)
「まあともかく、童貞をこじらせた童貞はウザいってわけだ。ここに集っている連中は、もうそういった次元からは遠いだろうが。良くも悪くも」
「それは何か? 私たちが、ある種のナイーヴな感性を摩耗させているのではないのか、という指摘ですか?」
フレアが、レルエリィの、ちくっとだが、トゲを含んだ言い方に反応する。
「ガチに取らないでくれよ、博士。あんたも理解しているだろう?」
「ええ、わかっています。ただ、学徒の端くれとして、ちょっと……まあ、過敏に反応している分だけ、安心側なのでしょうか。それとも、余裕がないのでしょうか」
「あんたが言うなよ。あんたが『端くれ』だったら世の学者は何か、ってことになるぞ」
「それでも、まあ」
「気持ちは分かりますけどね」
月読が言う。
「童貞意識の欠如は、知らないうちに起こってくるものですから。それが大人になるってことでしょうし。まあ、三百越えたセリゼや僕みたいな年寄りが言えた身分ではないですが」
「ああ? 誰がロリババアだって?」
自意識過剰なセリゼ。
「ロリとは言うてないじゃん」
月読、セリゼにだけはフランクな口調になる。付き合いが長いからだが。そりゃそうだ、この中で、百年単位で付き合っている者など他にいない。
「……まあいいや。だいたいの話はわかったけど、店主、こんなとこで暇つぶしていていいの? リッテが泣くよ?」
セリゼ、レルエリィの右腕であるところの、「懐中水時計」少女店員・リッテの名を出す。
「大丈夫大丈夫、あいつは有能なんだから、俺がこうしてダラダラしてても全然」
そう言った矢先である。
ピンポーン、とチャイムが鳴った。