(6)
そんな暇人店主(いい身分だなオイ)レルエリィが、とどめと言わんばかりに言葉を足す。
「しかし、童貞意識をこじらせるのは問題だが、童貞意識が皆無というのもつまらんもんだ」
セリゼ、突っ込む。
「前言撤回も甚だしいな。人はそれを贅沢という」
「考えてもみろ、人間物事をしはじめのころが一番楽しいのだ。ロマンティックなのだ。歳を重ねるに従って、そのようなナイーブな感覚は無くなっていく。悲しきかな。とくに、エロの分野においてはそれが顕著だ。はじめはラッキースケベなパンチラで十二分に満足していたのが、童貞意識の喪失によって――あるいは、童貞をこじらせ、性的にこなれてくることによって――不感症になってしまう。結果、よりアブノーマルな方向へと行ってしまう。本当に自分が求めているエロが何たるかを、いつの間にか見失い――」
「つまり、何だろうか」セリゼは独白する。「新鮮さ、という観点からその童貞意識とやらを捉え直してみたら、我々には、いつも童貞意識を忘れずに、かつ、童貞意識をこじらせないようにしなければならないという芸当をしなければならない、と?」
「まあ、俺が言いたいのは、結局そういうことだ」
「禅の修行のようですね」
話を聞いていないようでしっかり聞いていた月読が口を挟む。
「全く禅だ。ていうか月の字聞いてたのか」
「仙人は結構何でも出来るんですよ」
「適当ぶっこいてるだけでしょが」
長い付き合いであるセリゼが、月読に突っ込む。
「まあそれはともかく、レルエリィさんの意見には賛同しますね。人間、童貞のときが一番楽しい」
「なんつうか、こう、見た目女の子なショタが童貞とか言うのって萌えるよな」
「黙れよ」
店主、昨今のオタ業界に毒されている。セリゼはそれに冷静に突っ込む。さっきから突っ込む突っ込むと言っているが、性的な意味ではない(こっちも黙れよ)。
「あらゆる分野でそれは言えることですね。自称上級者ほど、道を誤っているモノはない。学術名『シッタカブーリ・マイマイ』というカタツムリ科の……」
「しれっと息をするかのように嘘をつくな」
何だかいつの間にかセリゼが突っ込み役になっている。まあ、話をするにあたって、突っ込み役がいないと話が流れていかないし。エロゲでも、突っ込まない男が出演しない百合エロゲ(レズゲー)は売上悪いし。(いい加減にしろこのネタ)
「まあそれは嘘として」月読は淡々と言う。「でも確かにそういった存在が見受けられるのは、事実ですよね? とくに、学術分野なんかだと。大家さん?」
「その通りです」
かぶりを振ってフレアが言う。
「シッタカブーリ・マイマイの巣窟ですよ、私達の業界は。まあ、そういった手合いは淘汰されるのが常ですけど、処世術を持っているのは、案外……ああ、まあ、レルエリィさんの言葉を借りれば、学問的な童貞も確かにいることはいますね」
「結構フレアって律儀に話についてきてくれるよね」
キギフィが感心して言う。確かに、こんな酒の肴のウダウダトークのような話に丁寧に付き合うというのも、立派なものである。
「結論としては、だ」レルエリィは言う。「童貞はウザい。だが、新鮮さを失った求道者は、つまらない。しかし、道に迷って勘違いしている者もまた、悩ましい。よし、話が綺麗にまとまった」
「無理やりまとめたような気がするけど、まあ納得しておくか。それにしても店主よ、結構腹に据えかねているモノがあるようだな、ここまで話を広げる、ということは」
レルエリィは大きく伸びをして、ふあぁ、とあくびをして、話をする。
「結局、自意識の肥大の問題なんだよな。身の丈にあった童貞意識、というか、自己認識が出来ていれば、こんなことにはなっていないんだ。この近未来社会において、人々は、妙なコンプレックスに苛まれるようになった。贅沢者の悩みといえばそうだが、原始時代には原始時代の悩みがあった。現代には現代の悩みがある。が、煎じつめてみれば、大した問題じゃない、こんな童貞意識なんか。それをさも一生の大事のように、コンプレックス抱えているのが問題なわけで」
「生きにくい時代やのう」
一言、ぱさっと、セリゼがまとめた。