(15)
すると、突然群衆の中から一人の女性が現れてきた。
二十代後半から三十はじめくらいであろうか。タイトな黒いパンツルックのスーツに身を包み、切りそろえた黒いショートカットの、いかにも理知的な女性である。
細身ですらっとした体形、背は平均的な女性のそれである。ネクタイはしていない。さっとそれらの服を着こなしているあたり、「慣れている」な、と思わせる風体である。
「や、副局長」
「事故があったと聞きました」
副局長、と呼ばれた女性は状況を見て、セリゼと生じ御に問う。
「お怪我はなさそうですね。安心しました……仔細をお聞きしたいのですが」
「ラリったドライバーがこの子に突っ込んできそうだったから私が殴って止めた。で、こいつの処遇をどうしようか検討中」
「簡潔で何よりです」
クールな言い回しであるが、ある種のユーモアも持ち合わせているらしい話しぶりである。
「……ドラッグの使用であるとの判断はセリゼさんが?」
「いや、こいつ」そう言って月読を指すセリゼ。
「こいつだよ、月読は」
それを聞いて、能面のように冷静だった副局長の顔に変化が生まれる。
この事故よりも大きいのでは、と思うくらい。が、一瞬のうちに元に戻り、月読に相対する。
「はじめまして、セリゼさんから話は聞いています。この町の役場に管理者として勤めている者です。この度は、当事故にご尽力いただき、ありがとうございます」
副局長が淀みなく、しかし誠実さを感じさせる言葉を言う。
「あ、いえいえ。ほとんどセリゼがどうにかしたものですから」
月読は言う。
「ええと……ほんとにセリゼは僕のこと触れまわってるんですね」
「ええ、それはもう」
「それ以上言うなー!」恥ずかしくってしょうがないセリゼである。
「副局長さん、セリゼさんを弄るのも楽しいけど、それよりも……」
少女が言う。
「おっしゃる通り正論です。すでに警察には手を回し、逮捕と車両回収の命を下していいます。それから……大丈夫そうですね。どこにもお怪我はないようで」
「おかげさまで」
セリゼの方を見て少女は言う。
「皆さんにもご迷惑をおかけしました」
副局長は群衆に向かって頭を下げる。
あれ? と月読は思った。
どうしてこの人が頭を下げなくてはならないんだろう、と。これはあくまで事故であり、過失はあくまで運転手にあるはずだ。
それは皆も承知のようで、「いやいや気にしてないよ」といった労いの言葉がかけられる。「相変わらずご苦労さま」まで出てくる始末だ。
それでも、副局長はとても申し訳なさそうにしている。まるで自分の過失のように。
責務に真面目なのだろうか? ――いや、それだけではない、と月読の直感は告げた。
「ところでさ」
セリゼは副局長に言う。
「月読が来たということもあって、町役場に顔を出しておきたかったんだ。諸々の手続きとかは後でOK? ……この件の事情聴取とかはいいでしょ?」
「現状皆さん無事ですからね。後は後処理の問題ですから。月読さんに関しては、こちらも準備を済ませておりますので、後日いらっしゃってください」
そう言って、大破した車に寄っていく副局長。
「了解」
月読の代わりにセリゼが答えた。
「さ、行こうか」




