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すると、突然群衆の中から一人の女性が現れてきた。


二十代後半から三十はじめくらいであろうか。タイトな黒いパンツルックのスーツに身を包み、切りそろえた黒いショートカットの、いかにも理知的な女性である。


細身ですらっとした体形、背は平均的な女性のそれである。ネクタイはしていない。さっとそれらの服を着こなしているあたり、「慣れている」な、と思わせる風体である。



「や、副局長」


「事故があったと聞きました」

副局長、と呼ばれた女性は状況を見て、セリゼと生じ御に問う。

「お怪我はなさそうですね。安心しました……仔細をお聞きしたいのですが」


「ラリったドライバーがこの子に突っ込んできそうだったから私が殴って止めた。で、こいつの処遇をどうしようか検討中」


「簡潔で何よりです」

クールな言い回しであるが、ある種のユーモアも持ち合わせているらしい話しぶりである。

「……ドラッグの使用であるとの判断はセリゼさんが?」


「いや、こいつ」そう言って月読を指すセリゼ。

「こいつだよ、月読は」


それを聞いて、能面のように冷静だった副局長の顔に変化が生まれる。

この事故よりも大きいのでは、と思うくらい。が、一瞬のうちに元に戻り、月読に相対する。


「はじめまして、セリゼさんから話は聞いています。この町の役場に管理者として勤めている者です。この度は、当事故にご尽力いただき、ありがとうございます」


副局長が淀みなく、しかし誠実さを感じさせる言葉を言う。


「あ、いえいえ。ほとんどセリゼがどうにかしたものですから」

月読は言う。

「ええと……ほんとにセリゼは僕のこと触れまわってるんですね」


「ええ、それはもう」


「それ以上言うなー!」恥ずかしくってしょうがないセリゼである。


「副局長さん、セリゼさんを弄るのも楽しいけど、それよりも……」

少女が言う。


「おっしゃる通り正論です。すでに警察には手を回し、逮捕と車両回収の命を下していいます。それから……大丈夫そうですね。どこにもお怪我はないようで」


「おかげさまで」

セリゼの方を見て少女は言う。


「皆さんにもご迷惑をおかけしました」

副局長は群衆に向かって頭を下げる。



あれ? と月読は思った。

どうしてこの人が頭を下げなくてはならないんだろう、と。これはあくまで事故であり、過失はあくまで運転手にあるはずだ。


それは皆も承知のようで、「いやいや気にしてないよ」といった労いの言葉がかけられる。「相変わらずご苦労さま」まで出てくる始末だ。


それでも、副局長はとても申し訳なさそうにしている。まるで自分の過失のように。


責務に真面目なのだろうか? ――いや、それだけではない、と月読の直感は告げた。


「ところでさ」

セリゼは副局長に言う。

「月読が来たということもあって、町役場に顔を出しておきたかったんだ。諸々の手続きとかは後でOK? ……この件の事情聴取とかはいいでしょ?」


「現状皆さん無事ですからね。後は後処理の問題ですから。月読さんに関しては、こちらも準備を済ませておりますので、後日いらっしゃってください」

そう言って、大破した車に寄っていく副局長。


「了解」

月読の代わりにセリゼが答えた。

「さ、行こうか」


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