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彼女は顔かたちは悪くないと書いた。


そしてその前に、とても平凡な見てくれをしているとも書いた。


なぜそのような「平凡さ」をまとっているのだろうか。


それはひとえに、彼女が「どんな美人にも化けられるスパイ」であったからだ。


一般的な女性のメイク技術は、「通常三割増」から「別人に化ける」程度にまで、様々であろうが、彼女の場合、あらゆる美人に化けることが出来た。


あるときは瀟洒なヴェルヴェットが似合う貴婦人に。


あるときは清潔な身なりをした、万人に愛される美人に。


あるときは……どのような形であれ、彼女は人目をひく姿になることができた。


そしてそれを使って、様々な情報を盗む。


それが彼女の仕事であった。


その美貌は完璧であり、その美貌にうつつを抜かす男性諸君は、例えば貴婦人の「化け」に心奪われ、例えば清潔な清純派に心奪われ、ひょいと情報を渡してしまうのである。


注意する点は、「ああ、この女性になら打ち明けてもいいだろう」という、ある種の人格の深さ、まっとうさとでも言おうか。そのようなオーラをかもし出すことに彼女は長けていた。


つまるところ、「とてもいい女」のふりをすることができたのだ。


彼女はそれを利用した。


そして彼女のその素質を上層部は余計に利用した。


身体を使ったことも幾度と無くある。が、それは彼女の職業において当たり前のこと。


そして彼女は「とてもいい女」であるがゆえに、同業者の間でもマークされない存在だった。


言い換えれば、「自分らしさ」「アイデンティティ」をことごとく消し去った美貌を使っていたのだから。


つまり彼女の美貌は、美貌であるには違いないのだが、ひとたび彼女との席を外すと、どのような顔かたちをしていたか、忘れてしまうような美貌だった。


それは「美貌」か? と人は言うかもしれない。


が、信じてほしい。


「美しい」というふんわりしたニュアンスだけが残って、あとには何も残らない、という類の美貌も世の中には存在するのだ。例えば、きれいな写真だが、それによって心がきれいになるのだが、しかし「心に突き刺さる」までにはいかない写真、というものを、皆様も目にしたことがあるかと思う。


そういったモノだ。


だから、彼女は人と様々に交流し、情報を盗む。


が、盗まれた者は、盗まれたこと自体に気づかない。


彼女の存在自体が、「ああ、美しかったな」で留まるようなものであって、それ以上の存在感というものがなかったからだ。


その点、キギフィのような美貌とは正反対だといえる。とにもかくにも、キギフィの美貌は人の心に刻まれまくってあとをひく。


そんなキギフィがよく特殊部隊などという、機密事項バリバリの職務についていたな、と思われる向きもあるだろうが、ひとえに、先に述べたように、任務中は鬼の面を被っていたからである。

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