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さて、さりげなく話題がグダグダになってきたところで、再びレルエリィが大言壮語した。
「童貞は……うぜぇっ! 死ね!」
「今更言うのもなんだけど、本屋の主がそれを言うかね? スケベブックだって扱っているだろうに」
いたって冷静にセリゼが突っ込む。
「俺の店には、一般的なモノはないからな……芹の字、お前も知っているだろう? 『懐中水時計』の品ぞろえは」
「まあねー、ていうか芹の字言うな。春先の鍋物か」
書店・懐中水時計は、元貴族のレルエリィ・ヒルトハミットが、自分の趣味をそのまま仕事にしたような店である。
ある種のセレクトショップというか、扱う品は古書珍書マニアック書、世界各国で行われている古書オークションの代行も引き受けている。もちろん新刊もきちんと取り寄せている。基本的にも絶対的にもどんな類の本でも頼めばOKである。ネット通販全盛のこの時代において、個人書店がそれだけの流通を持っているのは、まったく恐ろしいことである。
例えるなら、ロシアの片田舎で電撃文庫や電撃文庫MAGAZINのバックナンバーを取り寄せるようなものなのだから(地理的に言って)、そういったことが平然と行えるだけの力量、まさに感服に余りある。
誰がロシアの片田舎で『撲殺天使ドクロちゃん』やラノベ雑誌を買うねん、という指摘はあろうかと思うが、しかし世界、何が売れるか分からない。筆者、ロシアで「日本漫画売り上げベスト5」を見たとき、四位に松林悟『ロリコンフェニックス』が付けている、と知ったとき、ロシアもいよいよはじまったな、と思った。思えば『ロリータ』の原作者ナボコフもロシアの生まれではないか。(超こじつけ&亡命文学に対する冒涜)
ところで、元貴族、レルエリィの風体は、まさに貴族然としたところが、「雰囲気」程度には、伺える。
やや伸ばした金髪は、よく手入れがされていて、顔の彫りも決してアクの強いものではない。陶芸家が上手く拵えた感すら与えれるほどの、なかなかの甘さを感じさせる美形である。
身なりだって悪くはない。どころか、相当に良い仕立てのものを着ている。白で統一した上っ張り……というか、薄手のローブのような長い上着の下には、落ち着いた緑系の色・柄のトップスとボトムスでさらりと着こなしている。
全体的に細身で、キラリと読書家の常として煌めく双眸は緑色に深く。発言の出落ち感すら除けば、レルエリィは、育ちの良さそうな、いっぱしの好青年に確かに見える。
だが。
「仮にも書店……それこそ、様々な客の二―ズに応えるのが商売でしょう」
セリゼは正論を言う。
「それを、まあ、少なくない数の男子諸君を敵に回す発言をしだした理由をとりあえず吐け」
筆者だって、読者が巻を投げ打たないように、この手の発言はたしなめておきたい。やっぱラノベ読者層って性経験が少ない人が多いのが当たり前なんだし(というかラノベを熱心に読む青少年が、エロースの玄人になっている世界というのもそれはそれで嫌だ)。