「婚約破棄する!」と宣言されたので、バルクアップして殴ったら王太子が飛んでいきました。〜なぜか血まみれでプロポーズされましたが、もっと強くなってから出直してくださいませ〜
今日は学園の卒業式。王太子と私との婚約を、正式に発表する日。
この国は、武道第一の国。老若男女問わず、最強こそが正義とされている国だわ。例えば、政治的駆け引きも、双方の主張が折り合わなければ、最後には腕っぷしで正々堂々勝負して、勝った方の主張が通るの。
まあ、あまりにも偏った主張は、宰相である私のお父様が正すのですけどね。何と言っても、お父様は、王国一の荒くれ者、ゲフンゲフン、最強の武道家なのですから。
そんな王国では、今、卒業式シーズン。今日、ここで私と王太子殿下の婚約発表はもう間近なのですわ。
学園の大広間には、貴族の子弟たちが沢山集まっています。皆、そわそわして、卒業したら騎士になるんだ、とか、あの子に結婚を申し込むんだ、とか、何やら青春めいたお話をなさっていますわ。
と、ファンファーレが鳴り響き、厳かな様子で、近衛兵たちが列を組んで歩いてきましたわ。
その隊列の中央には王太子。
何やら歴戦をくぐり抜け、ようやくここに来たというような、猛者の雰囲気を醸し出しています。
壇上に上がり、会場を見まわす殿下。あっ、私と目が合いましたわ。
「セシリア! 見付けたぞ! 今日ぼくは、君との婚約を破棄する!」
ピッ! と私を指さして言う王太子。
どよめく会場。
それを受けて返答する私。
「あら、エドワード様、突然どうしましたの? それは本気でおっしゃっているのかしら?」
「当たり前だ! 今日この日まで、ぼくがどれほど苦しんで来たか、君には分かるまい!」
おほほほ。私には何のことかさっぱりだわ。でも、向こうがその気なら、私にも考えがありますわ。
「何か悪いものでも召し上がったのかと思いましたわ。殿下は昔から、拾い食いをされる癖がおありでしたものね」
私とした事が、思わずくっくっと肩を揺らしてしまいましたわ。
「うふふ、よろしくてよ! 私も、ちょうど体を動かしたいと思っていた所ですわ」
そう言って、ふんす! と鼻息を荒げる私。あら嫌だ、少し下品だったかしら。
「むむむむむ……」
メキメキとバルクアップする私の全身。盛り上がる広背筋、僧帽筋と上腕三頭筋とが山脈をなす! 腹筋は安定のシックスパックですわ!
あっ、シルクのレースがめりめり、みちみちと……! ドレスが破れてしまうわ! 危ない!
と思ったら、侍女たちがさっと私のドレスを脱がしてくださいました。
「セシリア様、本当にいつもいつも……」
誰かがボソッと呟いたのは聞こえない事にしてあげますわ!
そして、中から現れたのは…… 深紅のバトルスーツに包まれた、鍛え抜かれた私のマッチョボディですわーッ!
「くっ…… ! ついに本性を現したな、王国最強と名高い、紅のセシリア! この日の為、ぼくは朝に夕に、それは壮絶な訓練をこなして来たんだ! 辺境の渓谷でワイバーンの巣に突撃し! ゴブリンやオーガの群れに単身挑み……!」
「セシリアパーンチ!」
「ぐぶぅ!?」
何やら喋っておいででしたけれど、聞く耳持ちませんわ! 私はせっかちですのよ!
そうしてエドワード様は、お城の壁に大穴を開けて飛んでいってしまわれたのですわ。
ややあって、壁の下から這い上がってきた王太子エドワード。
「さすがだ……」
ぜいぜいと息を荒くして、全身傷だらけになりながら、口元にはニヤリと笑みをたたえている殿下。
私は目を丸くしてしまいましたわ。
あの一撃を受けて、壁を突破し、さらに落下して、恐らく全身骨折していてもおかしくない、というのに……。
「よくもご無事でいらっしゃいましたわね? 私、感動しましたわ!」
思わずうっとりと笑顔になってしまいます。が、
「あら、鼻血も出ていますわよ?」 と補足を忘れない私。
「ふん、何とでも言うがいい」
そして、ややあって顔を上げるエドワード。
「セシリア。正式に言う。ぼくは、親によって定められた婚姻はごめんなんだ。だから、どうしても婚約を破棄する必要があった」
少し息を継いで、続ける王太子。
「そして君は、戦闘に勝ち、君の考えを主張する権利を得た。さあ、君の考えを聞かせてくれ! ぼくの気持ちは一つだ! 親や王国は関係ない! セシリア、ぼくと結婚してくれ! ずっと、ずっと、…… 大好きだった!」
どよめく会場。
え、何ごと? というヒソヒソ声 とか、あー、例のやつ…… ロジカル脳筋…… とか、「うちもああだったのよ!」だとか……。認めんぞー! などと怒号も聞こえているわ。
エドワード様ったら、いつの間にこんなに男らしくなったのかしら……
思わず感動で震える私。
いつかの模擬戦で、武者震いを覚えて以来ですわ!
そう、私の気持ちは決まっているのです。
「嫌ですわーっ! もっと強くなってから挑んできてくださいませーっ!」
あっ、思わず言ってしまいましたわ。
ガクッ、とうなだれるエドワード様。
再びどよめく会場。あははは! と笑っている不届き者も何人かいますわね。あっ、近衛兵! あなたたちの事ですわよ!
とは言え、概ね大多数は、そうだよね、うんうん、と頷いているわ。
あら、皆様、何か勘違いしていらっしゃらない?
無理もないかしら?
本当の事を言うと、……
私、エドワード様の事を憎くは思っていなくてよ?
貴族の子弟たち、どなたも皆、優秀で、非の打ち所のない方ばかり。あんなへっぽこ殿下では、埋もれてしまうというものですわ。
でも、殿下は、私にとってただ一人の存在なのです。
未来の旦那様には、少しでも強くなって頂かなくては! という私の親切心が、隠せないだけなのですわ!
おほほほ! 私の理想は高いのですわ!
私の鉄拳を受けて、それでも立ち上がるエドワード様……
今日の為に、また鍛えていらっしゃったのね。
白い燕尾服に、鼻血が鮮やかで、とても痛々しいですけれど。
ずっと、私だけを追いかけてくれて、私を見続けてくれるエドワード様、私もあなたが大好きです!
いつでもお相手して差し上げますわ!




