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「婚約破棄する!」と宣言されたので、バルクアップして殴ったら王太子が飛んでいきました。〜なぜか血まみれでプロポーズされましたが、もっと強くなってから出直してくださいませ〜

作者: 蕗 冬丹葉
掲載日:2026/07/13

今日は学園の卒業式。王太子と私との婚約を、正式に発表する日。


この国は、武道第一の国。老若男女問わず、最強こそが正義とされている国だわ。例えば、政治的駆け引きも、双方の主張が折り合わなければ、最後には腕っぷしで正々堂々勝負して、勝った方の主張が通るの。


まあ、あまりにも偏った主張は、宰相である私のお父様が正すのですけどね。何と言っても、お父様は、王国一の荒くれ者、ゲフンゲフン、最強の武道家なのですから。


そんな王国では、今、卒業式シーズン。今日、ここで私と王太子殿下の婚約発表はもう間近なのですわ。


学園の大広間には、貴族の子弟たちが沢山集まっています。皆、そわそわして、卒業したら騎士になるんだ、とか、あの子に結婚を申し込むんだ、とか、何やら青春めいたお話をなさっていますわ。


と、ファンファーレが鳴り響き、厳かな様子で、近衛兵たちが列を組んで歩いてきましたわ。

その隊列の中央には王太子。

何やら歴戦をくぐり抜け、ようやくここに来たというような、猛者の雰囲気を醸し出しています。

壇上に上がり、会場を見まわす殿下。あっ、私と目が合いましたわ。


「セシリア! 見付けたぞ! 今日ぼくは、君との婚約を破棄する!」


ピッ! と私を指さして言う王太子。

どよめく会場。

それを受けて返答する私。


「あら、エドワード様、突然どうしましたの? それは本気でおっしゃっているのかしら?」


「当たり前だ! 今日この日まで、ぼくがどれほど苦しんで来たか、君には分かるまい!」


おほほほ。私には何のことかさっぱりだわ。でも、向こうがその気なら、私にも考えがありますわ。


「何か悪いものでも召し上がったのかと思いましたわ。殿下は昔から、拾い食いをされる癖がおありでしたものね」


私とした事が、思わずくっくっと肩を揺らしてしまいましたわ。


「うふふ、よろしくてよ! 私も、ちょうど体を動かしたいと思っていた所ですわ」


そう言って、ふんす! と鼻息を荒げる私。あら嫌だ、少し下品だったかしら。


「むむむむむ……」


メキメキとバルクアップする私の全身。盛り上がる広背筋、僧帽筋と上腕三頭筋とが山脈をなす! 腹筋は安定のシックスパックですわ!

あっ、シルクのレースがめりめり、みちみちと……! ドレスが破れてしまうわ! 危ない!

と思ったら、侍女たちがさっと私のドレスを脱がしてくださいました。


「セシリア様、本当にいつもいつも……」


誰かがボソッと呟いたのは聞こえない事にしてあげますわ!

そして、中から現れたのは…… 深紅のバトルスーツに包まれた、鍛え抜かれた私のマッチョボディですわーッ!


「くっ…… ! ついに本性を現したな、王国最強と名高い、紅のセシリア! この日の為、ぼくは朝に夕に、それは壮絶な訓練をこなして来たんだ! 辺境の渓谷でワイバーンの巣に突撃し! ゴブリンやオーガの群れに単身挑み……!」


「セシリアパーンチ!」


「ぐぶぅ!?」


何やら喋っておいででしたけれど、聞く耳持ちませんわ! 私はせっかちですのよ!

そうしてエドワード様は、お城の壁に大穴を開けて飛んでいってしまわれたのですわ。


ややあって、壁の下から這い上がってきた王太子エドワード。


「さすがだ……」


ぜいぜいと息を荒くして、全身傷だらけになりながら、口元にはニヤリと笑みをたたえている殿下。

私は目を丸くしてしまいましたわ。

あの一撃を受けて、壁を突破し、さらに落下して、恐らく全身骨折していてもおかしくない、というのに……。


「よくもご無事でいらっしゃいましたわね? 私、感動しましたわ!」


思わずうっとりと笑顔になってしまいます。が、

「あら、鼻血も出ていますわよ?」 と補足を忘れない私。


「ふん、何とでも言うがいい」


そして、ややあって顔を上げるエドワード。


「セシリア。正式に言う。ぼくは、親によって定められた婚姻はごめんなんだ。だから、どうしても婚約を破棄する必要があった」


少し息を継いで、続ける王太子。


「そして君は、戦闘に勝ち、君の考えを主張する権利を得た。さあ、君の考えを聞かせてくれ! ぼくの気持ちは一つだ! 親や王国は関係ない! セシリア、ぼくと結婚してくれ! ずっと、ずっと、…… 大好きだった!」


どよめく会場。

え、何ごと? というヒソヒソ声 とか、あー、例のやつ…… ロジカル脳筋…… とか、「うちもああだったのよ!」だとか……。認めんぞー! などと怒号も聞こえているわ。


エドワード様ったら、いつの間にこんなに男らしくなったのかしら……

思わず感動で震える私。

いつかの模擬戦で、武者震いを覚えて以来ですわ!

そう、私の気持ちは決まっているのです。


「嫌ですわーっ! もっと強くなってから挑んできてくださいませーっ!」


あっ、思わず言ってしまいましたわ。

ガクッ、とうなだれるエドワード様。

再びどよめく会場。あははは! と笑っている不届き者も何人かいますわね。あっ、近衛兵! あなたたちの事ですわよ!

とは言え、概ね大多数は、そうだよね、うんうん、と頷いているわ。


あら、皆様、何か勘違いしていらっしゃらない?

無理もないかしら?

本当の事を言うと、……


私、エドワード様の事を憎くは思っていなくてよ?

貴族の子弟たち、どなたも皆、優秀で、非の打ち所のない方ばかり。あんなへっぽこ殿下では、埋もれてしまうというものですわ。

でも、殿下は、私にとってただ一人の存在なのです。

未来の旦那様には、少しでも強くなって頂かなくては! という私の親切心が、隠せないだけなのですわ!

おほほほ! 私の理想は高いのですわ!


私の鉄拳を受けて、それでも立ち上がるエドワード様……

今日の為に、また鍛えていらっしゃったのね。

白い燕尾服に、鼻血が鮮やかで、とても痛々しいですけれど。


ずっと、私だけを追いかけてくれて、私を見続けてくれるエドワード様、私もあなたが大好きです!

いつでもお相手して差し上げますわ!

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