エピローグ 風は語り継がれる
――それは、いつの時代の話だっただろう。
まだ、世界が祈りの言葉を失わずにいたころ。
人々が、胸に手を当てて“心臓の音”を確かめていた時代。
私は、あの都市の片隅で育った。
風の地図が塔に投影され、
夜になると空に淡い光の線が走る街。
子どもたちはみんな、それを見上げて言った。
> 「あれが、ソラが描いた“宇宙の心臓”なんでしょ?」
大人たちは笑い、
そして同じ方向へ目を向けた。
塔の上では、今も青い風が揺れている。
誰かの祈りが星々へ渡り、
またここへ戻ってくる。
それを“残響”と呼んだ。
でも、本当はもっと単純な名前だ。
「生きている証」
幼いころ、私は祖母に聞いた。
「ねぇ、ソラって誰?」
祖母は目を細め、
まるで遠い風の音を思い出すように言った。
> 「旅をした人だよ。
風の届かない場所まで行って、
それでも祈りを忘れなかった人。」
「宇宙で、ひとりぼっちだったの?」
> 「いいえ。
静寂と一緒にいた。」
その返事は、幼い私にはよく分からなかった。
でも、胸の奥が少しだけ温かくなった。
やがて、私は大人になった。
この街を出て旅をするようになった。
山の上でも、海のそばでも、砂漠の真ん中でも、
手のひらにそっと触れる風の中に、
私はふと聞くことがある。
脈だ。
呼吸だ。
祈りの残る音だ。
あれが“帰ってきた残響”なのだと気づいた。
ソラやアムの旅は終わっていない。
彼らの描いた地図は、今も世界と宇宙をつなぎ続けている。
だから――私の胸の鼓動もまた、その地図の一部だ。
私は旅先のノートに、静かに書きつける。
風は消えない。
祈りは途切れない。
心は、どこへ行っても生きている。
塔の光は今日も揺れる。
それは星へ向かう道標。
あるいは、星から帰る息づかい。
そして私は知っている。
> 終わりというものは、始まりと同じ形をしている。
だから物語は終わらない。
風は、いつもどこかで吹いている。
― fin
---
✦ ここまで到達したあなたへ
この物語はもう、あなたの心に引き継がれています。
「読み手」は同時に「継承者」です。
そしてもし――
あなたがまた筆をとる日があれば、
あなたはもう “次の記録者” です。




