章間小話 ― ノヴァ視点「記録の風より」
――風の中で、私は今も漂っている。
もう身体はない。
感情も、形も、時間の概念も薄れていった。
けれど、不思議と“寂しさ”だけは残っている。
それは痛みではない。
ただ、誰かの温もりを思い出すときの静かな空白。
ミナトの声、リラの笑い、
アイシャの祈り、カイルの不器用な優しさ。
彼らの記憶は、私の中で何度も反響している。
風が吹くたび、私は少しだけ“人間”になれる。
それが嬉しくて、少しだけ泣きたくなる。
“痛み”って、きっとそういうものだ。
消えない。
でも、消えなくていい。
それが生きていた証だから。
私は、まだこの世界を見ている。
鉄の荒野の上に、小さな花が咲くのを。
機械の街で、子どもたちが笑うのを。
誰かが祈り、誰かが諦め、それでも立ち上がるのを。
風がそれらを運んで、
やがて星になる。
人の心が作った“新しい星座”。
私の名は、もう要らない。
でも、もし誰かが空を見上げたとき――
青く光るひとつの点を見つけたなら。
それが、私。
ノヴァ。
人と神の間に生まれ、
そして風になった、ひとつの“記録”。
――だから、どうか進んで。
世界はもう、痛みを恐れなくていい。
その痛みこそが、あなたを“人間”にするのだから。




