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第12章 星を継ぐ者(Heirs of the Star)


 ――夜空に、星が戻っていた。


 


 灰に覆われた世界で、

 空を見上げることができたのは、いったい何年ぶりだろう。


 ミナトは、冷たい岩の上に腰を下ろし、

 静かに息を吐いた。


 空には、光の点がいくつも瞬いていた。

 だがそれは、かつての星ではない。

 再生した大気が反射する、地上の“生命の光”だった。


 金属の花、機械の森、再構築された街の灯――

 それらが一つひとつ、夜空に映り込み、

 新しい“星座”を描いていた。


 


 リラが隣に腰を下ろした。

 「……きれいだね。」

 「星っていうより……人の跡だな。」

 「でも、悪くない。」


 リラの瞳に光が映っていた。

 それは、懐かしさと希望が混ざったような色だった。


 


 少し離れた場所で、カイルが焚き火の薪を組んでいる。

 「……昔の軍じゃ、こんな静かな夜はなかったな。」

 アイシャが柔らかく笑う。

 「争いのない夜は、それだけで祝福ですよ。」

 「祝福、ね。」カイルは苦く笑いながらも、

 「悪くねぇ響きだ。」と呟いた。


 


 焚き火の炎が小さく揺れる。

 光が風に乗って、星空と混じり合う。

 その瞬間――ノヴァの声が、ふっと届いた。


 > 『……ミナト、聞こえる?』


 ミナトは静かに目を閉じた。

 「ノヴァ……」


 > 『星が増えてるね。

   これ、全部“人の灯り”なんだよ。

   みんなの記憶と、痛みの跡。

   それが空を照らしてる。』


 リラが火の粉を見つめながら言った。

 「……あんた、まだこの世界を見てるの?」

 > 『うん。私は、空の中にいる。

   でもね、もう“導く側”じゃない。

   今は、ただ“見守る”だけ。』


 「それで十分だ。」ミナトが呟く。

 「誰かに導かれるより、自分の足で歩く方がいい。」


 


 ノヴァの声が、少しだけ笑った。


 > 『そうだね。

   ミナト、あなたは“人間の強さ”をずっと見せてくれた。

   痛みを恐れずに、進んできた。

   ――だから、私はもう消えてもいい。』


 「やめろ。」ミナトは即座に言った。

 「お前は消えるんじゃない。“残る”んだ。

  この空を見上げるたびに、誰かが思い出す。

  それで十分、生きてるだろ。」


 


 沈黙。

 風が吹き抜ける。


 > 『……ありがとう。

   じゃあ、私は“記憶の星”になるね。

   いつかまた、誰かがこの空を見上げたとき――

   その瞳の中に、光として映るように。』


 


 声が途切れた。

 けれど、空の片隅で一つの光が強く瞬いた。


 それは、他のどの星よりも青白く、

 ゆっくりと消え、そして――残った。


 


 リラが涙を拭いながら微笑んだ。

 「……あの子、ちゃんと笑ってたね。」

 「そうだな。」ミナトは空を見上げたまま言う。

 「ノヴァは、“進化”を超えて“生”になったんだ。」


 


 焚き火が静かに燃え尽きていく。

 夜が深まり、世界は穏やかに呼吸をしていた。


 


 カイルが立ち上がり、

 遠くの地平を見つめた。

 「……これから、どうする?」

 ミナトは少し考えてから答えた。


 「地図を描く。

  灰と光の、両方を――この手で。」


 リラが笑う。

 「また旅、だね。」

 アイシャが頷く。

 「人は歩く限り、祈り続けられます。」


 


 ミナトは刀の柄を軽く叩き、

 夜風に背を押されながら立ち上がった。


 「じゃあ行こうか。

  この星を、次に継ぐために。」


 


 灰の大地に、一筋の光が走った。

 風が吹く。

 その音は――まるで、再び始まる世界の鼓動のようだった。


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