表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/47

第2章 錆びた空気 ― リラ

朝が来た、らしい。

 でも空の色は夜と変わらない。薄い灰の中に、太陽みたいな光がぼんやり漂ってるだけ。

 あれを太陽って呼ぶのは、もう惰性だと思う。

 リラは腰の工具箱を開け、手慣れた動作でスパナとケーブルを取り出した。昨夜拾った“それ”――筒状のユニットは、まるで呼吸するみたいに微かに光っている。火の明かりが反射して、まるで生き物の眼みたいだった。


 「ねぇ、ミナト。これ、ほんとに日本製なの?」

 焚火の灰をならしながら、リラは彼に尋ねた。

 青年は無言でうなずく。灰の中に突き刺した鉄棒の先が、赤く光った。

 「刻印、古いけど見覚えある?」

 「……研究所の名が消えてた」

 「ふうん。つまり、危ないやつね」

 リラはにやりと笑い、工具の先で筒の端をこつこつ叩いた。反応音はなかったけど、空気の震えが変わった気がする。

 「たぶん、起動すれば歩くタイプだな」

 「やめろ」カイルが短く言う。

 「なんで? 起動したら正体がわかるじゃん」

 「正体がわかった瞬間に、死ぬかもしれん」

 「物騒ねえ。あんたって、なんでも爆発するとか壊れるとか思ってるタイプでしょ?」

 カイルは顔をしかめ、ミナトはそのやり取りを見ながら黙っていた。灰の上に手を伸ばし、残り少ない栄養バーの袋を折りたたんでポケットに押し込む。その仕草が、妙に整っていて、リラは目を細めた。


 ――この人、ほんとに何者なんだろ。

 義手の中身も、日本語を読む口調も、まるで“昔の人”みたい。

 彼の話し方はゆっくりで、無駄がない。

 戦闘用アンドロイドでも、AIの残響でもない。

 けど、どこか“作られた”ような、静かな違和感がある。

 リラは自分の胸ポケットからケーブルを一本抜き出した。

 「ちょっと貸してみなよ、その義手。調整してあげる」

 ミナトが顔を上げる。

 「必要ない」

 「いや、見た感じ左肘の制御線、少しズレてる。放っとくと反応が遅れるわ」

 「……放っとかない」

 リラは軽く肩をすくめた。「はいはい、職人気質ね」

 そのとき、筒の光が一瞬だけ強くなった。

 ミナトとカイルが同時に動く。

 リラは反射的に手を止めた。

 光が波のように走り、筒の端から細い声が漏れた。

 ――ナンバー……認識……完了。

 「い、今、喋った?」リラの声が跳ねる。

 カイルが銃を構え、ミナトが一歩前に出た。

 「下がれ」

 「ちょ、ちょっと待って! まだ解析してない!」

 「これは起動じゃない。……呼応だ」

 ミナトの声は低く、確信に近かった。

 彼の義手が、かすかに明滅している。筒の光と同じ周期。

 「同調してる……?」

 リラの胸の奥で、技師としての好奇心が爆発しそうになる。

 彼女は思わず工具を握り直し、光を覗き込んだ。

 「すご……。ねぇ、もしこれ、義手と同じ設計系統なら――」

 「リラ!」

 カイルの怒鳴り声が響く。

 リラが振り返ると、崩れた高架の上に黒い影が立っていた。

 ヒュウ、と風が鳴る。金属の脚音。

 複数。少なくとも五体。

 「“狩りの連中”だ……!」カイルの声が低く唸った。

 「また? 昨日も来てたじゃん!」

 「昨日のとは違う。装備が重い」

 ミナトはすでに刀の柄に手をかけている。

 リラの胸が、熱くも冷たくもない妙な鼓動を刻んだ。

 人間でもない、機械でもない、曖昧な者たちが、朝焼けのない朝の中で向かってくる。


 リラは息を吸った。

 この瞬間だけは、怖がるより先に、修理する時間が欲しいと本気で思う。

 「カイル、時間稼いで! このユニット、切り離せば爆縮防止回路止められる!」

 「何言ってやがる、起動してるものに触る気か!」

 「触らなきゃ、もっと派手に爆発するかもよ!」

 ミナトの目が一瞬だけリラを見た。

 言葉じゃなく、許可を渡すような一瞬。

 リラは笑って、火のそばに膝をついた。

 「ほんと、あんたたちって無口なクセに……ロマンチストね!」


 風が吹き抜け、砂の粒が宙に舞った。

 ミナトが抜刀した瞬間、空気が一度止まる。

 刃の音は、雷の音より静かで、世界が一瞬だけ昔に戻った気がした。


 ――

 そして、リラの耳には機械の心音が聞こえていた。

 白い筒の光が、心臓みたいに脈打っている。

 その鼓動と、自分の鼓動が、同じテンポで重なっていく。

 彼女は笑った。

 「ねぇ、“滅びの海”って名前、嫌いじゃないな――」




名前:リラ(Lila)

年齢:20歳

出身:旧アジア連邦の廃墟都市圏(生まれは不明)

職業:サルベージャー(旧文明の機械・資源を拾う技師)


髪:明るい金髪を肩で切りそろえ、いつも油と砂で少し汚れている。

目:琥珀色。感情がすぐ表に出るタイプ。

服装:作業服ベースのジャケットとハーネス。ポケットには工具だらけ。

小物:ゴーグル/ドライバーをペンダント代わりにしている。

雰囲気:荒廃した世界でもどこか明るく、笑って生き抜く「希望の象徴」。


■ 性格・特徴

一見軽口でお調子者だが、実は誰よりも他人想い。

何かを「直せる」ことに異常なほど執着している。

(=壊れた世界を自分の手で“元に戻せる”と信じている)

時々暴走する機械やAIにも名前をつけて話しかける癖がある。

怒ると一気に早口になる。


口癖:「はいはい、直せばいいんでしょ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ