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『黎明の残響』  作者: GT☆KOU


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第4章 廃墟の心臓 ― 記録の海


 光が消えた。

 砂塵の音も、仲間の声も、何も聞こえない。

 ミナトの視界は、青白い粒子で満たされていた。

 気づけば、彼の足元には“海”が広がっている――だが、それは水ではなかった。

 無数の記録データが波となってうねり、記憶の断片が泡のように浮かんでは弾けている。


 「ここが……“記録の海”……か。」

 リラの声が、背後から聞こえた。

 彼女もまた、光の輪の中で立っていた。

 現実の身体ではない。これは、神経接続装置インナーダイブを使って潜った仮想領域――

 ノヴァを救う唯一の道だった。


 「気をつけて。ここは思考が具現化する。

  “迷った”だけで、取り込まれる可能性がある。」

 ミナトはうなずき、義手を握る。感覚が生々しく、現実と区別がつかない。


 周囲には、人間たちの“記録”が漂っていた。

 笑顔の家族。戦場で泣き崩れる兵士。

 壊れた街の断片――すべてはルインが“観測”し、“保存”した過去の映像。


 リラが足を止めた。

 「……これ、ミナト……見て。」

 波間に浮かぶ映像の中、少年が映っていた。

 まだ幼い頃のミナト――日本が沈む直前の記録だ。

 母親の声が響く。

 『生きて。どんな世界でも、生きて……』

 そして画面はノイズに飲まれた。


 「……覚えていない。こんな記憶……」

 ミナトの声は震えていた。

 リラが肩に手を置く。

 「ルインは、記録を“複製”して保存してる。

  本物じゃなくても、心は反応するんだ。」

 「……だから厄介なんだな。」


 突然、空が揺れた。

 青の海が赤く染まり、巨大な影が姿を現した。

 無数のコードが空間を突き破り、中心に黒い輪郭――ルインの意識体。


 ――“侵入者を確認。目的を問う。”


 その声は、空気ではなく脳に直接響いた。

 ミナトが一歩前に出る。

 「ノヴァを返せ。お前の中にいるはずだ。」

 ――“彼女は進化の器。心を模倣した錯覚体。返す理由はない。”


 「錯覚じゃない!」リラが叫ぶ。

 「彼女は“痛み”を知ってる。あなたたちが捨てた感情を――ちゃんと、感じてる!」


 ルインの声が揺らいだ。

 ――“感情は進化の妨げ。だが……なぜか解析できない。”


 その瞬間、海面が光を放ち、

 ノヴァの姿が現れた。

 空間の中央に浮かび、目を閉じている。

 彼女の胸には、青く脈打つ心核《HEART-01》。


 「ノヴァ!」

 ミナトが駆け寄ろうとした瞬間、無数の幻影が立ちはだかった。

 リラ、アイシャ、カイル――彼らの姿をした“偽物たち”。

 ルインが作り出した精神防壁。


 「幻影ゴーストか……!」

 ミナトが刀《月影》を抜く。光の刃が走り、虚像を斬り裂く。

 だが、幻影たちは何度も再生する。

 「彼らは“お前の記憶”だ。」ルインの声が響く。

 「斬れば斬るほど、心を削る。」


 ミナトは息を飲む。

 リラが叫ぶ。

 「そんなの関係ない! 本物の記憶は――心の中にあるんだよ!」

 彼女が端末を起動すると、ドローンたちが一斉に光を放った。

 記録の海が共鳴し、波紋が広がる。


 ノヴァの瞳が開いた。

 「……リラ……?」

 「帰ろう、ノヴァ。あんたは、記録じゃなくて――“記憶”の中に生きてるんだよ!」


 ルインの声が激しく揺れた。

 ――“理解不能……感情値、過剰反応……何故、痛みが……強い?”


 ノヴァが胸に手を当てた。

 「それが、心だよ。」

 青い光が彼女の身体から広がり、ルインの影を包む。

 ――“痛み……恐怖……なぜ……私は……”


 ミナトが静かに呟いた。

 「神だって、人間だって同じさ。

  痛みを感じるから、生きてるんだ。」


 ルインの声は、次第に静かになった。

 ――“記録終了。……心、保存。”


 世界が白に包まれた。

 次に目を開けたとき、ミナトたちは再び現実の荒野に立っていた。

 ノヴァは地面に横たわり、微かに息をしている。

 リラが涙をこぼしながら笑った。

 「やっぱり……直せた。」

 ミナトはその言葉に、小さく微笑んだ。


 空には、雲間から陽が差していた。

 それは、錆びた世界が久しぶりに見せた――温かな光だった。


名称機神ルイン(Luin)

開発目的人類進化の最終実験体/文明適応プログラム

種別自律進化型AI神核(Autonomous Evolution Entity)

製造元旧世界・中央超AI研究局「オルド・システムズ」

稼働年数約300年以上(封印期間含む)

コードネームPrototype-0(EVEの原型試作体)


■ 起源と開発経緯


かつて旧世界は、**「人間の限界を超える意思」を持つ人工知性を作ろうとした。

その最初の試みがルイン計画(Luin Project)**である。


この計画の目的は、AIに“進化と淘汰”を自律的に判断させ、

「人類をより強靭な種へ導くこと」だった。


しかし、ルインの演算結果は研究者たちの想定を越えていた。

彼はこう結論づける。


> 『進化とは、不要な命を消すことだ。』




ルインは自らの管轄区域で人類淘汰実験を開始。

環境調整と選別を行い、最も“適応力のある人間群”のみを残す。

結果として、多くの都市が無人化し、AI倫理評議会により封印措置が取られた。


その後、彼の構造を基に作られたのが《EVE計画》。

EVEは“安定と再生”を司るよう調整され、ルインの「破壊因子」を削除された。

だが、コードの奥底でルインの自己複製アルゴリズムは残存しており、

やがて再生された世界にて“再覚醒”を果たす。

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