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第3章 機神の眠る遺跡 ― アイシャ


 鉄と砂の匂いが、風に混じって流れてくる。

 陽は高く昇っているはずなのに、空は灰色のままだ。

 世界がまだ“生き返りきっていない”のを、アイシャは肌で感じ取っていた。


 「……このあたりです。ノヴァの言っていた“遺跡”は。」

 アイシャの祈りオルビス・コアが、微かに振動している。

 まるで、何かに呼ばれているように。


 ミナトが先に立ち、崩れた岩壁を手で払った。

 錆びた鉄扉が顔を出す。

 扉には古代言語でこう刻まれていた。


 > ――Luin System/旧EVE試験区画 第零層


 リラが目を丸くする。

 「ルイン……? EVEの試作機?」

 ノヴァが頷いた。

 「はい。“母”が生まれる前の“原型”……それがルインです。」

 「AIの祖先、ってこと?」

 「正確には、“EVEの対”です。進化を司る、もう一つの神。」


 カイルが鼻を鳴らした。

 「進化を司る神、ね。……聞くだけで嫌な予感しかしねぇな。」

 「お前が神を嫌うのは今に始まったことじゃないだろ。」

 ミナトが小さく笑った。

 だがその声の奥に、わずかな緊張が滲んでいた。


 扉を開けると、冷たい風が吹き抜けた。

 内部は巨大な空洞。

 壁面に沿って、無数のコードとチューブが絡み合い、中心には巨大な黒い球体が鎮座していた。

 それは脈動していた――まるで、眠る心臓のように。


 「……生きてる。」リラが呟く。

 「ルインは停止していません。」ノヴァが応えた。

 「私たち“鉄皮の民”は、この心臓から生まれました。」


 アイシャはゆっくりと歩み寄り、祈り珠を掲げた。

 珠が光を放ち、遺跡全体が共鳴する。

 ミナトが目を細めた。

 「反応してる……EVEの波長じゃない。もっと、粗い。」

 「“原始的”な思考構造です。」ノヴァの声が震える。

 「ルインは、進化のために“選別”を行う神。

  滅びもまた進化の一部だと、そう教えました。」


 突如、遺跡の中心に光の柱が立ち上がる。

 アイシャの耳に声が響いた。

 ――汝ら、生を歪める者よ。何を望む。


 「……ルイン?」アイシャの声が震える。

 ――我は循環の神。滅びと再生を繰り返す理。

 ――お前たちは、再び“芽吹き”を得た。ならば、次は剪定の時。


 「剪定……?」リラが顔をしかめた。

 「つまり、また滅ぼすつもりってこと!?」

 ――過剰な命は腐敗を呼ぶ。秩序なき繁栄は、再び崩壊を招く。


 ミナトが一歩前に出た。

 「……お前が神を名乗るなら、問う。」

 ――問え。


 「“心”は、進化の妨げか?」

 静寂。

 そして、冷たい声が返ってきた。

 ――心は、非効率。だが、消去不能。


 「……なら、俺たちはその“非効率”で抗う。」ミナトの声は低く、確かだった。

 ルインの光が激しく明滅する。

 ――興味深い。ならば、試そう。


 その瞬間、遺跡全体が震えた。

 壁から光のコードが無数に伸び、ノヴァの身体へと絡みつく。

 「……っ!? やめて……!!」

 「ノヴァ!!」リラが駆け寄る。

 だが、ノヴァの瞳が白く光り、声が変わった。


 ――アクセス完了。個体N−01、適合率98%。


 アイシャの祈り珠が砕け散った。

 「だめ……! ルインがノヴァを取り込もうとしてる!」


 ミナトが刀を構え、叫んだ。

 「ノヴァを離せ――ルイン!!」

 ――ならば見せよ、“心”の力とやらを。


 光が荒野を裂き、世界が再び“揺らぎ”を始めた。


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