6話「封印が解けたあなたと共に」最終話
それから……アレクさんは自分の身分を取り戻す為に旅に出ることになった。
クラウゼンベルク王国は百年前に滅亡した。
だけど王族が数名亡命し、隣の大陸で公国を起こしていたのだ。
「ニナ、ごめんね。
自分の身分を取り戻したら必ず戻ってくる」
そう言ったアレクさんは苦しそうな顔をしていた。
アレクさんは二百年前の人。現状彼は戸籍に存在が記されていない。宙ぶらりんの存在なのだ。
私はそんなこと気にしないんだけど……。
元々王子だったアレクさんは気になるよね。
自分が誰だか証明できないもどかしさは、名前を乗っ取られそうになったので、私にも少しわかる。
だから、彼を止めることはできない。
「アレクさんは、私が成人するまで側にいてくれました。
それだけで、十分です」
満面の笑みを浮かべたつもりだけど、ちゃんと笑えていただろうか?
「フィーネ!」
アレクさんが私の腕を掴み、そのまま抱き寄せた。
彼の体温と胸板の厚さを感じ、心臓がバクンバクンと破裂しそうなほど大きな音を立てている。
「ア、アレクさん……?!」
「自分が何者なのか証明できないと、女侯爵である君の隣には立てない。
必ず二年で戻る。
だから……」
アレクさんが私の顎に手を当て、顔を上に向けさせた。
アレクさんの顔は今日も見とれてしまうほど綺麗だ。
「僕が戻ったら、その時は結婚してほしい!」
ドクン……!
心臓が今まで生きてきた中で、一番大きな音を立てた。
「はい、アレクさん!
私もアレクさんと結婚したいです!!」
大粒の涙がボロボロと溢れてきた。
アレクさんがハンカチで涙を拭いてくれた。
「僕のお姫様は相変わらず泣き虫だね」
アレクさんは困ったように眉を下げる。
「泣かせたのはアレクさんです!」
アレクさんが好き!
気持ちが心から溢れてしまうくらい大好き!!
「必ず戻るから、それまで待ってて」
アレクさんは私の頬を優しく撫でると、唇にキスをした。
きっとアレクさんが「二百年前に封印された王族です」と伝えたところで、簡単には認めてもらえないだろう。
アレクさんの魔力や容姿を利用しようとする人もいるかもしれない。
二年では戻れないかもしれない。
それでも私は、彼以外との結婚は考えられない。
唇を離し、目を開けると、アレクさんは優しさの中にどこか切なさを含んだ表情をしていた。
そんな顔をしないでください。
私、絶対に浮気したりしませんから!
「はい、いつまででもお待ちしております」
そうして、私は彼を見送った。
◇◇◇◇◇
――二年後――
侯爵家の仕事にも慣れてきた頃、一通の手紙が届いた。
それはアレクさんからで、クラウゼンベルク公国で王族の一員と認められたこと、すぐに帰国することが記されていた。
「アレクさん!
やっと会えるのね!」
私は手紙を胸に抱き、部屋の中をくるくると回った。
手紙の匂いをかぎ、手紙にそっと口づけする。
この手紙はアレクさんの直筆。
彼に会えないから、彼の代用だ。
「そんなに喜んで貰えて嬉しいね」
窓から声がし、振り返ると異国の民族衣装に身を包んだアレクさんが立っていた。
「フィーネに早く会いたくて、魔法で飛んで来たんだけど、配達員の馬車を追い越してしまったようだね」
そう言って、彼はいたずらっぽく笑う。
私は羞恥心で固まっていた。
きゃーー!! 手紙にキスしてるの見られたーー!!
は、恥ずかしすぎる……!
彼は私の元に歩み寄り、私を抱きしめた。
「会いたかったよ!
フィーネ!」
アレクさんの腕の温もりを感じ、彼が帰って来たことを実感した。
「私もです!!」
私は彼の背に腕を回し、彼の存在を確かめるように力いっぱい抱きしめた。
それから、どちらからともなくキスをした。
◇◇◇◇◇
「アレクさん、王族として認められたんですよね?
これからはアレク様とお呼びしないといけないかさしら?」
「そんな悲しいこと言わないで。
今まで通り『アレクさん』でいいよ。
いや、結婚するんだから『アレク』と呼んでよ」
「そ、それはちょっと……!」
「恥じらうフィーネも可愛い!」
「からかわないでください!
それより、すんなり王族の一員として認められてよかったです」
「いや〜〜そうでもなかったよ。
魔術省に勤めろとか、魔物殲滅部隊に入れとか……色々と面倒だった」
「まぁ、そうでしたの?」
「一番面倒だったのは、末の姫と結婚してくれ〜〜って奴」
「ええっ……!?」
「心配しないで、ちゃんと断ってきたよ。
僕はフィーネ一筋だからね」
(ホッ……)
「フィーネの方はどうだったの?
悪い虫がウロウロしなかった?」
「いえ、特には……。
先日、王太子殿下のお茶会への招待状を頂きましたが、きっと国中の令嬢に送っているんですよね?」
「へぇ……!(不機嫌そう)
そのお茶会、僕がフィーネの婚約者として同行するよ!」
(アレクさん、目が笑っていませんわ。どうしたのかしら?)
――終わり――
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