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第9話 そして仮面の裏に、影が笑う

前回の戦闘で手にした「勝利」の対価は、命令権という名の一時的な優位。だが、勝者となったクレイヴが手にしたのは、果たして真実か、それとも仮面の裏に仕込まれた嘘だったのか。

ソーラ・レイという名の謎に、今、ひとつの問いが突きつけられる——その答えが、彼を導くのか、惑わすのか。

 「それで、クレイヴ君、話っていうのは?」

 放課後、僕はソーラさんを学外に呼び出した。学園の周辺は、ラミエル大公国の中でも指折りの商店街となっており、学生たちが和気藹々とデートやショッピング、遊びを満喫している。

 寮の門限は9時までなので、最終コマから五時間程度は外出できる仕組みだ。

 日が暮れかけた街は、魔道街灯の灯りで浮かび上がっていた。

 学生たちの笑い声が、どこか遠くから響いてくる。

 僕とソーラさんは、その喧騒から少し離れた裏通りを歩いていた。

 周囲の喧噪が、妙に現実感を奪っていく。 僕たちの間だけ、別の空気が流れていた。

 「勝負の話だよ。今回、僕の勝ちだ」

 「……そうね、それで、あなたが私にする、命令について聞こうかしら」

 そう言って、彼女は咳払いをした。

 「……でも私、許嫁がいるの。許嫁、とっても強い人なのよ」

 普段より少し高い声だ。まるで、少女漫画の主人公のような、いたいけで可愛らしい声。どうやら咳払いはチューニングだったらしい。

 ところで僕はまだ、何も言ってない!

 「……そいつはよかったね。レイ家の未来は安泰だ。それで、本題。君は、どんな命令でも聞いてくれると言ったね。でも、僕と君とでは抱えている秘密の質が違いすぎる。そうは思わないかい? 僕はチートスキルを隠しているだけだ。でも君は、きっともっと重いものを抱えてる。貴族として、戦力として、期待の象徴として……そんな君が、“何を話せるか”を選べばいい。かたや下流貴族、かたや超上流貴族だもんね。だから、僕は君に選ばせる。これは、対戦相手に対するリスペクトだよ」

 そして、誠実さのポーズ《﹅﹅﹅》だ。

 「1、レイ家について。2、君自身について。君は、どちらの命令を望む?」

 彼女はため息をついて、笑う。

 「あなた、意外と甘いのね。私があなたに勝ったら、『隠していることを全て吐きなさい』そう命令する予定だった」

 あ、なるほど。

 上手いな。全然思いつかなかった。

 ……でも、ほんの一瞬だけど、彼女の瞳が泳いだ気がした。

 本当に全部吐かせるつもりだったのか、それとも、今のは照れ隠しだったのか。

 「……僕が嘘をつく可能性だってあっただろう? それに、君だって僕の命令を聞かない可能性もある」

 「その心配はないわ。だって、()()()だもの。言ったでしょう? 私はそれを破る選択肢がない。そして、君だって私と()()()()に上がったら、ルールは守らなきゃダメなのよ」

 ……口伝魔法か。

 ……今の一言で、僕の呼吸がほんの少しだけ止まった。

 まるで、彼女が“仮面”の奥を覗き込んだような気がして。

 「だからあなたは、安心して私の答えは信じてくれればいい」

 「そこまでヒントをくれたのなら、信じるよ。それで、1と2、どっちがいい?」

 「……2ね。あなたが知れるのは、私という“個人”までよ」

 ……どういう意味だ? 正直、僕はそこまで君の家に興味はないんだけど。

 まあいい、これで当初の予定通り、彼女について聞ける。

 「じゃあ命令だ、僕の質問に答えろ」

 彼女は黙って頷く。

 次の瞬間、彼女の身体が青白い輝きに包まれた。瞳孔がわずかに開き、光を失ったその目は、人形のように虚ろで……まるで、“命令”そのものの化身になったかのようだった。

 ……いつの間に僕は、彼女の「ルールを強制する魔法」の発動条件を満たしてしまったのだろう? 競走に乗った時? 全く、油断も隙もないな。


 「君がこの間言った、()()()()()は、黒いフードの組織と関係している? イエスの場合は、その組織について、知ってることを洗いざらい話せ」

 「ええ。彼も転生者だった。でも、使用人の家の子で、私に一時期仕えていたわ。前世の記憶もあるようだった。しかし、組織についてはあまり知らない。どうやらヴェリスと組んで、各国の転生者狩りをしているらしい、ということだけ。目的も、不明」

 彼女に目の光が戻った。

 「……どう、有力な情報は聞けたかしら?」

 あまり実りはなかった。全部、予想の範疇の中。強いていえば、ヴェリスと組んでるってことだけかな。

 「……僕は、昨日、あの女の他にもう一人、フードの奴と戦ったんだ」

 「そう、それは災難だったわね。けど、あなたなら平気だったでしょう?」

 「そいつ、君に借りがあるって、そう言ってた」

 ……。

 街の喧騒が僕らを包む。だけど、その温もりに、もうさっきまでの安らぎはなかった。

 「そう。じゃあ、やることは一つね。クレイヴ君、手を組みましょう? 多分、私はその組織に命を狙われている。あなた、か弱い少女の命の危機を知っていて、無惨にも見捨てるような男なのかしら?」

 「それに、彼らは転生者狩りをしている。あなただって、ターゲットの筈よ」

 こうして、僕ら二人の共同戦線が張られた。まずは、この学園にいる内通者を見つけ出すこと。

 ……彼女に恩を売っておいて損はない。僕は、そう考えた。

 君もそう思うよね?

 

 でも僕はこの時、決定的で、そして致命的な見落としをしていたんだ。その見落としが、尾を引いて、僕を絶体絶命のピンチにまで陥れることになるんだけど、果たして君は気付いただろうか?

勝ったはずのゲームで、気づけば握られていたのは「手綱」ではなく「導線」だった。

ソーラの語る真実はどこまでが本物で、どこからが演技だったのか。そして、クレイヴが最後に見落とした「致命的な一点」とは何なのか——。

次回、ゲームの続きを始めるのは、誰だ?

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