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第5話 最初の尋問

「おまえ、矛盾してないか?」

……はい、ついに来ました。鋭すぎる担任、登場です。

嘘は論理で固めてこそ意味がある! 口先だけで生き残れ、クレイヴ!

 僕と同じアストレア寮には、転生者が僕含めて3人、平民が8人、貴族が19人の計30人が配属された。

 彼らは、同じ寮生で、そしてクラスメイトということになる。

 寮対抗の体育祭や、決闘大会など、学校らしいイベントがたくさんあるので、彼らは仲間。そういうことになってくる。

 ——建前上は、ね。

 

 しかし、僕はすでに、頭痛の種を抱えていた。

 ソーラ・レイと、同室のイリーナ・セラフィムの存在である。

 この子達は、両手に華……じゃなくて、両手に爆弾みたいなもので……うっかり握り潰したら、僕の人生が吹き飛ぶ。

 まず、ソーラ。彼女は強すぎるから怖い。しかも、なぜか親しげだ。僕の何を見て笑った? あれは警戒なのか、好意なのか。

 次に、イリーナ。彼女は僕のチートスキルを特定しようと、まるで実験動物を観察する学者みたいな目をしてくる。

 

 それと、もう二つ、些細な頭痛の種。

 一つ目は、クラスに3人はいるはずの転生者。そのもう一人を僕は知らないこと、これがちょっと、問題。噂では初日から保険棟に篭りっぱなしって話だけど、まあ、噂の域だ。でも、見たことないからそうなんじゃない? そう思ってる。

 二つ目は……今、僕の目の前で起きている“ある状況”である。


 

 少し時間を遡ろう。

 担任のイシュティア・ロスベルク先生が教室に入ってきたのは、教鐘が鳴り終わってから、きっちり十五秒後のことだった。


 彼女は銀髪をきつく束ね、灰青の瞳でこちらを一瞥するや否や、背筋の伸びたまま無言で教壇に立った。制服ではなく、軍の魔導分析官時代の名残らしい黒のハイネックとタイトなロングスカートを着用しているのが、また場違いなほどの緊張感を演出していた。


 その姿は、「授業」というより「尋問」を予感させる。


 「全員、静粛に」


 それだけで、クラスは水を打ったように静まり返った。あのミハラ・マスリでさえ、  さっと背筋を伸ばす。

 「私はイシュティア・ロスベルク。元・帝国陸軍魔導分析局第七課、現在はこのクラスの担任を務めることになった。感情的な指導はしない。論理と成果がすべて。以上、自己紹介終わり」

 ……え、終わり?

 「では、初日なのでひとつだけ、皆に確認しておく」

 教壇からの距離に関係なく、声のトーンも変えずに、彼女は冷徹に言った。

 「“チートスキル”という言葉に、安易な憧れを抱いている者は、今日から即刻その幻想を捨てなさい。ここは学園であって、戦場ではない。昨日の戦闘、非常にお粗末なものだった。全員が全員、()()()()に躍起になるばかり。いいか、勝利が全てだ。そしてその勝利は、学内の争いにおいてではない」

 ……。

 「きたる、戦争の時においてだ」

 その表情には、凄みがあった。

 

 「殊にクレイヴ、質問がある」

 初日から指されて、かわいそうだな。クレイヴってやつ。

 ……まあ、流石に無理があるよね、この態度。

 「はい、なんでしょう」

 思わず背筋が伸びてしまう。しかし、僕は詐欺師だ。口元の笑みは絶やさない。

 

 「お前、面接試験で戦争のためにスキルは隠している。そう言ったそうだな?」

 ……。

 「はい」

 「なかなか、肝が据わっているし、慧眼だ。さて、貴様……」

 この時、教室が一瞬、凍ったような気がした。

 そして、この状況。これが、頭痛の種。

 先生、なんでよりにもよって、僕を名指しに?

 「どこまで見えている? それなのに、なんだ、昨日の戦闘の態度は?」

 「……と、いうと?」

 下手なことは言えない。僕は冷や汗をかきながらも、冷静に対処する。

 こんな抽象的な質問に答えて、墓穴を掘るのはごめんだ。

 ここで適当なスキル名を言ったり、適当なスキルの匂わせをすると、だいぶまずい。

 「……なるほどな」

 彼女の目が一瞬泳いだ。

 え? 何がわかったんですか?

 「では、質問を一つにする。お前はチートスキルを隠してる、そう面接で言った、それなのに、昨日の戦闘。まるで、一挙手一投足がスキルの賜物であるかのような立ち回りだ。これって、矛盾してる、そうは思わないか?」

 リュカは下を向いていて、イリーナは相変わらずこちらを凝視している。ソーラさんは——なんで笑ってんすか。

 僕がよそ見をしている間に、先生は畳み掛ける。

 「それを生徒の前で披露した時点で、“嘘をついた”のではなく、“欺いている”と見なす。私は教師であって、観客ではない。説明責任はあると思うが?」

 「……僕は面接の場においても、自らのスキル名は隠蔽しました。そんな僕が、ここで先生の質問に答える筋があるとは思えませんが」

 「……? 何を勘違いしている? 私はお前にスキル名の開示を求めているわけではない。私は、昨日のお前の行動の理由が知りたいだけだ」

 そう言って、()()()は静かに、しかし確信めいた様子でニヤリと笑った。その表情は、まるで、答え合わせの様相を呈していた。

 きっと彼女は、すでに僕のスキルの仮説を立てているのだろう。

 うげ、やらかした。——これじゃまるで、スキル名の開示は後ろ暗いことです。と言っているようなものじゃないか。

 ——つまり、質問の意図を取り違えたせいで、自分が何かを隠していることを証明してしまった。

 ……焦りは、禁物だ。この女の、威圧感のせいで、余計なことを言ってしまった。

 彼女の“理由を聞かせろ”が、“スキルの開示”に聞こえたのは、完全に僕の防衛本能のせいだった。けれど——もう、言っちゃったものは仕方がない。

 教室はしんとしていた。クラスメイト全員が、僕と先生のやりとりを、観客として見物していたのである。

 

 一旦切り替えよう。メンタルリセット、メンタルリセット。

 ——ここからが、本番。僕はスキル以外の全てを使って、この状況もかわして見せる。

 人生は、綱渡りなんだから。


相手は冷徹な論理主義者。でも、クレイヴだって“必死”です。

もしかすると、この世界で一番、命がけで“演技”してるのかもしれない。

……それでもバレそうなの、笑えないけど笑ってください。

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