第3話 無能力が、チートを超えた日
「スキル、発動──!」
……なんて、言ってみたい人生だった。
でも演技でも、それっぽくやるしかない。
バトル回です。クレイヴ、命がけのハッタリ、かまします。
「戦闘不能状態に陥る・降参する・こちらが続行不可能だと判断する、この時、負けとなる。ルールはなし。お得意のチートスキルを使ってくれてもいい。じゃあ、殺すなよ」
ちょび髭はそう言って、結界の外へと出ていく。
――殺すなよ、か。
逆に言えば、「殺しかねないヤツもいる」ってことだよね。
僕は、そんな相手に、スキルなしで勝たなきゃいけない。
……いや、勝たなくてもいい。ただ、負けがバレなければいいんだ。
……一旦、目を瞑って深呼吸。
心臓の音を一拍ずらすように、息を整える。……ここで乱れたら、何も始まらない。
そして、笑顔を絶やさず相手を見る。……相変わらず怖い顔をしている、少しは笑ったらどうだい? 僕みたいにさ。
少し、情報を整理しよう。
向こうは男、木刀を持っている、左利き、靴は運動靴、髪は短く、動きやすそうな服……どこか、あっちの世界で言う“ジャージ”に近い。、他に武器は持っていない、そして……「転生者」である。これはチートスキルを持っていることを意味する。
……なるほどね。
左利きの剣士は、右利きとの戦いに慣れてる。でも、左利き同士の間合いには意外と隙が出やすい。
――つまり、僕の利き手を偽れば、そこに活路が生まれるかもしれない。
……とはいえ、相手のスキルがわからない以上、どうしようもないな。
おそらく、相手のスキルは大きく三つのどれかだろうと予想できる。
1:なんでも切れる系
2:斬撃を飛ばす系
3:早く移動する系
おそらく、この三つ。木刀がブラフってことはないだろう。
彼らは自分が強いことを知っているから、ブラフを使う必要がない。
むしろ、真正面から敵を叩き潰すことに快感を覚える、そんなタイプだろう。
少し軽口を叩いてみる。
「君、能力者同士の戦いは初めてかい?」
「ああ、だが、平気さ。この俺様が切れないものなんて、この世にないからな!!」
はい、バカでよかった。君の能力は、1確定。
「そういえば、あいつ、武器を持っていないぞ?」
「素手で戦う気なのか?」
「いや、そんな感じじゃないし、魔法でしょ」
「いいや、チートスキルだね。あいつ、転生者だろ?」
周りのざわめきが聞こえる。この結界、どうやら防音仕様ではないらしい。
しかし、おかげで助かった。僕が今、丸腰なこと——実は緊張で忘れてたんだ。
「アームド!!」
僕は魔法で作った木刀を左手に持つ。これは、基礎魔法の応用だ。
木を作り出す魔法に、斬撃の魔法を重ねがけ……本来はどちらも初級魔法。でも、順番と構成を少しだけ変えると、“武器生成魔法”っぽく見える。
あくまで、っぽく、だけど。舞台の小道具と一緒さ。
マジックみたいな、ハッタリ。
「素手かと思ったけど、魔法で武器を……意外とやるな」
「いやでも、それ、強化魔法入ってなくないか?」
「見せかけかも。あの構え、利き手が逆だし……」
とりあえず、やることは決まったな。
あの斬撃の間合い……最大でも五歩以内。それ以上は届かない。なら、一旦後退してフェイントで……
とか考えていたら、ソウはその場で剣を振った。
ソウの一閃が、空間を歪ませた。その瞬間、視界がねじれて——目の前に、奴がいた。
思わず一歩後退する。
……空気が、遅れて斬れた音を立てた。
アイツ、空間ごと切れちゃうんだ。
それって、クソ危なくない?
「なるほど、空間移動か」
「アイツ、なかなかやるな」
「でも、向こうのやつもアイツの攻撃を避けたぞ!」
たまたまね。
完全に予想を超えてきた。
なんでもって、本当になんでも切れちゃうんですね。
……ところで、じゃあなんで、距離を詰めるときに僕ごと切らなかったんだろう? 良心が痛むから? それとも、何かしらの制限?
もう一度、彼の方をよく見る。
彼の初期位置から、ワープ位置まで、結界も含め、万物が真っ二つになっていたんだ。
僕は一歩だけ前に出て、声を潜める。彼にしか、聞こえないように。
「……君、能力を使った時、切る対象を選べないんじゃない?」
ソウの肩がビクリと震えた。
「なっ……お前、まさか……」
見れば、誰でも気づくことだ。でも、こういうタイプのメンタルは意外と脆い。
僕は、わざと気づいていたふうに——じゃなく、確信しているふうに言ってみた。
まるでこれが、僕の能力、そんなポーズで。
「企業秘密……ところで、対象を選べないってことは、攻撃のたびに周囲ごと魔力を削るってことだよね? それ、長期戦は無理ってことじゃない?」
「ふん、そんなことはない!! 俺はこれまで、負けてこなかった!!」
さいですか。チートスキルの持ち主は圧倒的なその才能から、努力を怠る。
魔力量は、筋トレと同じ。努力によって増加するものだ——基本的には。
また、ソウみたいなタイプは、長期戦に慣れていない。ド派手な能力で、一発で勝負が決まるから。
「……じゃあ根比べだ。君、切る対象が選べないんじゃ、僕はその能力で一刀できないよね?」
「……」
沈黙は金って言うけど、君のその沈黙は、同意と一緒だよ。
今まで開いてきた口が、その沈黙を強調している。
「ウォール」
これも基礎魔法。自分の前に石壁を作るものだ。
僕はこれを、かけっぱなしにする。基本的に、基礎魔法は魔力の消費が少ない。ゆえに、基礎なのだ。
「アイツ、基礎魔法をあんな連続で、しかもあの精度で?」
そう、とはいえ結構連続でかけるのはしんどい。ゲジュタルト崩壊してくるから。
ソウが僕の目前の壁を切る。僕はその都度壁を作る。
切る、作る。切る、作る。切る、作る……
少し彼のスピードが落ちてきた、とはいえ、僕の方もこれ以上疲れるのは勘弁。
それに、多分、オーディエンスのみんなも暇しちゃうだろう?
「ロック」
だから僕は、少し意地悪をした。
ソウが壁を斬り伏せようと身を乗り出した瞬間、僕は、彼の真上を狙って、石塊を召喚した。
ドン、と濁った音が響いた。
石は見事に彼の肩口を捉え、彼の体が横に流れる。
「がっ……!」
木刀が手からこぼれ落ち、次の瞬間には地面にうずくまっていた。
……うん、なんとか勝てたね。
地味な戦いだったけど、たぶん、僕が無能力ってことはバレていない、チートスキルの持ち主同士の争いに見えたはず。
……見えたよね?
「……勝者、クレイヴ・ディセプ!」
ちょび髭の声が響いた瞬間、結界の膜がふっと消える。
僕は深呼吸する。……ようやく、演技の終幕だ。
意識を戻したソウが、僕に一言。
「殺して良いルールだったら、初撃で俺の勝ちだ」
いや、マジでそうなんだよな。
僕は笑って応酬。
「違いないね、でも。僕もチートスキルを使っていたら、そんな負け惜しみは地獄でいうことになってた。あるいは、死んだら元の世界に戻るのかな?」
僕は木刀を握り直しながら、もう一度深呼吸する。この世界で生き抜くための演技は、まだ始まったばかりだ。
戦いました。というか、やりました感を出しました。
ハッタリ一発でどこまで通用するのか、僕もクレイヴもビクビクです。
本当にチートスキルがないまま、戦っていけるのか?
続きもお楽しみに。評価・コメントが生きる活力です!