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第2話 無能のまま、学園へ

嘘をつき続けるには、演技力と胆力、そしてちょっとの運が必要です。

クレイヴの学園生活が始まります。

「チートがあると信じ込ませる」戦いの幕開け、どうぞお楽しみください

 「クレイヴ、結果はどうであった?」

 「はい、父上。合格です。ひとえに、父上の教育の賜物でございます」

 「謙遜はいい。お前は転生者だ。これくらいのこと、できないでどうする」

 父は机から顔も上げず、書類を捲る手を止めなかった。

 「……まあ、クレイ、期待しておるぞ、お前はこの家の……長男なんだから」

 その口調には、どこか読み上げられた印象があった。

 「……はい、父上。では、失礼致します」

 僕は頭を下げて書斎から出る。僕ら親子はどこか他人行儀だ。

 まあ、それもそのはず。確かに彼は、僕の父だが、僕の父は、向こうの世界にも存在した。

 向こうの父は、仕事中でも、いつも手を止めて僕の目を見て会話をしてくれた。まあ、今言っても仕方のないことなんだけど。

 生まれた時に、転生者と知った時、父上は僕を、子供として扱うことを諦めたらしい。ただの、道具だと。

 だからすぐに妹を作った、妹は転生者じゃなくてよかったね。

 まあ、ありそうな話だとは思う。他の家は、知らないけどね。

 

 自室に戻ると、僕の妹——シーナ・ディセプが、僕の机に肘をつきながら、()()()()()を熱心に眺めていた。傍らには、リナが気まずそうに立っている。

 「お帰りなさい! お兄さま!! 試験はどうだった?」

 「ああ、合格だよ。それよりシーナ。そのノートは……?」

 「お兄さま、こんなに難しい内容を勉強されているのね。驚きだわ」

 ああ、よかった。そのノートには、「僕は無能だ」という記述がある。

 「シーナ、人のノートは勝手に見ちゃいけないよ、シーナだって、自分のノートを人に勝手にみられたら嫌だろう?」

 「うーん、お母様やお兄さまだったら、構わないわ。けど、ごめんなさい。お兄さまがどんなことをやっているのか、気になってしまったの」

 彼女はそう言って笑う。

 僕と同じ。白髪で青目。そして、整った顔立ち——僕との違いは、「転生者」でないということ。無垢な表情がとっても可愛い、自慢の妹だ。

 「今日、エドにお兄さまと同じ学校に通いたいって話をしたら、お兄さまと違って私は転生者じゃないから厳しいって、そう言われたの。全く、酷い話だとは思わない?」

 「全くだね。僕の学校には、平民だって通っている。生まれなんて、関係ないさ。……シーナ、君は僕の妹だ。きっと通えるよ。あとは、努力あるのみだね。僕はこれから、家を出る。学校の、寮に通うんだ。だからリナ、しばらくの間、シーナのことを頼む」

 ……僕は、演技に勤しまなきゃいけないからね。

 多分妹は、才気あふれた優秀な僕が好きなんだろう。努力する僕は、嘘をつく僕は、多分その限りではない。



 アルゼリア王立学園。

 その名の通り、アルゼリア王国直轄の魔法教育機関であり、貴族の子弟の中でも()()()()()しか通うことができない場所だ。


 広大な敷地に並ぶのは、白亜の石造りの校舎群。

 建築様式は古代アルザのものを受け継いでおり、尖塔と回廊が無数に交差している。

 空中庭園、魔法塔、研究楼。

 歩くごとに、教本でしか見たことのない魔道具や紋章が目に入ってくる。

 どこもかしこも、綺麗すぎるほど整っていた。

 一片の埃すら落ちていない廊下を歩くたび、僕だけが“違うもの”を踏み荒らしている気がした。


 だけど、何より怖いのは――

 僕以外の「転生者たち」の目だ。


 誰もが当然のように、自分のスキルを信じて疑っていない。

 持っていることが当たり前の場所で、持っていない僕は、ただの異物だった。


 しかし、それを悟られてはいけない。

 僕は覚悟を決めて、重厚な門を押し開いた。

 面接の前とは、違った気持ちだった。

 アルザリア王立学園は、完全寮制だ。各国からの入学生が混ざり合い、一つの部屋に集められる。しかも、四大国の出身者を一人ずつ――外交か処刑かもわからない組み合わせで、だ。

 とっても気まずいシステムだ。

 考えたやつは、たぶん頭がおかしい。

 大貴族は基本、一人部屋での生活のため、ルームメイトは僕みたいな下級貴族、あるいは平民ということになる。

 つまり、転生者もいない。

 なぜなら彼らの多くは、大貴族のもとに生まれるから。

 それはちょっと、安心である。チートスキルの持ち主は絶対にイビキを掻かない!! とか言われてしまったら、僕の演技は水の泡ってことになる。

 

 今回、僕と同じ学年には、転生者が12人ほど入ったと聞く。

 そのうちの何人が同じクラスになるんだろう。

 怖くて仕方ない。

 そして、今から僕の人生を左右するクラス分けの試験が行われようとしていた。

 クラスと寮は対応している。

 アストレア寮・ヴァルナ寮・スルト寮・セメレ寮。なんの因果か、僕のいた世界の神々の名前と同じ名前を冠していた。

 そのことに、おそらく転生者のみんなは気づいているよね?

 学園の創始者、僕と同じ転生者なのかな?

 この学園は、神に名を借りて、生徒を試してくる。なんというか、傲慢なシステムだ。でも、僕は神じゃない。ただの、嘘つきだ。なんというか、高慢な小僧だろう?

 所定のグラウンドには、人がごった返していた。

 僕らの前に、ちょび髭のおじさんが現れて、一言。

 「只今より寮分け試験を行う。内容は至って単純、一対一のタイマンだ、以上」

 ……まっずいね。

 嘘が、肉体に追いつけるかどうか、試される時が来た。

 これだけ人数がいるんだ。多分、最初に呼ばれることはないだろう。

 様子見をして、それからどうするか考えればいい。

 ちょび髭のおじさんは箱の中に入った紙を取り出した。

 たぶん、対戦カードの抽選なんだろう。

 なんでそこだけ、アナログなのかなあ?

 「それでは……初戦は、クレイヴ・ディセプとソウ・スレイマン……ほう、お互い転生者同士か。実物だな」

 ……まずすぎるか、非常に。

 「呼ばれた二人は中央の高台に来るように」

 ……行くしかない。

 僕はドキドキする鼓動と、周りの視線を感じながら、中央へと向かった。

 チートスキル:大幸運(ちょーラッキー)とかだったら、こんな目には合わないんだろうね。

 中央の高台は薄い光膜に包まれていて、内からも外からも干渉できないようだ。まるで、戦わせるためだけに用意された檻。

 大理石で作られたそのバトルフィールドは荘厳で、僕のチープな嘘が、あの磨かれた白い床に晒されたら、すぐに剥がれ落ちてしまいそうだった。

 そして対戦相手。目つきが鋭く、赤褐色の肌。そして腰には木刀を携えていた。

 明らかに、腕が立つ。それに接近タイプだよ、この人。

 「彼の踏み込み……左利きだ。それに、あの構え……いや、これは()()()()()な」

 僕は呟く。

 嘘で塗り固めた僕の頭脳だけが、唯一の武器なんだ。

 さて、なんとかして見せようじゃないか。


クレイヴと一緒に綱渡りしてる気持ちで、今後も書いていきます。

コメントや評価、めちゃくちゃ励みになります。

よければ次回も覗いていってくださいね。

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