一陽来復
週末、陽一はこはるに頼まれて、近所のスーパーに買い物に出かけた。食材の買い足しついでに、商店街の方まで足を伸ばす。春の陽気に誘われて、街は賑わっていた。
「今日はずいぶん人が多いな……」
通りを歩くと、商店街の中央あたりにテントが張られ、くじ引きの抽選会が開かれていた。商店街のイベントで、一定額以上の買い物をすると抽選券がもらえるという仕組みだ。
「いらっしゃーい! 本日最終日! まだ一等出てませんよ〜!」
陽一はポケットを探ると、以前買い物した時にもらった抽選券が入っていたことを思い出した。
「せっかくだし、やってみるか……どうせティッシュか洗剤くらいだろうけど」
列に並び、順番が来て、係員に抽選券を渡す。くるくると回るガラポン。何色が出ても大して期待していなかった。
——カランッ!
派手な鐘の音が響いた。
「おおっ!? 赤玉出ましたー! 一等当選です!」
「えっ?」
目の前で鐘を鳴らす係員が、満面の笑みで陽一を見ていた。
「お、おれ?」
「はい! おめでとうございます! 一等は三万円分の商店街共通商品券でーす!」
陽一が戸惑いながら受け取った封筒の中には、ピカピカの金券がぎっしりと入っていた。通行人がざわざわと集まり、拍手を送ってくる。
「いや……マジで? こんなことあるのか……?」
なんとも言えない恥ずかしさと、じわじわこみあげてくる嬉しさ。まるでテレビの中の出来事のようだった。
家に帰ると、こはるがいつものように玄関で出迎えてくれた。
「おかえりー!」
「……ただいま。ほら、見てみろ、これ」
商品券の束を見せると、こはるの目がまんまるになった。
「わあ! これどうしたの!?」
「商店街のくじ引きで……一等。当たったんだ」
「すごいっ!」
こはるはぴょんぴょんとその場で跳ねて、大喜びしている。
その夜、夕飯を食べながら陽一はつぶやいた。
「最近、運が良すぎる気がするんだよな……。今日も信号、全部青だったし。お昼も入った定食屋がちょうど来店一万人目で、タダだったんだぜ?」
「えー、すごい偶然!」
「偶然、ねぇ……」
目の前でにこにこしているこはるの存在を思い浮かべる。——いや、まさかな。でも、彼女が来てから、何かが変わってきた気がするのは確かだった。