3章 奇奇怪怪
「おじさん、今日もゲームしよ!」
夕食のあと、こはるが目を輝かせて言った。
陽一は台所でお皿を片付けながら、笑って振り返る。
「もちろん。じゃあ、今日は僕が選んでもいいかな? 最近はずっと君の選んだソフトばかりだったから」
「えー、やだー。おじさんの選ぶやつ、難しそうなんだもん」
「そんなこと言うなよー。じゃあ、こうしよう。今日僕が選んで、明日は君が選ぶ。交代な?」
「……それならいいよ。つまんなかったら、途中でやめるけど!」
二人で笑いながら、テレビの前に並んで座る。
コントローラーを握ったこはるは、真剣な顔で画面に集中しはじめる。
その横顔を見ながら、陽一はふと考える。
この子は、いったいどこから来たんだろう?
部屋に突然現れて、「ここにいたくなっただけ」と言った少女。
親の名前も、住んでいた場所も、学校も、何も分からない。
ごく普通の子供に見えるけれど、どこか現実離れした雰囲気がある。
たとえば、ふとした瞬間に感じる静けさ。音も気配もないのに、そこにいる感じ。
まるで……幽霊のような。
「おじさん、手ぇ止まってるよ!」
こはるに突っ込まれて、陽一はあわててゲームに戻る。
「ごめんごめん、ちょっと考えごとしてた」
「ふふ。まけないよー」
画面の中でキャラクターたちが走り回る。こはるの笑い声が部屋に響く。
……まあ、今はそれでいいか。あんまり詮索するのも野暮だ。
ひとしきり遊んだあと、陽一はふと思い出したように口を開いた。
「なあ、こはる。外に遊びに行ってみたくないか?」
しかし、こはるの笑顔が、ふと曇る。
「ううん。……外、行けないの」
「……なんで?」
「行こうとすると、足が動かなくなるの。外に出ようとすると、苦しくなるの。怖くて……動けない」
こはるの言葉には、作り物のような感じがなかった。
本当に、外に出られないのだろう。
「わかった。無理には言わないよ。ここで、一緒に遊べばいい」
陽一がそう言うと、こはるは小さく笑った。
「ありがとう。おじさん、やさしいね」
陽一は、なぜか胸の奥がちくりと痛んだ。
――この子は、今までどんな場所にいたんだろう。
――どんな大人たちに囲まれてきたんだろう。
テレビの光に照らされたこはるの横顔を見つめながら、陽一はそっと心の中で誓った。
この子には、ここでだけでも、笑っていてほしい――と。