光彩奪目
まぶたを閉じると、ふわりと身体が軽くなった。どこか遠くへ引き寄せられるような感覚に、こはるは身を任せた。
気がつくと、そこは真っ白な空間だった。上下も左右もわからない、まるで世界のどこにも属していない場所。こはるは一人、ぽつんと立っていた。
「ここは……どこ?」
その問いに、すぐに返事はなかった。けれど、空気の中に溶け込むようにして、ゆっくりと声が現れた。
「お前に語るべき時が来た。お前の役目、そして本当の姿について。」
その声は人のものではなかった。優しくも、どこか凛としていて、心の奥に直接語りかけてくるようだった。
「ずっと疑問だったんだ……なんで私は、色んな家を渡り歩いてきたんだろうって。なんで名前も、家族も、何もなかったのかって。」
声は、少し間を置いて語りかけてきた。
「お前は、哀れな最後を迎えた子。だからこそ、もう一度だけ与えられたのだ。生きるチャンスを。人の欲に触れ、それを見極める者としての役目を。人を照らす福とされながら、その本性を映し出す試練を担わされてきた。」
こはるの胸がきゅっと締めつけられた。やっぱり、そうだったんだ。
「じゃあ、私は、ただ試すためにここにいたの? 人の本性を暴くために?」
「その通りだ。そして、それでもなお、お前が“この人となら生きたい”と思える存在に出会えた時、願いは叶う。」
声はそう言った。こはるはそっと目を伏せる。そして、少しだけ微笑んだ。
「…おじさんに会って、全部が変わったの。最初は、ただ優しい人だなって思ってた。でも、毎日が楽しくて、温かくて。私のことを“福”なんて言わなかった。“座敷童子様”なんて言わなかった。ただの、普通の子供として接してくれた。」
声は静かにこたえた。
「お前は、何を望む?」
こはるはしばらく目を閉じたまま、思い出していた。自分の生前のことを。寒い部屋、怒鳴り声。物陰で息を潜めていた日々。泣いても、誰も来てくれなかった夜。ご飯の匂いがしたのに、もらえなかったこと。寒さと空腹の中、最後に見たのは、誰の顔だったかも思い出せない。
「……あの頃は、誰にも名前を呼ばれなかった。だから、名前も覚えてない。でも、おじさんが“こはる”って呼んでくれた。そのたびに、心があたたかくなった。生きてるって、こういうことなんだって思えた。」
彼女は顔を上げて、白い空間の中に語りかけた。
「お願い。私、おじさんと一緒に生きたい。ずっとそばにいたい。もう、ひとりじゃいたくない。こはるって名前で、ずっとあの人の隣にいたい。」
白い空間に、風が吹いたように光が舞う。その中で、声が優しく響いた。
「その願いが、真実のものであるなら——」
その言葉の続きを聞く前に、こはるの目の前に光が差した。
その先には、あの人がいた。




