華胥之夢
陽一は眠りに落ちる前に、こはると話したことを思い返していた。
彼女が願う「一緒に生きること」の重さと、それがどれほど彼女にとって大切なことなのか、心の中でじっと感じていた。
こはるが望む未来をどう受け入れ、応えていくべきか。
考えているうちに、いつの間にか彼の意識は深い眠りに引き込まれていった。
夢の中、陽一はいつもの自分の部屋に座っていた。
しかし、そこにはこはるの姿が見当たらない。
代わりに、どこからともなく、どこか遠くから響いてくるような声が聞こえてきた。
「おじさん…」
その声は、こはるのものだった。
陽一は立ち上がり、声がした方向に歩き出す。
部屋の扉を開けると、そこには白い光に包まれた空間が広がっていた。
現実とは思えないような、どこか懐かしくも温かい場所。
その中心に、誰もいないはずの空間から、ふいに声が響いた。
「まだ迷っているようだな」
それはどこか深く、静かな力を感じさせる声だった。
声の主は姿を持たず、ただ音だけが空間に満ちていた。
それでも、陽一はなぜか不安を感じなかった。
「……お前は誰だ?」
問いかけたが、声は答えず、まるで陽一の心の内を映すように言葉を重ねた。
「こはるは、君と生きたいと願った。彼女がそう望んだということを、君はどう受け止める?」
「受け止めるも何も……俺は、ただ、こはると一緒に暮らしたいだけだ。あの子が笑っていられるなら、それで十分だ」
「それが本心か?」
声は静かだったが、どこか試すような響きがあった。
陽一は一瞬、言葉に詰まる。
自分の気持ちを、正直に見つめることを求められている気がした。
「……本心だ。俺は、あの子が誰であろうと、何であろうと関係ない。こはるがこはるとして、そばにいてくれるなら、それでいい。俺は、あの子を守りたい。ただの“誰か”じゃない。俺の、大切な……娘だと思ってる」
しばらくの沈黙のあと、声は少し柔らかくなった。
「ならば、もう何も言うまい。君の願いは間もなく形を持つだろう」
「……願い?」
光がふわりと揺れる。
そして、眩しい光の中から、今度は本当に、こはるの姿が現れた。
彼女はいつもの服装で、少し照れくさそうに笑っていた。
「おじさん…やっぱりここにいた」
陽一は少し戸惑いながらも、彼女に近づく。
「こはる…これは、夢なのか?」
「うん。たぶん、夢。でもね、ちゃんと伝えたかったから」
こはるはまっすぐ陽一を見上げた。
その瞳は、決して揺らいでいなかった。
「おじさん、ずっと一緒にいたい。でも、それだけじゃないの。おじさんと一緒に、これからもいろんなことをしていきたいなって思うんだ。おじさんがいると、なんだかすごく安心するし、怖くないんだ。だから、お願い…私と一緒にいてくれる?」
その言葉に、陽一は胸の奥が熱くなるのを感じた。
何か特別な選択を迫られているわけではない。
ただ、大切な誰かの願いに、心から応えたいと思っただけだった。
「……ああ。俺も、ずっと一緒にいたい。こはる。これからも、一緒に生きていこう」
こはるは嬉しそうに笑い、陽一に駆け寄ってきた。
その瞬間、光が再び空間を満たし、彼の意識はゆっくりと現実の世界へと引き戻されていった。




