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疑心暗鬼

その日、陽一は仕事の帰りに、取引先の担当者と軽く飲みに出た。


気づけば話題は地元の古い町並みの話へと移り、少し懐かしさを感じながら聞き流していた陽一だったが――その言葉が耳に入った瞬間、思わずグラスを持つ手が止まった。


「いやあ、あの辺の家なんか、座敷童子でも出るんじゃないかって思うくらい妙に運がいいんだよ。実際に商売繁盛してる家、多いしな」


「……座敷童子?」


つぶやいた陽一の声に、相手の男性が笑いながら頷いた。


「都市伝説ってやつさ。見たことあるやつなんていないけど、“見たら出ていく”とか、“見えたら終わり”とか、妙に決まった話が多いのも不気味でさ。でもまあ、運を運ぶ子供の霊って言うなら、見てみたい気もするけどな」


その言葉に、陽一の頭に浮かんだのは、いつも自分のそばにいる少女――こはるの姿だった。


家に来てから、明らかに何かが変わった。


笑顔が絶えない毎日。小さなラッキーの連続。そして、彼女が来る前の記憶が、なぜか遠く霞んでいるような、不思議な感覚。


彼女は、どこから来たのか。


なぜ、自分の家に現れたのか。


そして――なぜ、いまだにその存在を、誰にも話す気になれないのか。


飲みの帰り道、夜風が妙に冷たく感じられた。


家に戻ると、こはるはいつも通り、リビングでテレビを眺めながら陽一の帰りを待っていた。安心したように笑うその姿は、どこまでも無垢で、愛らしく――けれど、同時に陽一の心の奥に、少しずつ“得体の知れなさ”をにじませていく。


「ただいま、こはる」


「おかえり、おじさん。今日は遅かったね」


「ちょっと仕事のつきあいでな。……こはる、お前って……不思議な子だよな」


「えへへ。よく言われるー」


そう言って笑うこはるの顔に、陰りはなかった。


でも陽一の心の中では、今までにない小さな問いが、静かに形を持ち始めていた。


――君は、誰なんだ?


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