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是非曲直

「あれから、やっぱりついてるよなあ……」


ローテーブルの上に置かれた紅茶の湯気が、春の午後にゆるやかに揺れている。陽一はクッキーをかじりながら、ポツリとつぶやいた。


「ん? なにが?」


こはるが、素朴な声で問い返す。陽一は笑いながらも、どこか戸惑いをにじませた表情で続ける。


「最近、運が良すぎるって思わない? 契約はうまくいくし、商店街のくじ引きで一等当たるし、たまたま入った店で記念客とか……普通こんなに続かないよな」


「いいことじゃない」


クッキーをもぐもぐと食べながら、こはるはそう言って笑った。


「うん、まあね。嬉しいんだけどさ。でも……何か理由があるんじゃないかって、ちょっと思うんだよ」


紅茶を一口すすりながら、陽一はぼんやりと窓の外を見る。春風に揺れるカーテンの先に、ふと、昔母から聞いた話がよみがえる。


――ある家に、幸運をもたらす子どもの霊が棲みつくことがある。


「それはな、いるだけで家に福を呼ぶんだって。でも、姿を見た者には福が去るとも言われててな……だからこそ、見えないのが一番なんだよ」


子どもの頃、迷信として聞き流したその話。今思い返せば、あれはたしかに“座敷童子”のことだった。


日本のどこかには今もいる、そんな都市伝説。


その存在が、もしも――


陽一はこはるの顔をちらりと見た。まるで見透かされたかのように、彼女はただにこにこと笑っていた。


「こはるって、前はどこにいたんだっけ?」


「わかんない。いろんなとこにいたような気がするけど、ここがいちばん、落ち着くかな」


まるで家そのものを選ぶような口ぶりに、陽一の胸の奥で小さな疑問が芽を出す。


でも、それはまだ確信にはならない。


「……まあ、いっか」


理由なんて、今はどうでもいい。目の前の小さな幸せが、本当に温かいものなら――それで十分だ。


陽一はこはるにコップを差し出し、軽くぶつけるふりをした。こはるも笑顔でそれに応える。


春の日差しが、ふたりの静かな時間を包み込んでいた。

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