杯中蛇影
パーティーが終わってから数日が過ぎた。こはると過ごす時間は、何とも言えない穏やかさと楽しさに包まれていた。陽一は仕事の合間にもこはるのことを思い出し、帰宅するとその明るい笑顔に迎えられる日々が心地よかった。まるで彼女がずっとここにいたかのように、二人の生活はすんなりと馴染んでいた。
しかし、ふとした瞬間、陽一は疑問を感じることが増えてきた。こはるがまるで最初から自分の家にいるかのように自然に振る舞っている姿に、少しずつ違和感を覚え始めたのだ。
「こはる、いつからこの家にいたんだっけ?」
陽一はぼんやりとそんなことを考えた。彼女が初めて家に来た時、確かに驚いたものの、今ではその時のことが遠い記憶のように感じられる。まるで初めから家にいたような、そんな気さえする。
そんな疑問を抱えつつも、陽一は毎日を過ごしていた。その日も、仕事帰りに立ち寄ったスーパーでのことだ。財布を出し、支払いをしようとしたとき、何気なく中身を確認すると、ちょうど支払い額にぴったりの小銭が残っていた。普段なら少し足りないことが多いのに、この日は不思議とそれがぴったり合った。
「なんだか、今日は運がいいな」
陽一は苦笑しながらその小さなラッキーを楽しんだ。しかし、次の日には、また別のラッキーが起きた。ランチタイムに訪れたカフェで、なんと新メニューの無料試食券をもらうことができた。普段なら見逃してしまいそうな小さなチャンスを、何故か次々と手に入れている気がした。
「本当に、最近ラッキーな事が多いな…」
陽一は少し呆れたように笑った。その一方で、胸の奥にぽっかりとした不安が広がっていくのを感じていた。こんなにも順調で、運が良すぎるのは、本当に自然なことなのだろうか。何かが裏で動いているような、そんな気がしてならなかった。
「でも、まあ、いいか。こはると一緒にいるだけで楽しいし、ラッキーなことが続いているなら、それも悪くない」
陽一は気を取り直し、こはるとの楽しい時間を大切にしようと心に決めた。その夜、こはると一緒にお風呂に入り、ゲームをして笑い合いながら、そんな些細な疑念を振り払おうとした。しかし、心のどこかで、それが本当の理由ではないのだと、陰りを感じ取っていた。
「こはるが来てから、何かが変わったような気がする…」
その思いは、夜が深まるにつれて、ますます強くなっていった。




