一知半解
「あのさ、こはる……最近、妙にツイてるんだよ。まるで、人生がご褒美をくれてるみたいに」
陽一は、こはると並んでリビングのソファに座りながら、ぽつりと呟いた。テレビではバラエティ番組が流れていたが、彼の目はそこに映る映像をまったく追っていなかった。
「うーん、おじさん、前に悪いこといっぱいあったんでしょ? きっと、そのぶん今がいい時なんだよ」
こはるは、あどけない笑顔を浮かべてそう言った。その言葉に嘘や打算はまったく感じられなかった。ただただ、純粋な優しさがそこにあった。
陽一は口元をほころばせながらも、心の奥に沈む違和感を拭えなかった。
商店街のくじ引きでまさかの一等。昼休みにたまたま入った定食屋で「来店1万人記念」として会計が無料に。そして今日は、普段はなかなか取れない契約を一気に三件も決めることができた。
「さすがに、できすぎてるよな……」
こんな幸運が一度に重なるなんて、あまりにも不自然だ。もちろん努力もしているが、それだけでは説明のつかない“追い風”を感じていた。
——もしかして、こはるが何か関係してるんじゃ……。
ふと、そんな考えが頭をよぎる。だが同時に、その思考を振り払うように首を振る。
こはるはただの無邪気な子供だ。突然現れた、不思議だけれど優しい子。……きっと偶然が重なってるだけ。そう思いたかった。
「ねえ、おじさん」
「ん?」
「今日のごはん、一緒に作ろう?」
突然の申し出に、陽一はきょとんとした後、優しく笑った。
「いいね、そうしよう。何が食べたい?」
「カレー!」
こはるは満面の笑みを浮かべ、両手を元気よく挙げた。
——この子が、ただの普通の子でいてくれたらいい。
そんな願いが、心の中で小さく灯る。たとえ何か特別な存在だったとしても、今ここにいるこはるの笑顔を疑いたくはなかった。
その晩、二人で作ったカレーは、具が少し多すぎたけれど、どこかほっとする味がした。




