第9話 イケメン参戦
教室の微妙な空気に耐え切れず、かといって今教室を出たらクミコ達とばったり会ってしまう可能性もあるので、僕は頭を抱えて俯いていた。そんな時、僕に近づいてくる人がいた。
「アキラ、災難だったな。」
僕の肩にぽんぽんと手を掛けながら声を掛けてきたのは、イケメン三人衆の一人でありクラスリーダーでもあるタクヤ シシドウだ。金髪に端正な顔立ち、見た目はすらっとした体型でも服の下は鍛え抜かれているのを僕は知っている。傍目にはクミコととても仲が良く、周囲からは二人が付き合い始めるのももはや時間の問題ではないのかとよく言われている。
「しかし、あのいつもクールなクミコにもあんなアツイ面があったなんてな。案外アキラってクミコに期待されてるんじゃねえの?」
「ううん、そんな事ある訳無いよ。…でもタクヤ君は優しいね。」
うん、本当に優しいのだ。彼とも何度か授業の一環で一緒にダンジョンに潜った事があり、そこでいつも通りというか僕がやっぱり何度かミスをするんだけど、その都度すっごい庇ってくれるんだ。そうすると舌打ちしてた周囲の人も『まぁタクヤがそう言うなら…』って感じで僕がそれ以上責められる事は無くなるし、それだけじゃなくて、僕と目線を合わせて僕のレベルでそのミスに対してアドバイスをくれるんだ。
え、何この人。神様が遣わしたんじゃないかと思う程、人が出来過ぎてる。
「ははは、そんな事は…あるかな。俺は天から二物も三物ももらっちゃったからね。その分、みんなに分け与えてあげるのが俺の使命だと思っているのさ。」
そういいながら、ふぁさっと前髪をかきあげた。遠くで『キャー』って黄色い悲鳴が聞こえる。しかしこんな台詞でも彼がいうと、嫌味に聞こえない。
イケメン3人組はみんな女性に人気だけど、タクヤが圧倒的一番人気なのも分かるよ。
「で、どうなんどうなん?隣のクラスの…レイラちゃんだったっけ?剣が結構上手くて、可愛いコだったよね。良い仲なん?っていうか彼女、マッケロ商会の娘さんだったよな。ひょっとして逆玉狙ってたりするん?」
そこのところどうなのよとばかりに肘でつついてくる。
いや、本当に何でもないんだってばーと伝えても信じてくれない。すると急に小声で
「ところでアキラってクミコを狙ってるとばかり思ってたんだけど、間違ってた?」
と囁かれた。一瞬ドキッとしてしまったけど、僕の答えは決まっている。
「僕にはちょっと高嶺の花過ぎるかなぁ。そういう目では見ていないよ。」
と答えると『ふーん、そうなんだ。』と短く答えると少しの間、彼は何かを考えているようで僕はそれをじっと待った。そして彼は少し緊張した顔で僕に話しかけてきた。
「じゃ、じゃあ、俺がクミコにアプローチかけても良いか?アキラがほんの少しでも嫌ならやめる。だから正直に言ってくれ。」
「え、なんで僕に聞くの?クミコの事なんだし、僕の許可なんてとる必要無いでしょ?」
「うん?…そうか。じゃあ、良いんだな?もちろん振られるかもしれないからこんな確認自体意味無いかもしれないけどな。」
「う、うん。もちろんだよ。タクヤ君ならクミコととてもお似合いだし、上手くいくんじゃないかな。タクヤ君でダメなら他の誰もクミコとは付き合えないよ。」
そう答えた瞬間、胸の奥がほんの少しチクりと痛んだ気がする。
「そうか?まぁでもありがとう。じゃあ俺も少し頑張ってみることにするよ。でも少しでも嫌だと思ったら言ってくれよ?俺はお前とはいい友人でいたいと思っているんだ。」
こんなイケメンでスーパー超人が頑張ったらどうなっちゃうんだろう。クミコの浮いた話は聞いたことが無いけど、クミコですら例外ではいられないんじゃないのかな。
というかタクヤ君、クミコより僕との友人関係を優先するってどういう事なの?
「なんでクミコより僕を優先しようとしてるのさ。正気?それとも僕、前世でタクヤ君の命の恩人だったりする?」
「あはははは。たまにアキラってめっちゃ面白いよな。違うよ、俺はお前の事をかっていて、末永く友人でいたいと思っているって事さ。」
こういうセリフを照れずに言い切れるってすごいよね。それに対して僕はかろうじて『ありがとう』っていうのが精一杯だった。本当にかなわないなぁ。