第55話 団体戦練習
とうとうというかやっと団体戦メンバーが揃った僕らは、この週末にチーム練習というか、お互いの強みや弱みをより理解するためにダンジョンに潜りに来ていた。
今日は”死者の墳墓”ではなく、普通のダンジョンの方だ。
アンデッドモンスターは癖があるからね。
アンが罠を探知しつつ索敵をこなし、
戦闘が始まればグリフィスさんが先陣を切って敵とぶつかり、ズレータが斧で豪快に敵を斬り裂く。軽戦士であるザフィール君がバランスを取りながら前線を維持し、僕が傷ついた前衛を癒しながら前線の穴を埋める。
そしてナタリアさんが氷と風の魔法で敵に大ダメージを与える。
おお、僕のパーティー。かなりバランスいいんじゃない?
その勢いのまま今、僕らは第十階層のエリアボスの部屋の前にいる。
この先には以前のダンジョン演習でテルキナがリーダーだった時に挑んだハイオーク(注:第32~34話 ダンジョン演習・第五週)だ。あの時にはズレータとアンが一緒だった。他のメンバーとしては、テルキナと取り巻きのキャサリンの代わりに、グリフィスとザフィール、シズカの代わりにナタリアといった構成だろうか。メンバーの質的には当時とそれほど変わらない気がする。
まだ僕を始めとして、ほとんどのメンバーがこのハイオークの部屋を突破できていない。でもあの時から4週間経っており、あの時よりみんな少しずつ強くなっている。それにリーダーが僕だから、もしダメでも深追いせずに撤退できるはずだ。
「じゃあ、作戦というか役割分担を決めるよ」
と僕が声をかけるとみんながうなずいた。
「まずグリフィスさんとザフィール君がメインでハイオークと当たる。この二人ならハイオーク相手でも引けを取らないはずだ。」
グリフィスさんは当然という感じで頷いているし、ザフィール君は任せてくれとサムズアップしている。
「ハイオークが呼ぶ3匹のオークは、僕とアンとズレータ君がそれぞれ1匹ずつ対処する。僕とアンは苦戦すると思うけど、ズレータ君なら楽勝だろう。ズレータ君は自分のオークの処理が終わったあと、僕とアンが戦っている相手を横から倒してほしい。」
「ええ、わかったわ」「任せろ」
「ズレータ君は、オークの処理が終わったらハイオーク戦に隙を見て加わって欲しい。ただ、深入りはしないでくれ。僕とアンはハイオーク戦には加わらず、次のオーク呼びに備えて待機。もちろん僕は怪我した人がいたら回復するよ。」
「わかったぞ」
「最後、ナタリアさんはズレータ君のオークだけ援護射撃で支援して、あとはハイオークへ攻撃を集中させてね。」
「ええ、いいわ」とウィンクしながら懐からステンレス製ヒップフラスクを掲げてみせたので、すかさず取り上げておく。「ああっ!」というかわいい声が漏れるが、ハイオーク戦で酔っ払いは洒落になってない。
「じゃあ、行こうか!」
「「「「「おうっ!」」」」」
ボス部屋に入ると、そこにはハイオークが1匹いた。僕らの侵入に気付くとそのハイオークは
―――ブモォォォ!
と雄叫びを上げると、どこからともなくオークが3匹現れた。
ここまではいつも通りだ。
グリフィスがハイオークに向けて駆けていく。長巻を振りかざし、ハイオークと切り合う。4週前のテルキナより、今のグリフィスの方が強さは上のようで、ほぼ互角に戦っている。
グリフィスに遅れまいと、ザフィールもハイオークに斬りかかる。グリフィスとほぼ互角なので、その上ザフィールも相手にするのは大変そうだ。今のところはハイオークも位置取りを上手く利用して戦っているようだけど。
次にズレータだけど、彼はオークに接敵すると斧で豪快に殴りかかった。オークは槍で応戦するが、明らかに劣勢だ。そこをナタリアから氷の魔法が飛び、オークに命中してバランスを崩させている。ここはすぐに決着がつきそうだな。
残り2匹のオークが僕やアンを無視して、ハイオークの戦いに参戦しようとしているが、そうは問屋が卸さない。僕とアンがそれぞれオークに攻撃を仕掛けて、ハイオーク戦から引き離す。
軽い魔法を交えながら、メイスと盾で槍を持つオークと僕は戦う。槍を確実に盾で弾きながら、光魔法を放ったり、隙をついてメイスで殴りかかったり。ダメージをほとんど与えられていないので、倒せる気はしないけど、互角には戦えていると思う。
少し離れたところのアンも身軽にオークの槍をかわしながら、小剣でオークの腕に傷をつけている。こちらも大丈夫そうだ。
――ブモッ
――ズーン!
するとオークが一匹倒れる音がした。
お。早いな。ズレータが担当のオークを倒したようだ。
僕の相手しているオークもそれが分かってそちらにも意識を向けたいようだけど、僕は半ば捨て身で攻撃を仕掛けて、そちらに注意を向けさせないように激しく攻撃した。
するとその甲斐があって、そのまま僕と戦っているオークをズレータが無防備な背後から斧で一撃で斬り伏せた。そのままズレータはアンとも互角に戦っているオークも背後から倒した。ふぅ。
僕は素早く周囲を見回すと特に大怪我を負っている人はいなかったので、まずズレータに回復をかけた。彼も少し無理をしてオークにトドメを刺したのだろう。息が荒かったズレータは呼吸が落ち着くと、「助かる」と一言残してハイオークの方に駆けていった。
アンはオークのドロップ品を回収しながら、次のオークが現れる地点に向かっている。
ハイオークとの戦いはもう佳境に入っている。グリフィスとザフィールの攻撃をいくつか食らっているのだろう。何か所からか出血していた。そこへナタリアの氷と風の魔法が絶妙なタイミングで襲いかかる。既に劣勢だった。
魔法をくらってバランスを崩したハイオークにグリフィスが容赦なく襲い掛かる。ハイオークが後方にジャンプしてかわそうとするが、グリフィスの攻撃はハイオークの左腕を大きく斬り裂いた。
その着地点にザフィールが襲いかかり、さらに手傷を加える。グリフィスがそこを更に畳みかけるように斬りかかると左腕を犠牲にして、ハイオークは退いた。そして1分半が経ったのだろう。ハイオークが大きく息を吸い込み、咆哮を上げてオークを呼ぼうとする。
ところを背後から戦斧を振りかざしたズレータが、脳天唐竹割りとばかりにハイオークを真っ二つに斬り裂いた。ゲームセットだ。
「へへっ、グリフィスだけでも倒せそうだったのに、最後にいいところをもらっちまったな。」
「ふん、まぁまぁいい一撃だった。」
ズレータとグリフィスが最後のお互いの健闘を讃えている。
そう。とっつきにくいと思われていたグリフィスだけど、最近は慣れてきたメンバーとは結構話すんだよね。なんだただのコミュ障か。僕と同じじゃないか。
この後、少し反省会をしたけど、特に問題がなかったので休憩を兼ねて、ハイオークの再出現待ちをしながら、この後メンバー配置を入れ替えて、何度かハイオーク戦を繰り返した。いい勉強になったと思う。
でも、グリフィスの位置に僕を入れるのはやり過ぎだと思うんだ。死ぬかと思ったよ。
さて、チーム内の連携もとれてきたし、もうすぐ始まる団体戦もこれなら楽しみだね。




