第5話 美少女との軽妙なトーク
帰りがけにその美少女といっぱい話をした。といっても基本的にそのコは話好きだったので、僕は基本的には話をひたすら聞いてひたすら相槌を打って、たまに聞き返す程度で済んだのは僥倖だった。美少女相手に軽妙なトークとか出来る訳がない、陰キャを甘くみるなよ!
ちなみにこちらの赤髪の美少女は、レイラ マッケロさんという方だった。ああ、そういえば指折りの豪商であるマッケロ商会の娘さんがうちの学年にいるって噂になってたなぁ。それがこんな美少女だったとはね。職業は見ての通り剣士との事だ。
成績的には上から2番目であるBクラスの上位でもう少しでAクラスというところだったらしい。だから彼女のポジション的にAクラス下位の僕は蹴落とすべき対象として既に知っていたらしい。だから僕とは初対面って感じがレイラさんはあまりしないんだとさ。
でもそれにしてはちょっと距離が近過ぎやしないですかね…。
「んー、でもなんでレイラさん『レイラ、ね』…うう名前呼び…しかも呼び捨ては陰キャにはハードルが高いよ。『ごちゃごちゃうるさい。私の裸を見た事をバラされたくなかったら、レイラと呼びなさい、さぁ!』レイラ…は、なんで死者の墳墓なんかにいたの?あそこは剣士には不向きでしょ?なんか新手の修行?」
僕のレイラ呼びによしよしと頷いていた。僕も聞くだけじゃなくて少しくらい話しかける姿勢を見せないとと思って、なんとか軽めに聞いた内容に対して、彼女はとんでもない事を言い始めた。
「実は…アキラにはいうけどさ、私は確かにマッケロ商会の娘だけど、マッケロ家の実の娘ではなくて、元々は奴隷として買われたんだ。そのまま奴隷として一生を終えるところを私に剣の才能と魔法の才能がある事に目を付けた会頭が、私を養子にして彼の娘としてこのジャスティン魔法学園に入学させたんだ。この私の美貌なら奴隷のままでも高く売れただろうけど、魔法学園で優秀な成績を収めて王国騎士にでもなれたら、ただの奴隷として高額転売して終わるだけよりも、警察権を持つ騎士団とのコネが出来る方が価値が高いと会頭は判断したらしい。」
…。
ねぇ、どうして?トークのキャッチボール感覚で軽く投げ返しただけのつもりだったのに、なんでこんなに重い内容になって返ってきてるの?
美少女とのトーク、難易度高過ぎない?
「それは、その…何と言って良いのか。」
『奴隷だったのに、魔法学園に通えて良かったね?』は、違うだろうなぁ。いい言葉が浮かばないよ。僕が言葉に窮しているのを見たレイラは
「ああ、違う違う。同情して欲しい訳じゃない。むしろ私はツイていると思っている。私程の美貌なら、奴隷として変なところに安く売られて悲惨な結末になる可能性は低いとは思う。でもそれは低くてもゼロじゃない。それが誰もが羨む魔法学園に通えて、しかも王国騎士になれる事が出来たら奴隷から解放されるんだ。もちろんその時は恩義のあるマッケロ商会に多少なりとも義理を果たす必要はあるだろうけど、奴隷から解放される可能性を与えられた、そのチャンスがあるだけで私はとても恵まれていると感じているよ。」
僕はなんか…レイラに圧倒されていた。魔法学園で彼女が出来たらいいな…なんて《《のほほん》》と日々過ごしていた僕とは最初の心意気からして違った。
…尊敬するよ、貴女を。
「で、話は戻るけど、死者の墳墓にいた件だな。
学園の入学金と授業料と寮費はマッケロ会頭が負担してくれている。これは正当な投資だと言ってたな。でもそれ以外の生活費や装備等のその他の費用は自分で稼がないといけないわけだ。その…貧乏な部分はマッケロ商会の娘と思われている以上、世間一般に知られる訳にはいかないからな。だから迷宮に潜るときは基本的にソロなんだ。
稼ぎ先を死者の墳墓にした理由は、まず対人戦闘技術を磨きたかったのがある。王国騎士を目指すなら対人戦闘技術がより求められるからな。スケルトンなら二足歩行型で剣などの武器を持っているから対人戦闘技術を磨きやすい。そのほかには…こちらの方が理由として大きいが、小銭を稼ぐのにはスケルトンが良いと聞いたんだ。スケルトンが落とす白い魔石は流通量が少なくて、他の色の魔石より2~3割程度買取価格が高いって。確かに戦士系には戦いづらい相手だけど、教会で祝福を受ければ十分に倒せると。でもお金が無いから、安くて長時間もつ祝福をかけてもらったんだけど、考えてみれば流通量が少ないのにはちゃんと理由があるんだよな。それは安い祝福程度ではどうにもならない程の。」
私がただ単に考え足らずなだけだったー…って少し落ち込んでいるようだ。
でも命は助かって学べたんだから、それでいいじゃない。と適当に返事をしておいた。
「そう、それなんだよ。それ。」
そうしたら予想外に食いつかれた。
「アキラと出会えたのはとても幸運だった。もちろん命が助かったのはその中でも最たるものだけど、Aクラスの優秀な僧侶と知り合えたのも大きいな。」
「え、AクラスっていってもAクラスの端っこに引っ掛かってるだけだよ?」
「そんな事は無い。まずAクラスには他にも回復職はいるけど、僧侶はいないだろう。だから、今年一番優秀な僧侶はアキラという事になる。」
とレイラは僕の鼻の頭を人差し指でちょんと触った。その程度で僕はどぎまぎしてしまう。
「えええ、それは流石に無理やり僕を持ち上げ過ぎでは?学年に一人しかいない職だったら、その時点でその人は一番優秀な〇〇って事になるし。」
「そうかもしれないけど、それでもアキラが今年一番優秀な僧侶であることに違いは無い。もっと誇っていいと思うぞ。」
うぅ…正直、過剰におだてられてる感はあるけど、それでも嬉しいという気持ちが抑えきれない。褒められる事がこんなに嬉しいなんて。
「そ、そんなに煽てても何も出ないよ。今日、レイラの生命を助けたからそんな風に言ってくれるのかもしれないけど、別にそんな事しなくても何か対価を要求したりしないから安心して。」
僕は別にレイラがそんな気持ちから言ってくれたのではない事は百も承知だったが、そう返すのが精一杯だった。
「ふふふ、そうか?まぁいい。なら、そういうことにしておいてやるよ。」
ちょっといたずらっぽく笑うレイラは、僕にはとても魅力的に見えたんだ。