第44話 放課後特訓
魔術授業の合間の休み時間にグリフィスさんに週末特訓に参加しないか聞いてみたところ、初めは難色を示されたけど、ズレータがパーティーに加わったことを話すと、交換条件として一般教養のノートを毎週見せるって約束でOKしてくれた。
ズレータと模擬戦ができるのなら、参加する価値があるというわけだ。
思ったよりも全然あっさりと。
そして放課後は、シズカさんとの二人きりの特訓だ。
しかし、まず先週からの闇魔法の自主研究の経過報告として、シズカさんに伝えなければならないことがある。それはもちろん、グリフィスさんに闇魔法が発動できたことだ。
当然、今までシズカさんにしか発動しなかった闇魔法が、なぜグリフィスさんに発動したのか説明しないといけない。
そう。シズカさんにフラれた一週間後に、グリフィスさんにフラれたというのを伝えないといけないのだ。
まずシズカさんが先週からの一週間での闇魔法の研究結果に対する報告があった。といってもシズカさんは闇魔法が使えるわけではないので、『今週の研究テーマを考えてきた』というのが正しい。
ありがたい。やはり魔法の専門家、っていうか研究家だな。他の属性との比較方法など、僕では考えつかないことばかりだ。
そして僕の番だ。
シズカさんを見る。黒髪のストレートがとてもツヤツヤしていて、今日も一段と美しい。最近ではこの放課後特訓を通じて、フラれた過去を乗り越えて、シズカさんと少し仲良くなってきた気がしていたんだけどな。でもこの美しいシズカさんに、また虫けらを見るような目で見られるんだろうか。
またあの冷たい視線を浴びるかと思うと、背筋がぞわっとした。でも妙にそれが癖になりそうで……なんかオラぞくぞくしてきたぞ。
「シズカさん、報告があるんだ。」
「ええ、そのための報告会でしょ。早く言って?」
と僕に促しつつも、シズカさんは闇魔法の魔導書から目をあげる様子がない。禁書という性質上、シズカさんにそれを一時的にも貸し出すわけにもいかないので、シズカさんが闇魔法の魔導書を読めるのはこの時間だけだ。だからとはいえ、少しくらいこっち見てくれないかな……。
あれ?仲良くなったと思ってたけど、やっぱり僕の立ち位置ってあんまり変わってないのでは?しくしく、まぁいいか。
「グリフィスさんと先週ダンジョン演習で一緒になって、団体戦メンバーに誘ったんだ。『ふんふん、それで?』二転三転したけど、一応メンバーにはなってくれそうだよ。」
「あら、良かったじゃない。彼女クラスの実力者が入ったとなると、アキラパーティーも侮れないわね。」
「でも、素直には加わってくれなくて、僕の実力をみたいってことでダンジョン演習明けに模擬戦をすることになったんだ。」
「あら、それはご愁傷様。グリフィスさんが相手だと、一刀両断されてアキラの回復魔法が生きなそうよね。持久戦に持ち込めない以上、とても相性が悪そうね。」
「一応、勝ったんだ。」
「え?」
シズカさんはよほど驚いたのだろう。闇魔法の魔導書から顔をあげて僕を見てくれた。それは嬉しいけど、ここからはむしろ聞き流してほしかったような……。
「闇魔法をグリフィスさんにぶつけたら、一撃だったよ。それでグリフィスさんは団体戦メンバーになることを了承してくれて、昨日の個人戦でズレータ君もメンバーになってくれて、ズレータ君がいるなら練習相手になると、週末の特訓にも付き合ってくれることになったんだ。グリフィスさんも個人での練習に限界を感じていたんだろうね。よかったよかった。じゃあ、シズカさんが考えてきてくれた研究をさっそく実行に移してみようか。」
「待ちなさい。」
一気に言い切って、次に進もうとしたけどダメか。やっぱそうだよね。肝心の部分を結局は報告してないし。
「グリフィスさんになぜ発動したのか、その点をまず考えないといけないでしょう?でも、アキラは発動するのが分かってたようね。どういうこと?」
「あの……グリフィスさんにもフラれたんです。シズカさんにフラれた一週間後くらいに。」
「ああ、そういうこと。なるほどね。え、でもなんで言い辛そうにしてたの?」
心底不思議そうに言われてしまった。それはそれで悲しい。
「だって私はアキラ君を既にフッているのだし、私がアキラ君に異性を感じていないのは最近の付き合いで分かってるでしょうし、別に私を気にする必要はないでしょう?」
まぁ、そうなんですけど。
「そうねぇ。でも、ただ一つ言わせてもらえば、それがたとえクミコのスペアってのが透けていたにしても、真剣に告白してきた相手を振るのって結構心苦しかったんだけど、あの苦い思いは何だったんだろう。とは思ったけどね。」
あれ、シズカさん。顔は笑ってるけど、目が笑ってない。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「え、いいのよ。さっき言ったように謝ってもらうようなことじゃないし。」
え、全然そんな風に見えないんですけど。と思いながらシズカさんの様子を窺っていたら、シズカさんは何かを思いついたように手をぽんと叩いた。
「そうだ、アキラ君。いいことを考えたわ。あなた、学園中の全員に告白したら?男女構わず。そうしたら誰にでも闇魔法を発動することができるようになるわよ?」
「そんな無茶な……。」
「そう?とても実用性あると思ったんだけどね。
あれ変ね。なんか無性にイライラするわ。普段はこんなことないのに。悪いけど今日は帰らせてもらうわ。ごめんね、続きはまた明日しましょ。」
珍しく早口なシズカさんはそれだけ言うと、立ち去ってしまった。
僕はその場に一人残された。ぽつん。




