第40話 グリフィスとマリュウカ
金曜日を迎えた。ダンジョン演習の日だ。
今週も学園による無作為な抽選の結果、今日の僕のパーティーは
第4位:マリュウカ フォン ローゼンタール(魔法使い、女性)
大貴族の娘で平民を下に見ている。貴族の血か保有する魔力量は膨大。個人戦第二週でアキラと対戦。アキラが敗北し、評価を覆せず。自身と同じく貴族の子弟である取り巻きが3人いる。
第9位:マコト グリフィス(侍、女性)
孤高の女侍。猫好き。シズカに告白して玉砕した翌週、アキラこの学園で二度目の告白も再度の玉砕。アキラは土下座して告白を無かった事にしてもらう。
第15位:アン ボニー(女盗賊、女性)
レイラとともにアキラと毎週末ダンジョンに潜ったりデートする仲。お金とオシャレが好き。現状団体戦で唯一のアキラパーティー構成員。
第19位:大盾戦士貴族様(盾戦士、女性)
マリュウカの取り巻き。マリュウカのために大きな盾を両手に持って戦う。割と気が小さい。ダンジョン演習第二週で同一パーティー経験あり。
第23位:モブ風(風魔法使い、女性)
風魔法の使い手で威力はそれほどないが、精神的に落ち着いていて安定感があり。ダンジョン演習第四週で同一パーティー経験あり。
と僕アキラの合計6名。マリュウカがランク最上位だし取り巻きも一名いるから、マリュウカを中心にダンジョンに挑む事になるのかな?
と思っていた時期が僕にもありました。
ダンジョン演習開始前のブリーフィングタイムでマリュウカがパーティーリーダーを立候補し、そのまま特に皆の同意も得ずに始めようとしたところ、
「ダメだ、お前は好かん。」
とグリフィスさんが一蹴。場は騒然となった。
えっ、孤高ってぼっちの同義語じゃないの?トラブルメーカーの同義語なの!?
すると大盾戦士貴族様がすぐさま反論する。
「ま、マリュウカ様に何の不満があるんだ!確かに背も小さいし、胸も小さい割に、態度はでかいし、器量も大きいよ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさい、ブリギッテ!なんですの、その私の評価は!」
あれ?なんか間違った事言いましたか?とブリギッテが小首を傾げている。
ぷっ、と思わず噴いてしまった。即座にマリュウカに睨まれる。
僕は下手な口笛を吹きながら目を逸らした。っていうか大盾戦士貴族様の名前ってブリギッテって言うのか。へー。
「なんだ、取り巻きの評価を考えるに、貴様のような鼻持ちならないお高くとまった 貴族様には、やはりパーティーリーダーは無理なんじゃないか?」
「くっ。じゃあ、何よ。貴女がパーティーリーダーをやりたいっていうの?貴女みたいなトラブルメーカーに務まるかしらね?」
「いや、私はその器じゃない。そうだな…」
とグリフィスさんはメンバーを見回すと驚いたように言った。
「なんだ、誰も適任者がいないじゃないか。」
なんなんだ、この女性。誰も心当たりもないのにそんな事言い出したのか。
「きぃぃ!なら私でいいわね!」
と堪らずマリュウカ。「いや、ダメだ。」とそれに即答するグリフィスさん。
「そうだな、じゃあ…ん?」
僕のところで視線が止まる。猛烈に嫌な予感がする。僕は視線を逸らした。
パーティーリーダーをするのは別に良いけど、こんな雰囲気でやりたくないよ。マリュウカだってそこまで悪いとも思わないし。しかし無情にもグリフィスは僕を見てこう言った。
「お前やれ。良いな。」
「いや、マリュウカでいいじゃないか。」
するとグリフィスさんは僕に近づくと、僕だけに聞こえる声で「土下座」とぼそっ呟いた。
!
グリフィスさんにフラれたあの場面が強烈にフラッシュバックする。
くぅ、あの借りをここで返せってことかよ。
「ワカリマシタ。不肖、このアキラ。頑張らせていただきます。」
「何よ、私はそんな平民認めないわよ!」
「ふっ、お前が認めようが認めまいが、多数決で終わる。こちらは私とアキラとアンもいるから3人だ。そこのモブ風は棄権するみたいだしな。」
こくこくと頷くモブ風さん。
ん?なんかアンが悪い顔してる。するとアンが、
「あら、勝手に決めないで。私がアキラに入れると誰が言ったのよ。」
「でも、お前はアキラのパーティーメンバーだろう?」
「パーティーメンバーだからといって、いつも無条件にアキラに投票するものではないわ。しかもアキラが不本意なリーダーを、押し付けられそうになっているのであれば余計にね。」
「そんなことはないさ、なぁ?」
と僕に振るグリフィスさん。僕は黙って頷くしかない。
「そう?
それ以前にマリュウカさんは、押しも押されぬ大貴族の娘。あなたの気紛れに乗って、大した理由もなく反感を持たれるのはリスクしか無いわね。それに私も別にマリュウカさんのリーダーが嫌という訳ではないし。だから私も棄権させてもらうわ。」
「なんだと!」
「逆に…グリフィスさん、こんな一時的なパーティーではなく、貴女が私たち団体戦のパーティーメンバーになるなら、その価値を認め私はアキラのリーダーに1票投じましょう。」
「そんな事に同意ができるか!こんな軟弱な男と団体戦を共に戦うなどポイントを捨てるようなものだ!」
ぐはっ!容赦ない言葉の刃が僕のハートに突き刺さった。でも、情けないフラれ方をしたことをバラされる訳にはいかない。ここは我慢だ。
「あらそう?でも貴女はこの軟弱な男とともに戦う以外の選択肢はあまり無いのよ。そこの貴女の大嫌いなマリュウカさんか、テルキナさんのところか、アキラのパーティーしか空きが無いのだから。」
「そんなバカな!他に2パーティーあるはずだろう!」
アンは、その2パーティーが埋まっている説明をした。モブ風さんがモブパーティーが既に埋まっている事を補足して同意してくれた。
「なんだと…。マリュウカみたいな貴族は絶対に嫌だ。テルキナは多少マシだが大差ない。くっ…そんな馬鹿な!」
グリフィスさんは天に吼えた。




